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第13話
ーーーーー霧散した悪意が形を成す
あれから僕たちは祭りを堪能していた
光と音楽が溢れ人々は賑わいの中、平和を謳歌していた
砂の国の民だろうか、褐色の肌に露出が多い男女がこの国と違う音楽とダンスを踊っていたり北の大陸の民族と思われる人たちが剣や槍で見事な演舞を披露している
「ほぇ~~~!すごーい!あれどうやって剣を食べているんでしょうか??もしかして珍味?新たなる美食への開拓の兆し?あれ私、閃いちゃいましたか?!」
「死にますよ」
横で簡単に自殺しそうなカールトンをユダが雑に指摘している
「うっ……‥高い、こわぃ、ひぃ」
「ほらギリス、坊ちゃん!よく見えるか?ここは初めてみるものばかりで驚かされる。良い国だ。おや、なんだあれは見事な筋肉だな、ほらあれを見てくれ二人とも!」
「……ヘイム、気を遣って肩車は、嬉しいけどさ。落ち着いてよ頼むから。揺れないのはすごいけど、加速と方向転換が結構きつい……」
人がさらに多くなり、危ないし迷子になると言ってヘイムにギリスと共に肩車された…片方ずつに一人だ…
荷物は肩がけのものだけを持ち他はルカが大人しく預かってくれている
本人はユダの斜め後ろで事前にチェックしていたユダの目的のものを探しながら嬉しそうに付き従っているようだ
「うぅ、視線と風圧がきつい……」
「ふぃ……フェニックスが八十三羽、フェニックスが……」
ギリスが独特な現実逃避を始めてしまった
「ヘイム止まって、死人が…死人が、出ちゃう」
「んん?なんだ坊ちゃん!トイレか?近くにあるだろうか…、安心してくれどうしても間に合わなそうなら、俺が人避けになるから茂みを探そう」
「全力で違う馬鹿」
もう暴言すら勢いに吹っ飛ばされる
申し訳ございません母上………僕は志半ばで果てそうです
固定された下半身から上が空気の壁に当たり反っている
光の向こうからログナスが笑顔で手を差し伸べてくれる
あれ?死んでなくない?
思いつつもその光に手を伸ばそうとした
「っ!?」
ヘイムの急ブレーキによりガクンと前方に折り曲げられたあと後方に跳ねて、正位置にもどった
不思議と体の凝りがほぐれ調子が良かった
隣のギリスも一応…大丈夫そう
「た、助かった」
そう思って窺うと、事態は切迫していたようだった
「な、何事なの?」
「……」
ヘイムは黙って横を睨みつけていた
本当に何があったんだ?
周囲を観察した
原因の一つが目に入った…
これは、人だよな
気絶したであろう大柄で太めの男性が頭の方から地面に伏せており、体が二つ折りになって露天の木箱に突っ込まれていた
これは…この人がヘイムにぶつかりそうだったのか?
ということは、この人をこの状況に追いやった何かがあるはずだ
ヘイムが睨みつけた方を見てみる
そこには目の前の男を投げ飛ばしたと思われる男がいた
しかも半裸だ
「おっとすまんな御仁よ。怪我はござらんか?」
日に焼けた肌と切り傷が目立つ屈強そうな身体で、片目に傷痕がある精悍な男がいた
焼けた肌同様日に当たるとブラウンに見える黒髪で後ろ髪が長くそれを結んでおり、凛々しい眉をした変わった服を着ている男だった
「そんなに睨んでどうなさった?何か某が至らぬことをしてしまっただろうか?むむ、全くもってわからぬ」
うぬぬと腕を組んで思案している様子だ
「……どうしたのヘイム?もしかしてぶつかって怪我したとか?」
先程までご機嫌だった彼は大人しく
だが視線で未だ男を睨みつけていた
そしてビシッと人差し指を向けて怒鳴った
「貴様!もう少しで坊ちゃんとギリスにぶつかってしまうところだったぞ!危ないだろう!人を投げるなら周りを見て投げろ!俺はそうしている!」
鼻息荒く胸を張って言った
えっと…その前に止まってなかったら肩車されてた僕たちは死んでた可能性の方が大きいよ
そして基本的に人は投げるものではないね
「それはすまんな御仁よ!どうか許してほしい!ほれ、こんなところでしか遊戯が許されんかったからな、次からは気をつけるでござるよ」
はっはっは!と快活に笑う男は横に置いてある木の看板を叩いていた
そこには〈男と男の真剣勝負!相撲!恐れを知らぬ強者来たれ!〉
と筆のようなもので書かれた板があった
相撲ってなんだ?
