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第14話

祭りの開式まで残りわずかとなり 僕たちは荷物を馬車に預け会場の控えに用意された屋敷に向かった 屋敷に着くと、自国の見慣れた兵団の姿があり 僕たちに気付くと動きを止め一礼してくる それに応えながら建物の中を進む 屋敷の使用人に案内されながらも、途中見慣れない鎧を着たものや隊服を着た兵士、儀礼服をきた神殿の者などが多く見受けられつい見つめてしまう 「坊ちゃん、そのようにまじまじと見つめては困らせてしまいますよ」 「あ、うん。ごめん」 指摘されまっすぐ向き直る 横目でチラッと見るくらいならいいよね いくつかの部屋の前を通り、そして目的の部屋まで案内された 「こちらでございます。中にはマリア王妃様とリオス王子が中におられます。国王様とミリア王妃様は別所にて待機しております」 わかったよと返事をし、室内に入った ユダ以外は別室にて待機してもらっている 「セウス!祭りを見てきたのかしら?どうでしたか?」 「はい母上。人々は活気に溢れ賑わっており国の祭りを祝って楽しんでいるようでした。兄上お久しぶりですね。前は公爵の催したパーティーの時でした」 「そうだねセウス。今日もとても可愛らしいね私もセウスと共に祭りを見て回りたかったが、所用で時間がなかったよすまないね」 ぎゅっと抱きしめられ頭を撫でられる 恥ずかしいが耐える。いつものことだけど慣れないなぁ 「…僕の役割まで背負わせて申し訳ありません。まだ公務に不慣れな上に兄上は最近軍事までなさっているとか」 「おや、耳が早いね。なんてことはないさ。今は平和だが水面下で動くものはいくらでもいるからね。やれることはやっておきたいのさ」 「僕もはやく国の為に役立てるよう励みます」 「まぁ、そう急ぐことではないさ。私も国王陛下もいる。そして気に食わないがあのログナスがいる。…やぁユダ久しぶりだね。いつもセウスのことをありがとう」 深く一礼したユダが頭を上げ、丁寧な所作で言葉を交わす 「お久しぶりでございますリオス王子様。私には勿体無いお言葉感謝いたします」 「ははっ、そう畏まっていると逆に怖いなぁ君は。まぁとても頼りになる人物なのは知っている。そのままよく働いていてくれたまえ」 「承知いたしました」 また一礼したユダを眺めリオスは満足した様子で笑みを浮かべた 「開式までもうすぐだ。私たちは案内された通りに立ち、指定された場所に座っているだけでいいそうだ」 その言葉に安心する 簡単なあいさつがあるが、手を振って微笑むだけだ それも嫌なんだけどね 「それは安心です。そういえばログナスは?」 「あいつは他の警備している騎士団と合流して打ち合わせをしているよ。今回の目玉でもあるしね。国民と他国へお披露目する場でもあるから」 「なるほど、ですから普段一番に来るやつが来ないんですね」 「そんな寂しそうな顔をしないでおくれよ妬いてしまう。あいつも忙しいんだ国賓もいることだし客人と共に国王陛下たちと談話しているようだ」 「べ、別に寂しくなどありませんよ!普通に心配しただけです。国賓ですが、確か聖リトリシア皇国とゼンクォルツ王国でしたか?大国ですよね」 「そうだよ。あの五百年生きていると噂の聖女の女王様さ。そしてもう一国は王は近隣国との折衝で国王は来れなくて、王太子殿下と相談役?とやらがきているらしい。興味深いね」 腕を組んで素敵な微笑みをして顎に手を添えたリオス 「あの、聖女様ですか…」 五百年生きているという伝説の聖女、それがリトリシア様だ。皇国の中央で長年クリスタルの中で眠っていたがある出来事により目覚め、それから数々の奇跡を起こし神の声を届けて人々を救っているという 「そうあの聖女様だね」 「聖女王陛下と一度会いましたけど、確かに神がかった美しさでしたわね」 「聖女は歳を取らず幼い女の子の容姿だと聞きましたが、真実なのでしょうか?」 母上は頬に手を添えた 「そうねぇ。確かに以前お見受けした時は可憐な少女でしたわね。と言っても二十年以上前ですけど」 その時少女でも、今も少女の姿なのか気になる 正直一度目の人生の時は確か体調を崩して寝込んでいて参加していなかったはず 後日戻ってきた母上から話を聞いて終わりだったと記憶している 静かに音もなく前にお茶が置かれた 白く揺れる湯気がたっている ユダが二人のぶんも淹れてくれたようだ カチカチと置き時計の音が聞こえる静寂が一間あった 「失礼致します。