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第2話 質疑応答、教えて!蘇芳先生

〈教えて!蘇芳先生!〉 新人兵士たちから蘇芳にいくつかの質問が届いた。 Q、蘇芳様を抱いてみたいです。抱いても良いでしょうか。 A、私は人にどうこうされたい人間ではなく、人をどうこうしたい人間である。君と同類ということだ。 よって断る。次! Q、ノーマルの男性を好きになってしまいました。どうやったらその気にさせられるでしょうか。 A、なるほどゆゆしき問題である。 何がどうゆゆしいのかを問う前に、まずは君が受けなのか攻めなのかを明確にしなくてはならぬのだが、それについては質問内に書かれていない。それはいったい君が書き忘れたのか、或いは恥ずかしさのあまり意図的に明記しなかったかは分からない。 だが、「どうやったらその気にさせられるでしょうか」という、やや物欲しそうな文面から察するに、君はおそらく受けなのだろう。そこを大前提として鑑みるに、では何がゆゆしいのかと考えると、それすなわち相手が「ノーマルの男性」であるが故に、君の立場を極めて窮地に追いやっていることに尽きる。 言うまでもなく、他人の性癖を、こちらの意のままに操ろうとしてできるものではない。いかにも、それは難しい。 ならば諦めれば良いのかといえば、それもひとつの解決策ではあるが、君はわざわざ恥を偲んで上官の私に文で相談をしてきた。よほど諦められない相手なのだろうとは察するに余りある。 では諦めないためにはどうすればいいのか。 ここで一旦、ノーマルな男が男を抱くのに何が一番ネックになるのか、を真剣に考えてみる。すると考えるまでもなく、それはいそしむべき穴の種類が違うからだとわかる。 女の穴か、ケツの穴か。究極の二択だ。 と、一見思えるかもしれないが、しかし果たして本当にそうだろうか? 例えばスマホを考えるに、あんなものはもともとこの世に存在しなかった。それが通信機器の進化に合わせてポケベルが流行り、ピッチに移行し、触角の生えたガラケーから、二つ折りに変わり、ついにパソコンのミニ版、スマホになった。 かつては「携帯なんて」と馬鹿にしていた老人たちは、やがてガラケーにしがみつき、「わしゃ絶対にスマホにはせんぞ!」と頑張っていたのも束の間、店頭からガラケーが消え、5歳の孫には馬鹿にされ、せめてジジイの尊厳として、いずれ嫌でもスマホを購入せざるを得なくなる。 そうなると、人はどうするのか。そう、使いこなそうと必死になるのである。 だって電話だ。災害時に使い方を知らなければ、命取りになるのだ。さらに妻から「お父さん、大根買ってきて」を見逃しつづければ、家庭崩壊の序曲である。これはマズい、いかにもマズい。というわけで、必死になって習熟するのである。 ちなみに私も頑固な方であるから、もしも令和に生きていたら、おそらく最初はスマホに抵抗を示したろう。 だが発売後5年くらいでその意志は揺らぎだし、もともと買うつもりだったのにも関わらず「今はスマホの方がガラケーより安いんですよ」と営業の口車に乗せられたふりをして、手始めに格安スマホを手に入れ、やがてその魅力に取り憑かれる。 次は性能にこだわり始め、あとほんの二千円上乗せするだけでキャパが◯ギガ増えるだの、やれ画素数が上がるだのと言って、二千円が四千円に、一万円に跳ね上がり、だんだん感覚が麻痺してきて、だいたい六万円くらいの物を買う。 そうなればあとは泥沼で、発売のたびに最新機器に思いを馳せ、昼はアンドロイドにWindowsをインストールするなどしてほくそ笑み、夜は夜で、好きな人の痴態を撮り溜めた画像をいそいそとお供にするだろう。そんな気がする。 同じことが、君の思い人にも言えるのだ。 つまり、人は未知なものにも、それがどうしても必要だと気づけば慣れようと努力する。 では、君が彼にとって努力したいほどの存在になるためにはどうすれば良いのか。もうお分かりだろう。彼にとって、必要不可欠な人間になればいいのだ。具体的にいうと、性的な意味で必要だと思わせる。 例えば、ことあるごとに彼に「知ってます?自慰のとき女で妄想してると早死にするらしいっすよ」とか、「自慰を一週間我慢すると記憶力が飛躍的にアップするって知ってますか」などと根も葉もない事を吹聴し、彼のデスクにはさりげなくBLの雑誌を置いて、意図的に禁欲的かつ女以外の選択肢に目がいくように手配する。 それをふた月もつづけた頃には、彼は欲求不満でげっそりとしてくるだろう。 そこで一発、君は大胆に胸の空いた服なりを着て、彼のそばに意味もなく侍り、いかにも「好きにしてイイんですよ」感を醸し出す。さすれば、飢えたケダモノのようになっている男は必ず目の色を変えるだろう。 このとき、彼の好みのファッション傾向を押さえてあればなおベストだ。ちなみに私は原色系よりも、清楚な感じでありながら、隙があるスタイルが好きだ。しかし文章にすると、なんとあざとい感じのスタイルに、いとも簡単に引っかかっていたのだろうと驚くのだが、まあそれはそれとして、兎も角それで男はその気になるのだから、あとは気合いで押し倒せばよろしい。 そこでまた頭をもたげてくるのは、例の穴の問題であるが、なに、大丈夫だ。選択肢はたったの二択。女の穴か、君の穴だ。してみると我々人類はどうだ。ことここに至るまで、ポケベルからピッチに、ピッチからガラケーに、ガラケーからスマホにと、必要とあらば前妻を捨て、ホイホイと新しい女に乗り換え、乗りこなしてきたではないか。 穴の種類を変えるなど、縦鍵が横鍵に変化した程度の変化に過ぎぬ。しかもだ。鍵はその後もカードキー、指紋認証、顔認証などと進化していくが、君の穴はそれ以上、手術でもしない限りは増えたり減ったりすることはない。 よって大丈夫だ。 と言い切るのは早計で、それでは仮に熱心なキリスト教徒と仏教徒の二人が真剣交際したが、不都合だから君は改宗てくれと言われたとしても、「あっはい、分かりました」と二つ返事で変えられるものではない。改宗というものは究極の選択だ。それと同じように、いかに二択だからといって、必ずしも彼が女の穴と君の穴を両天秤にかけて、君を選んでくれるという保証はない。 しかしである。 こと結婚の話に至ったとき、相手の宗教に改宗してでも結婚に至るケースはある。 そこまで、人を追い立てるものは何か。 愛だ。畢竟( ひっきょう)、愛があれば宗教の壁は乗り越えられる。いわんや、たかが交尾をや、である。 よって、まずは君を好きになってもらい、必要不可欠な存在だと感じさせることが先決だ。 そこまで叶って、愛が芽生え、それでも改宗はできない、君の穴には飛び込めない。とのたまう時は、そんなケツの穴の小さな男は、君の方からお断りせよ。 さもなければ、のちのち、やれ目玉焼きには醤油に決まっている、俺は◯◯メーカーの社長が嫌いだから◯◯メーカーの酒は飲まない、などと面倒臭いことを言っては、君をがんじがらめにしてくるだろうから。 そうして、ついに思い叶わなかったその時は、私のもとへ来なさい。上官として、慰めてやらぬでもない。 ではまた。

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