じっと見ていたら男と目があった
ニッと人好きのする笑顔を浮かべた
「これが気になるでござるか坊よ。これは相撲という某の生まれた国の勝負事でござる。男と男!裸でぶつかり合いこの円の枠からはみ出したり、足以外が地面についた方が負け!実に単純明快な勝負でござるな!某に勝ち申したらこれ、この木箱に入った銭は全て差し上げよう。どうだ坊よ?一勝負如何でござる?」
ニヤッと歯を見せ笑う
「えっと…裸とか恥ずかしいし、僕は結構です」
「なぬ、そうか残念。もうちっとばかし大きくなったらよい勝負ができそうで将来が楽しみでござるな!」
はっはっは!と世辞なのかわからないどちらかというと皮肉に聞こえることを言ってまた笑う男
「聞き捨てならないぞ!坊ちゃんは強い男だ!なんて言ったって執事長ユダと俺らの主人だからな!下のものがすごいなら主人はさらにすごいんだ!小さく可愛らしくても立派な男なんだ!それを俺が証明してやる!」
えぇ~……
周囲の人々がチラッと僕をみる
そして微笑ましく見られた
うわぁーそんな目で見ないで……
「実に良い気概だな!実に良い!素晴らしきかな男魂!その挑戦!買わせてもらうで、ござるよ」
言い終わる前に剣呑な雰囲気を発し、空気が張り詰めた
この男只者ではなさそうだな…
「ひぇ…何事なんですか?天国ですか?」
意識を取り戻したタイミングが悪く
周囲の雰囲気に慌てるギリス
「…ギリス、坊ちゃんここで待っていてくれ。ここから離れてはダメだぞちゃんといい子で待っているんだ。すぐ終わらせてくるからな!」
僕たちの頭を両手で撫でて微笑み、後ろを向いて男に近寄っていったヘイム
「その相撲?とやら、それで勝敗を決めよう。俺が勝ったらその金はいらん。ただし坊ちゃんの前で先程の言葉を改めて謝罪しろ。現時点で立派な男だとな。俺が負けた場合、…出来ることは何でもしてやる」
鼻がつきそうな距離で睨み合い、ヘイムはそう言った
一応僕の使用人のヘイムはまだ短い付き合いだけれど、そう思ってくれている気持ちが嬉しくてすこし照れ臭くなる
これ、どんな状況でしょうか?と横でギリスが困惑していて僕は、今からヘイムがかっこいいところ見せてくれるみたいだよと言った
ギリスは一瞬ぽかんとした後、ニコッと微笑みわかりましたと言って真っ直ぐ僕と一緒に観戦することにした
「ふむ、武士は簡単に心に決めた主人以外に頭を下げぬが、まぁ此度は某も口が過ぎた。まぁ負ける気は一切ないがな。さぁ準備ができたならこちらにくるがいい」
「すまないが、俺は相撲とやらがわからない。教えてくれないか?脱げばいいのか?」
そう言って上のローブごと一気に上の服を脱いだ
しなやかで綺麗についた筋肉に男としての魅力が際立っていた
男の筋肉がよく鍛えられた野生味のある無骨さを感じさせるが、ヘイムのは鍛錬と研鑽による美的な筋肉だった
なぜこんな解説をしているのかは、僕自身よくわからなかった
別にそんなフェチはない、はず
「別に脱がなくとも構わんが、脱いだ方がより本格的で身が引き締まる。そして戦いやすい。合図と共に素手で相手を押し出せば良いのだ。武器や魔術は禁止だ。身体強化ぐらいならよかろう好きにするがいい。張り手は良いが拳はダメだぞ。それは喧嘩になる」
「なるほど、わかった」
「ふむ。素直な男よな」
男はにかっと笑い、勢いよく脱いだ
脱いだ!?