会場のご用意ができしたので、ご用意がお済みでしたらご案内をさせていただきます」 扉と中間地点にいたユダが返事を返した こちらをうかがっている 「このお茶を飲んだら向かいましょうか」 兄上と共に返事をして香りたつカップの中を啜った 不思議といつもは感じる香りが感じられなかった こちらへどうぞ 何かありましたらお申し付けくださいませ と屋敷の使用人が頭を下げて引き下がった 通路を抜けると壇上があり既に民衆は集っているようだ 正面は赤い絨毯が敷かれており会場は段状になっていた そこの近くの参列席に嫌なものを見た それは半年後、僕たちに罪をなすりつけ国罪を犯した ネズミのような顔の貴族の男がいる 思わず歯噛みしてしまう まだ、まだ大丈夫だ 今回は何もしないはず… それでも警戒はしておいた方がいいよね 握りしめた手に力がこもった 「緊張でもなさっているんですか?」 隣からいつもの淡々とした声をかけられる 姿は正装をしているがやはりどこか眠そうだ 興味ないんだろうなぁまぁ関係そこまでないからね ローブも装飾品が追加されており、自分も同じで華やかだった 「セウスもこういった場は久しぶりだものね。辛かったら言うのよ無理をする必要なんてないのだから」 母上が心配そうにしている 「すこしだけ緊張しています。僕は特にすることはないですけど、やっぱり公の場は気が引き締まりますね」 「そうねぇ。王族らしく堂々としていればいいのよ」 「はい母上」 わざとらしい笑顔を返し安心してほしいと思って微笑む 「さてそろそろ出番だね。笑顔で頑張るんだよ。他は私に任せなさい」 ニコッとリオス兄様が微笑む 皆が自分に甘いのはわかっているけど、やっぱり嬉しく思う 音楽隊の演奏が変わり、中央の道を歩くことになった 控え場所から出ると盛大な拍手と歓声が聞こえてきた うひゃーうるさい… とりあえず笑顔笑顔…と意識して手を振りながら母上たちの後ろを歩く 花火や魔法光による演出が煌びやかで 両隣を守る近衛兵の鎧に反射している 眩しい… ゆっくり歩き壇上に上がる 眼前には複数の席が用意されており三席あるうちの空席の中央後ろに、国王陛下が座している その少し離れた横に第一王妃メリア様が座っていた 僕たちは振り返りにこやかに民衆に手を振ってそれぞれ席についた 国王はこちらを見てニコニコとしている そして音楽が鳴り止んだ 「我らが国王陛下からのお言葉を賜ります」 スッと司会の言葉のあと国王陛下が豪華な椅子から立ち上がり中央にある演台の前に立った 「神々に祝福されし今日に、我が国の建国祭を行える事を嬉しく思う。魔物による被害が広がる中、民と我が国の騎士たちの尽力により毎年被害が減っているという。そして長年続いていた戦争による悲劇も大国同士の和解と平和への願いが一致し今日に至るまで素晴らしき平和を謳歌できた。この輝かしき歴史に残る建国祭に友である国賓の彼らを呼ぼう」 国王が言葉を止めるとシンと静まり返る 「猛き争いの中魔族との戦場を照らす太陽神に愛されしゼンクォルツ王国の第一王子、ヴァージル王子!」 音楽隊が雄大な演奏をする その中を白と金のマントをはためかせ、悠然とこちらまで歩く姿が見られた 歓声の中、綺麗な微笑みを浮かべ知的そうな雰囲気の人物だと思った 壇上まで上がると同じように民衆に手を振り、国王陛下に挨拶をして握手した そして王の右隣に座る その隣に、別の意味で目立っていた人物が立っていた あれが相談役?暗い赤と黒のローブを羽織り、金と黒の杖を持った仮面の男がいた 怪しすぎる……… じっと見つめていると、奴の顔がこちらを向いた 驚いて目を逸らそうとしたがその前にニヤッと見える顔の口元だけで笑みを浮かべた ドキッとして視線を逸らす うわぁ目合っちゃった。呪いとかかけられそう 偏見かな一応王族のそばにいる人だし 関わらないでおこう 「そしてもう一人の国賓。