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第8話

夜の屋敷は静かで 外の野鳥の声や風に揺れた葉の音がする 月明かりしかない通路をログナスと共に歩んでいる まるで自分の住んでいる屋敷ではないような 不思議な感覚がした 少し前を歩くルグナスの横顔はいつも通り凛としていて そこだけは日常を感じられて安心感を得た 僕はログナスがいるんだから安心なのは間違いない 国内一の強者がいるときに夜襲なんて運がないな敵も それよりユダが心配だ やっぱりユダについていって手助けする方が良かったかな? でも以前の僕のように戦えないし足手纏いになるかもしれない どっちみちユダを説得なんてできないからな僕 ユダがすごい強いのは知ってるから大丈夫だと信じたい 多分過去の出来事で、大事になってなかったなら 結局大したことない出来事なんじゃないかな… 楽観視しているかもしれないけど 子供の頃に戻った僕は精神もどこか幼くなってしまったのかもしれない 鼻歌を歌いながらログナスと歩く その様子に驚いた顔をしたログナスだったけど 少し口角を上げ笑みを浮かべてくれた 予想出来なかった出来事なのに僕は浮かれていた セウスは知らなかった 実際この出来事は王族を狙った悪意ある犯行であり それを考慮された敵襲だということを 「何者だ」 ログナスが動きを止め僕を背にして告げる 廊下の隅の暗がりに向かってログナスが睨む 「わ、私はお屋敷の使用人でございますぅヴァーミリオン様どうかご慈悲を~うぇええんもうお菓子たべすぎませんから~」 暗がりからゆっくりぷるぷると震えた人物が現れた 「うぅううぅ割った花瓶ちゃんと謝ったのにぐすぅひどいですユダさぁ~ん」 「あれ、カールトンじゃないか」 「あっ!!坊っちゃん!!坊ちゃんに会えるなんて幸運でしょうか!ふふふあっ!ユダさんに言ってくださいませんか?割った花瓶くっつけて直すまで寝るの禁止なんて意地悪するなって!お願いしますよ~!もう三日寝てないんですよ!!もう私辛くって辛くって」 「落ち着いてよカールトン!ユダがそんな意地悪なんて…確かに皮肉屋で意地悪な時もあるけど三日も寝るななんて、いくつ割ったの?」 べそをかいて泣いて震えていたが質問されたカールトンは 視線を逸らしカクカクと変な動きをした 「えぇっとぉ、坊ちゃんいいお天気ですね!お庭でお散歩のなんていかがですか?お茶とお菓子ご用意いたします?」 「カールトン落ち着いて。今夜中だよ。でいくつ割ったの?」 「……二つ、いえあの、九つですぅ~~~お仕置きはどうかお許しを~うぇえええぇぇん」 「泣かないで僕は怒ってないから」 「ほ、本当でございますか?あぁなんてお優しい坊ちゃん!!!天使様なんですね!」 「どうせユダにも数誤魔化して報告したんでしょ?どうせバレてるよ」 だからこの前展示品室の前を通りがかった時 虚無顔で花瓶の発注なんてしていたんだな ご苦労様だなユダ… カールトンはこの屋敷の執事見習いの使用人だ 僕よりすこしだけ身長が高く 細身で淡いブラウンのふわっと跳ねた髪の少年だ 泣き虫でよくユダに叱られている 反省はするがすぐ忘れて窓をわり花瓶をわり キッチンで夜食を頼んだら夜中にキッチンを火の海にした強者だった よくお仕置きで庭の木に縛られている 本人はユダがいないと縛られたまま寝ている 「そんなぁ~。あれお二人はなぜこんな夜更けに?もしやおデート中……も、申し訳ございません私ったらあぁまた怒られるぅ坊ちゃんだずけでぐだざいましぃ~」 ええー大泣きされても困るんですけど! 「ていうかデートじゃないから!ユダからの連絡きいてないの?」 「れ、連絡でございますか?お、お怒りになり直におっしゃらず通信越しに御沙汰を?うぅぼくここにいたいよぉ~うぁああん坊ちゃん離れたくありませんんんうぅ」 僕の腰に抱きつきながら大泣きするカールトン カールトンは感情が昂ると話を聞けない子だ いつもなら無言で睨んで引き剥がす事をユダが対応してくれる 「久しぶりだなカールトン。セウスが困っている離してやってくれ」 横からログナスが困惑した様子で助け舟を出してくれた 身の回りにカールトンのような人はいなかったんだろうな 「はぇっ!?ごめんなさい坊ちゃん私なんてはしたない」 床にピッタリとくっついて謝られる 「もういいから落ち着いてよカールトン。