バサッと空に舞った服は看板の上に乗った
「な、なな何してるの!?」
指の隙間から見た光景は仁王立ちした男は全裸、ではなく白い布を巻いた見たことのない下着を履いていた
「本来の相撲の格好でござる。まさに勝負下着でござるよ!ご婦人方には申し訳ないが、許してくだされ」
前は白い布が風に揺らぎ後ろはきゅっと引き締まった男らしいお尻を出していた
破廉恥な!
「ッ!負けてたまるか!」
そう言ってヘイムはベルトをガチャガチャさせ、って何してんの!?
使用人が街中で脱ぎ出したら主人の僕はどうしたらいいの?変な趣味の主人っておもわれちゃうでしょ!
救いの目で隣に立つユダを見てみると
興味なさそうな顔で、ひたすら袋詰めされた小さな焼き菓子を黙々と食べていた
これは私は知りませんという答えね…
薄情もの!
ヘイムはバッとズボンを脱いだ
投げた先はギリスの膝の上に落ち、すぐさま畳まれた
ヘイムは戦士がよく着る黒のアンダーアーマーを着ていて
素肌にピッタリとくっつく生地が、見事な体をしているヘイムの肌のラインや筋肉を強調しており、むしろセクシーさが際立っていて、お尻とか前とかもうこちらが恥ずかしい
本人は全く気にしていないみたいだ
「うむ。良い体だ。日々の鍛錬がうかがえる。良い相撲ができそうだはっはっは!」
「ふふ、やるからには勝たせてもらう」
互いに笑い合った後、静かに睨み合う
先程説明された内容では、この土俵という円の範囲から出れば負けらしい
構えのポーズを教えてもらったヘイムは立ち位置のところで低い姿勢で構えた
あ、あんな格好でなんて破廉恥な…
横から冷たい視線を感じたが、気づかないふりをする
それどころじゃないんだ僕は!
周囲の人々も、初めて見る異郷の催しごとに興味津々らしく、多くの人が集まって観戦している
ナイス筋肉!
チラッと男に視線を向けられた
先ほど頼まれたセリフを言う
「み、ミアッテ!…ハッケヨイ、ノコッタ!」
意味は全くわからなかったけど、その掛け声と共に
始まった
先に動いたのはヘイムだった
「ハァッ!!」
あれは突き出しという技らしい
後日、本で知った
バンッと激しく叩く音が響く
だが男はニヤッと笑い全く動じていなかった
「良い、実に良い。本気の一撃でござったな」
「…クッ、これはどうだ!」
反対の手で男の胸を叩くも、同じく音だけが響く
「うぬ、力押し、だけでは勝負にならんよ」
男は余裕の笑みを浮かべそう告げる
「やるな。だが俺はこんなものじゃない!」
ヘイムの体に髪色と同じ青のオーラが纏わりつく
それは魔力だった
術式を練らずに、単純に体を活性化させて戦うつもりなんだな
「来い若人!全てをぶつけて見せろ!」
嬉しそうな声で煽る男は既に猛者の獣じみた笑みを浮かべていた
それはもう覇気だけで人が動けなくなるほどだった
「!!!」
連続の張り手で押し出す
その激しい連撃に、次第に男は確実に後方に押し出されていた
「おらぁあ!!」
さらに激しさを増した勢いで攻撃している
「はっは!!良いぞ!久方ぶりに激る!殺す気でこい小僧!」
相撲をする前の快活な人の良さそうな男とは思えない
剥き出しの闘争心と獣じみた殺気が感じられた
見ている方が気圧される
徐々に押し出されている男は防衛に徹している
「ハァアッ!!!」
渾身の一撃を打ち込んだヘイムだった
白線の縁に踵が触れたところで止まっている
後一撃で押し出さそうだ
「これで終わりだ!」
青い光を帯びた突きを打ち込んだ
下手すればいくら魔術として成立してなくても
簡単に人を殺せる威力の一撃だ
「ちょ、あれは不味くないか」
一瞬止めようと立ち上がろうとしたが、無言でユダに止められた
こちらを見ずに視線は相撲をとっている二人を見つめている
だがヘイムの渾身の一撃は止められた