奇跡を体現する麗しき聖女王リトリシア殿」 演奏が始まった 先程とは違ってまるで暗闇に差し込む光のような壮大で優雅な音楽だった 雰囲気がガラリと変わる 歓声は聞こえない 誰も言葉を発せなかった 白い儀礼服を着た者たちが脇を歩き金と白の長い布を持ち上げている その中を神々しい光を発し静かに、ゆっくりと歩いてきた それは確かに人とは思えない空気を纏っている 銀の髪に黄金色の光を纏い丈の長い白いドレスを着た 少女がいた その手には銀の杖を持っている 思わず目が奪われてしまった これが噂の生きる奇跡、聖女様か そう思って見ていたら別の迫力を感じた それは圧倒的な、言葉にできない重さがあった 女王の後ろを歩いているだけなのに存在感が凄まじく 迫力は負けていなかった 銀と黒の特徴的な鎧に黒い片角が生えた仮面のようなものをつけていた 背中には体躯に合った黒いソードが携えてある 羽根のついた装飾の黒いマントが静かに揺れている なんとなく何故だか、ログナスを想起させた 女王たちは他同様民衆に一礼し国王陛下と挨拶をした だが握手はしなかったようだ 噂の聖女様は僕たちの側の席にゆっくりと座った その際僕たちに僅かに頭を下げて微笑んだ すごく綺麗でつい目を逸らす 目を背けた先で見えた控えていたユダは、何故か冷たい表情をしていて、僕に気づくといつもの表情になり前を向けと無言で指示された はいはいと思い前を向く 聖女の後ろに体の大きい騎士がいる 先程の男だ 立つ姿は凛としていて不動で凄みを感じる 仮面のせいで口元しか見えない 僅かに見える瞳は青みがかった銀の光を宿していた ふと視界の中に淡い白が見えた あ、あれ? 自分からは死角になっておりそして 聖女と騎士で見えなかった 教会の儀礼服をフォーマル仕様にしているような 白い服に紫の布が肩にかかって風に揺らいでる 前見た時と違って、髪の細い束を三つ編みにし前に垂らしている 彼は視線に気付きこちらを向いた サイファーがニコッと微笑んだ なんでいるの? 疑問が顔に出ていたのか、それを見てサイファーが口元を押さえて笑いを噛み殺している それに気付き横の騎士が目だけ動かして僕を見る その眼光の鋭さに怖気付いてしまう 「それでは各々から言葉を頂戴しよう。では、ヴァージル王子」 国王陛下に促され頷くとヴァージル王子は颯爽として演台の前に出た 兄上と同じくらいかな歳は 子供なのに堂々としていて、他国のど真ん中で話すなんてすごいと思う 「この度は建国祭にお招きいただきありがとうございます。我が祖国の代表としてとても嬉しく思います。晴れやかな日に活気ある国を見て、平和の尊さと豊かさを感じられました。神々の祝福が我らと共に歩む道先にあらんことを」 深く一礼して席に戻った 盛大な拍手が送られていた かっこいい人だなー 「それでは女王陛下、よろしいですか」 「はい」 凛とした鈴のような声だった ゆっくりと立ち上がり、サイファーに手を借りながら歩く柔らかな白い生地の服を揺らしながら演台の前に立つ 後ろにサイファーが寄り添っているようだ しかしこのふたりそっくりだなぁ… 聖女の瞳の色は金色で確かに神の威光を示す色だ 神眼持ちなのかもしれない サイファーは目を閉じていてわからない てか前見えるのかなあれ 「皆様、はじめましてリトリシアと申します。この日この時、喜ばしき日に立ち会えたこととても嬉しく思います。かの大戦や魔王との争いから、我らは共に協力し神のご意志のもと平和を勝ち取ってきました。困難に立ち向かう度に人は結託し、まさにひとつとなって試練を乗り越えてきました。神は見ております。私はただ全ての幸福を願って、祈りを捧げましょう」 まるで雲間から差す一筋の光を見るように 人々は儚げで清廉な聖女に心を奪われた これは、神気か?神聖魔法を唱えもせず、ただ言葉を重ね願っただけでこの力… これは本当に神の力だと感じられた 聖女は柔らかく微笑み、またサイファーの手を借りて下がった 「……友人たちの言葉、国を代表して感謝する。民よ。全ての民よ。憂うことはない。栄光の光は確かに我らを照らしている」 ウォオオオーーー!!! 一斉に民衆が歓声を上げた 音楽隊がラッパを吹く 「それでは次は、我が国の誉れ高い騎士団を紹介しよう。参れ!」 華やかな音楽が鳴り響く 音楽が魔法の光と今日一番の歓声と共に流れる 先導するのはマグナス・ヴァーミリオン騎士団長 その横にログナスがいた その後ろに剣を胸の前に置いた騎士たちが隊列を組み並んで歩いている その姿に国民はさらに盛り上がっている さすが人気者たちだ あれ、民衆の中にカールトン達がいた こちらを見て手を振っている 目立つからやめて 騎士達は王の前に近づくと、立ち止まり恭しく膝をついて頭を下げた 王は壇上から降り騎士団長の肩に手を置いて顔を上げさせた 「顔を上げよ」 他のものも顔をあげる 一瞬ログナスがこちらを目だけで見た 目が合いドキッとした 集中しなよ… 儀式用の隊服を着ていて、普段とは少し違う雰囲気で かっこよかった イケメンは何を着ても似合うんだな 「青薔薇の騎士団の皆よ。