それで連絡内容教えてくれない?」 この屋敷の使用人関係者はお母様とユダの判断で信用できるものに提供される我が家の紋章が入ったブローチをしている 「れんらく?か、確認してみます」 カールトンはブローチに手を当て暗号化された魔術式を展開し魔力を流す これが非常に難しく素人には手が出せない魔道具だ 製作者はユダだと聞く 「ふむふむ、なるほど~、えっ!!なんと!」 一人で納得して騒いでいる 大丈夫なのか? 「ご報告したします。屋敷の正門から十五人、裏庭方面と裏門に合わせて十八人、合計確認できる範囲で三十三名の侵入者が確認できたそうです。奥様はご無事で数人の使用人と近衛騎士が二名側におります。ユダさんは安全の確認の後屋敷の宝物庫と資料室を封印後裏庭と裏門の対応に向かわれたそうです。各使用人は決まった配置に待機し応戦だそうです」 「……そうか、ありがとうカールトン」 「いえ、些事でございます。ほかご用命あらばなんなりと」 先程の様子とは違って静かな動作と気配 これが我が家の使用人たちだ 「後一つ、ユダさんからお二人にお伝えすることがあるようでございます」 「なに?」 「夜更かししても朝寝坊はさせませんからね坊ちゃん。ログナス様も甘やかしすぎては同罪ですからね。だそうでございます。ご報告を終了いたします」 深く一礼したカールトン 所作は美しかった 「なら早く片付けて部屋に戻らないとなセウス」 「そうだね。ユダは怒るとねちっこいからなぁ」 カールトンが激しく頷いている 「それでは侵入者対応をなさるですねお二人とも。お決まりになったことに口を挟むことは致しませんがユダさんがお決めになったことですし、ですがどうかお気をつけてくださいまし」 「うん。ログナスがいても僕も気をつけてそばにいるよ」 「任せてくれ」 そして僕たちは正門へ向かった 「なんでついてくるの?持ち場向かっていいんだぞ?」 ぷるぷると首を振られた 「ユダさんがいなくてヴァーミリオン様がいらっしゃっても坊ちゃんのお側でお守りするのが使用人の使命でございます!ユダさんに報告もしましたし大丈夫です!!私もお守りしますね坊ちゃん!」 張り切っているようだ まぁ一人でも戦力が増えるなら問題はないはず この屋敷の使用人は屋敷統括執事長ユダが選別した戦える使用人たちで構成されている 「あれ、正面玄関の広間が騒がしいですね。坊ちゃんお気を引き締めてくださいね」 僕の隣にカールトンが並び 前をログナスが先行する 驚く光景が目に入ってきた 十人ぐらいが植物のようなものに巻きつかれ暴れている 暴れるほど絡みついて四苦八苦しているようだった あれは…… 「あれはユダさんの防衛罠魔法装置ですね。非常時に壁の模様や装飾品、絨毯などの模様が形を成し侵入を確保するみたいです。わぁ~むごいーふふここだと拘束だけですが、中心部に近づくほどえぐい仕様の装置もあるみたいですえへへ」 テンションが上がっているようだカールトン 使用人同士仲が良くて信頼関係があるみたいだ ぐるぐるまきにされる侵入者を見て喜んでいる 「逆になんか色々可哀想な奴らだなぁ」 「そうですねぇーでも自業自得ですよこのお屋敷に攻め入ろうなんて甚だしいです!!」 これでは出番ないかな そう思っていると前の方で光が見えた 拘束されていない後方の奴らが魔術で植物を吹き飛ばしたらしい 「セウス、カールトン。俺が前に出る。何人たりとも手は出させないつもりだが用心はしてくれ。カールトンもセウスを頼む」 「お任せください!!」 「大丈夫だとわかってるけど派手にしないでくれよログナス。後ろから見てるよ」 「ああ、俺を見ていてくれ」 僕の頭を優しく撫でて広間へ向かった 僕たちも後に続く 侵入者たちはなんとか抜け出したようだ だいぶ捕まった奴らは疲れた様子 さすがユダ自作、意地が悪い 「クソなんなんだこの屋敷!!」 「魔力が吸われちまったみてぇだ体が動かねぇ」 「ずっと逆さ吊りだったから気持ち悪りぃ」 「ウッ…あんな………クソ……初めてだったのに」 阿鼻叫喚だったようだ 最後のはなんか違くない? まぁいいけどさ 「お前ら屋敷の奴らか!ふざけやがって」 侵入者たちが気付いたようで武器を構えた 「屋敷の王族を差し出せ!さっさと差し出したら殺さないでやってもいいぜ」 奥にいた面長の顔の男が言った やはり住人である僕とお母様が狙いか 「それは断る。