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第30話 ※

 黒木は「覚悟しろ」って言ったけど、週末は俺にとって本当に幸せしかなかった。  俺を抱く黒木は優しすぎるくらいで、すごくすごく幸せになった。黒木と繋がると、なぜか悲しくもないのに涙が出た。  黒木は俺の涙に気づくたびに「痛いか?」「つらいか?」とすぐに心配する。黒木の優しさに胸がぎゅっと苦しくなった。  終わったあと、黒木は必ず俺を腕枕で抱きしめて眠る。俺、彼女じゃねぇし……恋人じゃねぇのに……。そう思うのに、黒木の腕の中はやっぱり嬉しくて幸せでドキドキした。  昼間は二人でダラダラした。洗濯と掃除をのんびりやって、動画配信で海外ドラマをぶっ通しで観て、夕方になったらスーパーに行った。  黒木がタコパをしようと言って、たこ焼き器まで買い出したからめっちゃ笑った。  楽しくて幸せすぎた週末が終わる。明日一度帰ればまた来れるのに、それすらも嫌だ。ずっと抱かれ続けたからなのか、黒木と離れるのがものすごく寂しい。 「黒木……寝ちゃった?」  事後のあと裸のまま腕枕をされて、黒木の心から聞こえる『可愛い』を浴びながらまどろんでいた。  心が静かになって、俺は黒木の頬を指ですりすりと撫でた。 「……ん、どうした?」  黒木が柔らかく微笑んで俺を見る。髪の毛をいじるように頭を撫でられて、ゾクッとして思わず目を閉じた。 「……も……しない?」  また後ろがうずいてきてやばい。黒木がまだほしい……。 「この週末少し無理しただろ。お前、もう身体休めたほうがいい」 「全然無理してねぇよ。今日まだ一回じゃん。昨日も……一回しか抱いてくれなかった」 「くれなかったって……」  黒木があきれたような困った顔をする。 「だって俺……まだしたい……」  恥ずくて黒木の肩口に顔をうずめた。 「黒木はもう……したくねぇの……?」  もっといっぱい抱いてほしい。俺がもう無理ってなるくらい抱いてほしい……。 「……ほんと……お前は……」  はぁぁと深いため息が耳元にかかってゾクッとして、でも胸がツキンと痛んだ。  黒木があきれてる。言わなきゃよかった。我慢すればよかった……。でも週末が幸せすぎて終わるのが寂しくて、もっと抱いてほしかった……。 「お前……俺がどんだけ我慢してると思ってるんだ……」 「……え、我慢してたの? なんで?」  黒木が我慢してるなんて全然わかんなかった。うわ……どうしよう、めっちゃ嬉しい。 「じゃあ……もっかい、しよ?」 「……お前さ」 「うん?」 「お前の『好き』は……ほんとに……親友としてなのか……?」 「え?」  なんでいまそんなこと聞くんだ?  俺だけ違う『好き』だったら困る?  そういうのじゃねぇって言ってんのに。俺のこと心配してくれてんのかな。黒木やっぱ優しいな……。 「そんな心配すんなって。そういう意味の好きじゃねぇってば。黒木と同じ『好き』だから。安心しろよ」 「……そうか」    顔を上げようとしたけど、黒木に頭を押さえられて動けない。 「黒木?」 『ずるい質問だったな……。確信がなければ言えないなんて……』 「確信?」  なんのことかわからなくて聞き返すと、俺の頭を押さえてる黒木の手がピクリと反応した。   『なんで……っ。本……っ』 「本?」  黒木何言ってんの?  心を読むとまた本の世界で、俺はあきれて笑った。 「また精神統一か?」 「…………だ、から……我慢してるって言っただろ」 「しなくていいってば。なぁ……もっかいしよ?」  黒木から返事が返ってこない。  俺はそっと手を伸ばして、黒木のそこにさわってみた。 「おい……っ」 「あ、黒木の、ちょっと硬くなってる」 「おい野間……っ、……ぅ……」  黒木の気持ちよさそうな声がもれ聞こえて、嬉しくなる。  毎回俺ばっかり気持ちよくて、俺がなにかしようとするとすぐに止められた。俺だって黒木を気持ちよくさせたい。 「野間……っ。俺はいい……から……。は……ぁっ、離せ……」 「なんで? 俺だって――――」 「お前はただ気持ちよくなってればいいんだよ」 「なんだよそれ……あ、はぁっっ、ん……っ」  腕枕を外されて、黒木が覆いかぶさるように首筋に舌をはわせてきた。  黒木がその気になってくれた。やばいすげぇ嬉しい。  でも黒木のものをさわっていた手は外された。  俺も黒木のことイかせたいのに……。 「……今度、ゆっくり頼む」 「今度……うんっ」  黒木の「今度」という言葉が無性に嬉しかった。  自分がなんとなく不安だったことに、いま気づく。  週末が終わっても黒木とこうしていられるのか、という漠然とした不安。でも気づいた瞬間に解消された。 「黒木」 「ん?」 「めっちゃ大好きっ」  黒木と親友になれて本当に良かった。俺、もうずっと黒木とこうしていたい。  黒木に唇をふさがれた。いつもとどこか違う荒々しいキス。 「んっ、ぁ……っ、はふ、んん……っ」 『……スイッチ入れたのはお前だからな』 『え、スイッチ? なんのこと……?』    黒木のキスはいつも優しいから、こんなのめずらしい。  でも気持ちいい。なんか食べられちゃいそう……。  

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