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第36話

「……どっちから? どっちから好きだって言ったんだ?」 「えっと、俺……から……」 「……そっか……田口から言ったんだ……。すげぇな。どうやったらそんな勇気……出んの……?」 「すごい悩んだよ。俺は一年からずっと好きだったから……。たっぷり一年悩んだよ。また同じクラスだってわかったとき、もう気持ち隠してそばにいるのがつらくなって……だからフラれる覚悟で告白しちゃったんだ」  田口はそう言って眉を下げた。   「……俺は…………フラれる方がつらくて言えねぇや……。田口すげぇな……」 「いや俺は……」 『友達でいるのがつらくて……。キスしたいとか……木村の全部がほしいとか……気持ちが抑えきれなくなったなんて言ったら引かれるかな……』  田口、可愛いな。  俺たちもうヤっちゃってるなんて言ったら……絶対引くよな……。  絶対言えねぇわ……。 「でも黒木は、野間のことすごい大切にしてるよね。もう別格あつかいだもん。……もし野間が告白して……黒木が同じ気持ちじゃなかったとしても、野間を手放さないと思うな。黒木って冷たく見えるけど、すごい優しいよね。野間には特にさ」 「……うん。すげぇ優しい……。優しすぎて……失くすのが怖えんだ……。黒木に嫌われたら……俺もう学校行けねぇかも……」  それくらい失いたくない。俺の世界から絶対に消えてほしくない。 「黒木は、野間を絶対に嫌わないと思うな」  うん……きっとそうだと思う……。俺も……そう思う。  でも、俺だけ黒木を好きだってわかったら、きっともう黒木は俺を抱かない。  それがわかるから……絶対に言えない。  俺は、黒木の全部を失いたくない……。  スマホのバイブが鳴っていた。さっきから何度も鳴っていたけど、俺は出られなくて放置していた。 「野間、電話鳴ってない?」 「……うん。たぶん、黒木……」 「あ、もしかして黙って帰ってきちゃった? 心配してるよきっと」 「……うん……だよな……。でもいま黒木と普通に話せる自信なくてさ……」 「あ、じゃあ俺出ようか?」 「……え?」 「いいからいいから」  手を差し出して早く早くと言う田口にスマホを渡す。 「もしもし? ……あ、黒木? 俺、田口だよー。ごめん、野間勝手に借りて帰っちゃった。いま野間トイレ行っててさ。……うわーそっかぁ、ごめんごめん。……うん、伝える。……うん、じゃあねー」 『黒木すごい必死だなー。この二人絶対両想いだと思うんだけど……』  両想い……。その言葉に胸が痛くなった。  俺は心が読めるから、それはないってわかってるから胸が痛い。期待することもできないってつらいな……。 「黒木が、心配してすごい探したってさ。連絡くらいしろって怒ってた」 「……そっ……か。……すげぇ助かった……ありがとな……」 「こんなのお易い御用だよ。……黒木、俺が野間だって思って初めすごい剣幕で、大丈夫か?! って言ってたよ。本当にすごい心配したんだね」  ……うん、わかってた。すげぇ心配かけるってわかってた。それでもいま電話に出たら泣いちゃいそうで……声が震える気がして出られなかった。 「田口がいてくれて、ほんと助かったよ……」 「役に立てて良かった」 「……また、話聞いてくれる……?」 「もちろんっ。いつでもっ」  優しく笑う田口に心が救われた。  もし黒木と出会わなかったら、あのクラス替えの日、田口を見つけてたら絶対に一番に友達候補になってたと思う。こんなに心があったかいヤツには、なかなか出会えない。  家に帰ったあと、黒木にいいわけの言葉とごめんをメッセージで送った。  また電話が鳴ったけど、俺はどうしても出られなくてそのまま放置した。  ごめん……黒木……。  明日からはちゃんと普通に戻るから……。  普通に見えるように頑張るから……。  心の声は呪文でなんとかごまかせないかな。  呪文にはそんな関心がないし、黒木の本みたいに案外聞こえないかも。  よし、やってみよう。  この気持ちは、黒木には絶対に気づかれないようにする。  黒木とずっと一緒にいたい。ずっと抱かれていたい。だから絶対に気づかれないようにするんだ。    何度も鳴る黒木からの電話に、気にかけてもらえて嬉しい気持ちと、出られない罪悪感とで心がごちゃごちゃになって俺は眠った。  

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