貴様らも投降するなら殺しはしない」 「ガキが俺たちに敵うと思ってんのか?はっ痛ぶって吐かせればいいか」 この時すでに一国の総力である騎士団に一人で相当するログナスとは思うまい可哀想にな 「やっちまえ!」 五人がログナスに襲ってきた グハァッ!? ブフッ!? …ッ!? ブハッ!? ゲハッ!? 一瞬だった 姿が消えたと思ったら五人とも吹っ飛ばされていった さすがだなぁ 昼間の訓練がお遊戯と呼ばれたことがよくわかる 「なんだこのガキつえぇぞ!」 「騒ぐな。作戦通りやれお前ら」 奥にいた沈黙していたターバンを巻き灰色の髪を立たせた頬に入れ墨が入った男が言った 「チッ!ヤギでやるぞ」 作戦名か? なにか仕掛けてきそうだ ログナスは静かに静観して構えている 七人がログナスに近づく 「風精霊よ風を纏わせ暴れろ!」 「炎よ地を張って滾れ怒りを燃やせ!」 「土請願。土塊濁流」 「くらいやがれ雷魔法雷帝の鞭」 それぞれ魔道具を介して魔術を発動した 彼らの属性と魔力が反応して輝く 一人一人なら大したことはないが物量があるぶん 危険だ 防御魔法でも展開した方がいいかと少し思ったが 杞憂だった 「邪魔だ」 一閃 ログナスの聖剣に力が迸り青白い閃光が走る それで全部の攻撃を無効化し襲ってきた奴ら全員を倒した 「わぁ~~さすがですねヴァーミリオン様!見ました坊ちゃん!凄かったですね!あっこっち見てますよ坊ちゃん!!手振りましょうよ!!」 カールトンがわいわいと騒ぐ 場面にそぐわないテンションだ チラッとこっちを見たログナス それに強制的に手を掴まれ手を振る仕草さをさせられた 律儀にログナスが手を振りかえしてくれた 参観日か 「こ、こけにしやがってなにもんだこいつ」 「………クルースベル国内一の精鋭騎士ログナス・ヴァーミリオンかお前」 「そうだが」 「なんだと!?このガキがだと!だけど確かにつえーな。….どうする?」 不安そうに面長の男が尋ねるが 刺青の男が鋭く睨みつけ ログナスを見た 「戦いようはある」 刺青の男は鋭い視線でログナス達をみやる 「……お前らの隊も俺の指揮下に置く従え」 「な、なんだと!!」 「ビビってたくせに何ができる。死にたいなら好きにしろ」 「そしてお前、セウス王子だな」 僕に視線が集まった 後ろで隠れていたがやはりバレてしまった まぁ手を振ったりしたしな 「……」 「王子は生捕だ殺すなよ」 「させるものか」 「そうです!指一本触れさせませんよ!」 二人が庇ってくれる 守られてばかりじゃない 僕も知恵を使って戦わないと 「囲め」 それを合図に拘束されてたやつを含め十人が僕たちを囲む 「……」 ログナスは剣を構え周囲を窺う 「ログナス!僕たちの身は自分たちで守るから!そっちはそっちで専念してくれ!」 カールトンの横に並び魔法剣を構える 我が家にある武器の一つだ 魔石が五つ埋まっておりそれぞれの属性の魔法を安定させ威力を高める効果がある 「……俺一人で片付けられるが、セウス大丈夫なのか?」 きっと考えてくれたんだな 僕が日々特訓し、いい実戦の機会を求めていたことを 「大丈夫!任せて!」 ログナスは構えたままこちらに笑みを浮かべてくれた それで十分だ 「ふん、俺が騎士の相手をする。お前らは王子らの相手をしろ」 敵は分散して襲ってきた ログナスは刺青男と合わせて三人 面長の男を含め七人がこちらにきた 「坊ちゃんも戦うのですか?ユダさんに怒られませんか私?もう地下倉庫掃除嫌です~~~!」 「うん心配かけると思うけど戦わせて欲しいんだ。ユダもわかってるから大丈夫だよ」 「本当ですか?ならさっさとやっちゃいましょう!坊ちゃんと一緒なんて嬉しいなぁ~」 「ごちゃごちゃうるせーんだよお前ら!大人しくやられて捕まりやがれ!」 曲がった剣で男が襲ってきた 僕は剣に魔力を込めて風を励起させ カールトンに向けて攻撃してきた男に迎え撃つ 「はぁあ!」 「グアッ!!」 男は推し負け吹き飛ばした なんとか通じるようだ 魔力も安定している 「坊ちゃんすごいです!可愛らしい素敵です!!カメラ持ってくればよかったです」 後ろでカールトンが拍手している 身内から褒められるのは嬉しいけど 一応戦闘中だよね 「…防戦で必死か?」 「ふっ、そう見えるか?