日頃より活躍し大いに国に貢献していることは皆が知っている」 「ありがたきお言葉」 「そして騎士ログナスよ。父に負けず魔の森にて発生した三つ首の魔物を単身で倒したらしいな。その武勇実に素晴らしい」 「お褒めいただき感謝いたします」 淡々と述べる様は、あれなんとも思ってないなと感じた   「うむ。それでは叙勲式を……」 その時だった ドンッ! と鈍い音がした 音の方に視線を向けるとあの聖女の隣にいた騎士が何かを地面に叩きつけて拘束していた だが、姿は見えない いや、ブレている? 僕にはそこにまるで視界がぼやけたような輪郭が見える 「な、何事だ!」 会場を守っている近衛兵が慌てて騎士の元に近寄る 「近づくな」 低いがよく通る声で静止させる それに臆したのか近衛兵は立ち止まった 「姿を現しなさい」 トンッと持っていた杖を聖女は地面に当てた すると騎士が押さえていたところが明らかになる そこには赤い刀身のナイフを持った黒いローブを纏った男がいた これは姿隠しの魔術 しかも警戒されているここまで認知されないほどのランクの魔術だと つまりこれは、暗殺? 次第に周囲は動揺した声が聞こえ始める 「…気づけなかった」 ユダが悔しそうに吐く 「そ、そうなの?」 「そこらじゅう結界や阻害魔法だらけで陣地作成もできず、人が多すぎて感覚も不確かで……いや、言い訳ですね」 深刻そうな顔で呟く なんて言っていいかわからなくて つい手を握った ユダも表情を和らげてくれた 良かった… てかそれで気づけたあの騎士は、やっぱりただものじゃないな 皆動揺している中で、あの相談役の仮面の魔術師みたいなのが 嬉しそうに笑っている姿が目に入り 不安に駆られた 「一先ず慌てるな。奴を拘束しろ。他のものは警戒を高めろ」 騎士団長が素早く指示を出す それに従って騎士達が動く これでひとまず安心かな と思った時 ログナスの顔を見たとき違和感を感じた なんだろうあの表情 なにか、探っている ログナスが見ている先を僕も見る あれ… 国王陛下、父上の後ろ近くに、同じようなブレる輪郭が見えた あれは!! 「ログナス!!父上の後ろにいる!!」 ログナスは驚いた目をしたが、すぐに剣を構え 一瞬で動き父上の後方を斬り払った 「ッ!?」 声も発せずに、暗殺者は絶命したようだ それに国王陛下も騎士団長、民も驚いた様子だった あのままでは目の前で国王が殺されるところだったのだ 「周囲警戒!!王をお守りしろ!」 騎士達が王を囲むように守る ログナスはいつのまにか壇上に上がり 僕の前にきていた 「ありがとうセウス。お前のおかげで防げた」 場にそぐわない柔らかな笑みだった 「いや、なんとなく見えただけだから。それよりまだいるかもしれない。警戒しないと」 そう言いながら周りを見る 壇上にいるものは皆無事のようだ 先程拘束されたもう一人の暗殺者が突然 震え出した な、なんだ不気味 何かをぶつぶつと言っている ん?なにかあいつの、胸のあたりが赤黒く光っている? 縄で拘束され近衛に運ばれようとしていた男は 暴れ出した 「ああ!神よ!!穢れし地に慈悲を!貴方様の仔山羊は今!全てを捧げます!!」 目は真っ黒な空洞の闇で、血の涙を流していた 「来たれ!我が身を供物に!昏き空より堕ちし幼子よ!いま産声をッ!」 言い終わる前に絶命した あの巨躯の騎士が目に止まらない速さで、頭を切り落としたようだ なんて早業だ まるで何事もなかったかのように立っている 「シルヴァ、なんてことを…」 聖女が悲しそうな顔で言葉を発する 「遅かったようです」 ?なんのことだ いや、まさか さっきのは、召喚詠唱か!? 気付いたと同時に青空に穴ができた 真っ黒な穴が そこに暗殺者の死体が浮かび、黒い液体が流れ落ち 飲み込まれた 騎士は素早く離れ聖女を背に庇う 「みんな逃げて!そいつは…」 言葉を終える前に液体は形を成した 絶叫が響いた それは産声が慟哭か 黒い触手を伸ばして揺らし 大きな口をいくつも開き鳴いている あれは禁忌魔法の一種 僕は一度目の時、偶然知った邪神崇拝の一派の教本がまさにそれだった 外界の神を降ろす 狂気の扉を開く滅びの教え… 悍ましさに人々は本能的に震えて動けない 理解の及ばないものがそこに在った 黒山羊と呼ばれる悪夢が、顕現した

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