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おわり

目が覚めたのは3日後で。 点滴を打たれて眠ってた。 目覚めると シンが床の上に正座させられて、ユキ先生に説教されていた。 それを見て笑ってしまった。 ユキ先生を呼んだのは、オレの心を心配してのことだろう。 もう、大丈夫なのに。 「本当に!!こんなクソ男どこがいいんだ?キョウくん!!」 先生はオレに聞いてくる。 そこはオレも答えられない。 だって。 理由も何も。 最初からシンはオレのモノだったのだ。 でも答えられないオレを見て、なんかシンはショックを受けている。 「いいよね。共依存だとしても。君達の関係性」 珍しく先生が羨ましそうに言った。 ユキ先生は殺されることなく、生きたまま番と別れた数少ないオメガだが、先生は今でもその番を愛してる。 どんな人だったんだろう。 ふと思う。 「カウンセリングは必要ないみたいだけど、一応話を聞いておこうか」 先生は部屋から俺シンを追い出して、オレに食事をとらせながら言う。 オレはベッドの上で、お盆の上のスープをすする。 食欲はないが、食べないとシンが心配するから。 「帰ってきたね、現実に。辛くない?」 先生が思いやるように言う。 「辛いけど。でも。誰かにシンを盗られるより良いです」 オレは正直に言った。 「そう・・・」 先生はそれ以上何も言わなかった。 それが嬉しかった。 「オレの世界には最初からシンしかいないから。オレがシンを歪めたのかも。シンにもオレしか居なかったから」 可哀想なシン。 誰だって選べるのにオレなんかに固執して。 でも。 「オレの世界は二人で閉じ込められていたあの部屋で終わりなんです。幸せだった。ずっとあの部屋で二人でいたい」 それだけがオレの望み。 オレとシンは。 二人しか居なかったから、もつれあって、絡まりあって、もう、離れることなど出来なくて。 でもそれが1番心地よくて幸せなのだ。 「・・・・・・君がいいなら」 先生が優しく頭を撫でてくれた。 「僕も君さえ幸せなら何だってしてあげたいとおもってるんだよ」 先生の言葉は。 本当だと思った。 「でも。部屋の外でも生きたいから。オレ達みたいな子達のために何か出来ることをみつけます」 みんながみんな、オレとシンみたいに幸せになれるわけじゃない。 「そう。僕に出来ることなら相談してね」 先生の言葉にオレは頷いた。 「絶対に。絶対に。シンはともかく、キョウくんだけは僕が守るからね!!」 何故か先生はシンに怒りを向けていた。 「本当にあのクソアルファには勿体ない!!」 先生の怒りだした理由がオレには良く分からなかった。 先生はシンにオレに無理をさせないように、と何度も言ってからシンに送られて帰っていった。 シンはオフィスによってから帰ってくると言っていたので、オレはまた深く眠った。 目覚めたら、シンが横にいた。 オレを抱きしめて眠ってて。 とても幸せそうに見えた。 「愛してる。愛してる」 オレは囁く。 部屋の中で閉じ込めてしまったのはオレだ。 まだ幼いシンをオレに縛り付けた。 「キョウちゃん・・・アルファでごめんね」 シンが寝言のように言ったから、胸が締め付けられた。 いや、寝言のようにじゃなくて、寝言なのか。 シンはもう何も言わなかった。 オレも。 オレ達は子供の時のようにただ抱き合って眠った。 そして。 オレはシンに子供の頃話した、海よりも大きな水族館の夢を見た。 オレの作り話、嘘は。 現実よりも美しかった。 嘘だったけど。 ソレはシンを楽しませるための、シンのための。 心からの嘘だったから。 オレはね。 シン。 嘘の方が好きだよ。 夢の中のオレもシンも。 幸せだった。 オレが作った嘘の水族館の中で。 そして目を覚ましたオレも。 シンがいるなら。 幸せなのだ。 おわり

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