まだ戦い慣れはしてないみたいだな」 「……」 ログナスの剣撃を薄皮一枚ギリギリにかわしている 攻撃はあまりしてないがあの剣をかわせるなんて 刺青男は変わった剣を持っていた 長くはないが短くもないナタのような剣だ 他の二人がナイフや弓、魔術を放つが全て切り払われた 「その歳でその腕前か。末恐ろしい子供だ」 戦いながら火花散る攻防の途中に刺青の男は喋った 「……人と戦ってまだ倒れていない敵は久しぶりだ」 ……十二歳でそこまで強いのか よく一度目の僕正面から戦えたな 「よそ見してんなよお坊ちゃん!!」 斬りつけてきた攻撃を防ぐ 「お前が僕を坊ちゃん呼びするな!」 鍔迫り合いしながら魔力を込めて風属性の魔力を纏わせた攻撃で吹き飛ばす これで二人目 「そうですよ!!坊ちゃんを坊ちゃんと呼んでいいのは私たち従者の特権ですよ!!」 話がややこしいしこの身守られながら感はなかなかきついね !? 低い体勢でナイフを構えた小柄な男が接近していた 隠蔽魔術か! 油断していた 左右から三人が襲いかかってきていた それぞれ魔術を展開している これは殺す気じゃないですか? 「セウス!」 攻防していたログナスが剣を青白い魔力を迸らせ 鋭い斬撃を放つ 小柄な男は真っ二つになった 二撃目を放とうとしたが前にいた弓を持った男とナイフ使いが邪魔をした、だがそれでも空中にいた二人纏めて青い斬撃に切り裂かれた だが俺の後ろにいた男は僕が邪魔で攻撃ができないようだ くっ!? 即座に風の魔術で防御する 不利属性ならケガくらいはするな 後で怒られそうだ 衝撃に身構える グシャァッ!! 「あーダメですよー!坊ちゃん傷つけたら殺しますよ?私だってユダさんに殺されちゃうんですからやめてくださいね?こんな尊いお方になんて不敬で恐れ知らずなんでしょうか?聞いてます?」 …. 僕が目を開けると床と広間の壁が赤色一面になっていた 確認すると僕を襲ってきた男は死んでしまったみたいだ ぐしゃぐしゃに潰れて 「もー悪いことはしてはいけないんですよ?怒られちゃいますからね怒られたら怖いんですよ?またユダさんに君は鶏みたいな記憶力ですねって言われるんですどういう意味なんでしょうかね?チキンは大好きなんですけどちょっとだけ複雑です。坊ちゃんはチキンお好きですか?」 いつのまに持っていたのか 背丈よりも長い鈍色のウォーハンマーですでに生き絶えた男を叩いていた 魔力を込めないであんな威力だと思うと末恐ろしい というか怖いんですけども こんな子でしたかユダさんお宅の子 人事さん仕事して 人事もユダだったなおしまいだ 「………チキンは好きだよ。それよりカールトンもうそれ死んじゃってるからね落ち着いて」 こちらに残った敵の二人も呆然としていて ログナスと刺青の男は戦っているがサイドの二人も驚いていた そりゃそうだろう この可愛らしく陽気な少年が長いウォーハンマー一撃で人を肉塊にしたんだからな もしかしてうちの使用人こんなのばっか? 寝れなくなりそう まぁその筆頭がユダなんだけどね 「あーまた執事服汚しちゃいました!なかなか血って落ちないんですよねーどうしましょう坊ちゃんうわぁああんユダさんに逆さ吊りにされるぅううぅ」 また泣き出した 泣くたびに八つ当たりなのか肉塊を叩く ハンバーグのタネにでもする気かな? やめてグロい 「ユダには僕が言っとくから落ち着いてカールトン!ほら今回守ってくれたし褒めてもらえるよきっと!」 「本当でございますか!!私坊ちゃんの下僕で幸せですぅ~~!!褒めてもらえるなら花瓶の件許してもらえるかな?お菓子増やしてもらっても許されるでしょうか??坊ちゃん撫で撫でしてもらえたら、なんてえへへへ!」 瞬時に僕のそばにいて顔を赤くして(相手の血で血だらけ)嬉しそうにニコニコとしている こういうのってあれでしょ サイコパス 知ってるよ僕 頭を撫でてやりながらどこか遠い先を見つめる 考えたら負けだ カールトンは蕩けるような笑みを浮かべ 柔らかいフワッとした癖毛の頭撫でられ喜んでいる 「……この屋敷の奴ら頭おかしいやつしかいねぇのか」 「………多分彼は例外だ」 前の方で攻防していたログナスと刺青男が先程の光景についてそう話していたことに僕たちは気づくことはなかった

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