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第34話

 放課後、黒木は俺に「待ってろ」とだけ言って中庭に行った。  昨日泊まったから今日は行かない日なのに、黒木は待ってろって言った。俺、待ってていいんだ。  きっと告白は断るから、だから待ってていいんだ。良かった……嬉しい。そう思ってすぐにハッとなった。  良かった嬉しいってなんだよ……。  黒木はただ親友に待ってろって言っただけだ。  今日断ったからって、明日はわからないじゃん。その次もこれからもずっと、わからないじゃん。別に黒木は、俺を選んでくれてるわけじゃないんだから。  そう気づいて傷ついてる自分に動揺した。  俺、黒木に自分を選んでほしいんだ……。  お前だけだ、って言われたい。  え……俺、黒木のこと……恋愛として好きなのか?  これって、そういうこと?    …………わからない。  俺にとって初めての「好き」が黒木だから、友達なのか恋愛なのかわからない。  でも、黒木が誰かと付き合うのは嫌だ。  あの優しい黒木の笑顔が、別の誰かに向けられるなんて嫌だ。  優しく頭にポンと乗せる手も、優しいキスも、優しく抱きしめる腕も……全部俺のもんだ……。  黒木が俺以外の誰かを抱く……想像するだけで泣きたくなって胸が張り裂けそう。  これって嫉妬……?  友達だったら嫉妬なんてしないよな。  嫉妬するってことは……そういうこと?  これが……恋……?    そ……っか。俺、ずっと黒木に……恋してたんだ。  黒木への「好き」は……恋愛の好きだったんだ。  俺、黒木の恋人になりたいんだ。  黒木に俺を選んでほしいんだ……。    なんでいままで気づかなかったんだろう。  黒木に抱かれて幸せなのは、俺が黒木に恋してるからだったんだ……。  ずっとそばにいて離れたくないのは、恋愛の大好きだからだったんだ……。  この「好き」が……恋なんだ……。  黒木を思い出したら胸がぎゅっと苦しくなる。なぜか泣きたくなる。嬉しくて胸がわーっとなる。  これが……恋だったのか……。    でも自分の気持ちに気づいたとたんに失恋だ。  だって、黒木は俺を好きじゃない。  黒木の心から、俺を好きだなんて言葉……聞こえてきたことねぇもん……。    俺はリュックを背負って教室を飛び出した。    俺は駅に向かって走った。  黒木になにも言わずに学校を出てきちゃった。  だって今日はもう黒木に会えない。  こんな気持ち、気づきたくなかった。ずっと友達として好きなんだって勘違いしたままでいたかった……。    こんな気持ちで黒木に会ったら、脳内ダダ漏れで俺フラれて終わっちゃうじゃん……。どうしよう……黒木と終わっちゃう……。うそだろ……っ。  胸が苦しくて涙が出てきた。俺……黒木を失いたくない……。  いままでは黒木と同じ力が嬉しかったのに、いまは黒木に力なんかなければ良かったのにって思ってる。だってそれなら、簡単に気持ちを隠してそばにいられるのに……。  家に帰る気力も出ない。  俺は駅裏のベンチに座ってボーッとした。  黒木が好きだと自覚したとたんに失恋したことも、一番ホッとできる黒木のそばが一番安心できない場所になってしまったことも、ショックが強すぎて動けなかった。 「あれ? 野間?」  聞き覚えのある声がして顔を上げると、田口が俺を見下ろしていた。 「田口……」 「やっぱり野間だ。どうしたの? 具合悪い? 顔真っ青だよ?」 『あ……目が赤い。もしかして泣いた……?』 「……いや、大丈夫。そういうのじゃないから……」 「……じゃあ、なにかあった?」 『こんな野間初めて見た。これはただ事じゃないよね。どうしたんだろう、話だけでも聞いてあげたら落ち着くかな……』  ベンチの隣に腰を下ろして心配そうに俺を見る田口に、思わず涙腺がゆるんだ。  いま優しい気持ちが流れてくるのはやばい……。  あったかくて、それだけで心にしみる……。   「の、野間……大丈夫?」 「……うん、ごめん。……見なかったことにして……」  制服の袖でグイッと涙を拭うと、「あーあーダメだって」と田口がテッシュをくれた。  田口は俺みたいにチビじゃないけど、線が細いからか小柄に見える。優しい笑顔が印象的で、人の良さそうな木村とお似合いだとずっと思ってた。二人とも良いヤツだとか……本当にお似合いじゃん。

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