「……良い。だが実に青い」
肉体から煙が出るほど打ち込まれたのに
悠然と立っている男は笑みを浮かべていた
「なに…」
「武の道は険しく、先行きの見えぬ畏れ、愚直さだけでは何処にも辿り着くことは叶わぬぞ….」
「ッ!?」
「今は大人しく地に伏せ己が身を顧みるがいい。何の為に身を賭すのかを」
言い終わると同時に、驚天動地の勢いのある一撃が打ち込まれた
ヘイムは後方に吹っ飛ばされてレンガでできた壁を砕きその後ろの倉庫らしきところまで飛ばされた
「ヘイム!!」
「兄さん!!」
砂埃が舞い上がり様子は窺えなかった
ギリスが立ち上がって兄の元へ走っていった
僕もそれに追従する
「だ、大丈夫兄さん!?」
「……うっ、大丈夫だ、……」
頭を振って意識を明瞭にしていたようだ
怪我は、……無さそうだけど、頑丈さのおかげだろうか
「ほぅ、肋骨ぐらいなら折ってしまったと思ったが思い計ったより頑丈だったようだな!敵ながら見事!」
仁王立ちして笑みを浮かべている
不遜な態度だが嫌な感じはなく、勝者の余裕さが垣間見えた
「……そちらこそ、見事な腕前だな。悔しいが今の俺では勝てんな」
「ふむ。才はあるあとはより高みへ至るための知恵と経験が必要だと某、感じられたでござるよ。焦らず精進するがいい」
近寄って右手を差し出し起き上がるための手を差し出した
「ヘイム殿、良き勝負でござった」
「…ああ、得難い経験を得たよい勝負だった。今更だがあなたは…」
起き上がりそのまま握手をして見つめ合う二人
ニカッと笑い男は下がり、独特な服を羽織った
だがまた片方の上半身だけ脱ぎ
そして腰に極東の刀を下げこちらに向き直って
腰を下げて手のひらを返しこちらに向け、名乗りをあげた
「お控えなすって!某は生まれは遥か遠くの小さき極東の島国 育ちは寺で育ち弟とならず者や魑魅魍魎を倒さんと共に流浪の旅に出ておりやした 恥ずかしながら己が身の不徳により兄弟もろとも死の淵に立たされやしたが 尊きお方に救われれ 名を捨て新たな生と名をそして刀までも下賜して頂き 恩に報いるため 全てを捧げ 新天地に参った次第でございます 零の道へ至る切願のため 風の吹くままに流浪する ただの侍 ムラマサと申すものでござんす 以後お見知り置きを」
瞳に揺らぐ炎を灯しながらニヒッと笑いそう名乗った
男は、ムラマサというらしい
「ムラマサと言うのか、いやムラマサ殿!さぞや名のあるお方とお見受けする」
「なにそんな大層なものではござらんよ。旅をしながら人助けなどしておる、ただの世捨て人に近しいものであり申す」
「か、かっこいい」
兄弟がキラキラとした目で見ている
そうかぁ?どこか芝居くさいというか、まぁ強いのは確からしいけどなんかなぁ…
どこか胡散臭く感じてしまうのはなぜだろうか不思議だ
「拙者がかっこいいでござるか?誠でござるか?かぁ~素直なことは良きかな!実によき日でござる!酒をもってこい!」
はっはっは!と笑ってご機嫌なようだ
「…暑苦しいですね」
いつのまにか横にいたユダが片手で扇ぎながら言った
確かに暑い
ヘイムと波長が合うのか、二人で大笑いしている
うるさい
わふっ!
突然頭がぐわんと動かされた
「坊よ!先程はすまなかったな!誠にすまなかった!よく叱られるのだが某はでりかしー?というものが欠けているとよく弟に叱られのだ!どうか許してくれまいか」
「え、えっ、あ、はい全然全然気にしていないので、それ、やめ、脳が、揺れる」
わしわしと頭を撫でられているけど手が大きいのと勢いのせいで頭が揺れる
「おやめ下さいませ。これ以上残念な頭になってしまったらどうしてくれるのですか」
ガシッとムラマサの手をユダが止めてくれた
聞き捨てならないワードが聞こえたが、許してやろう
器は大きいのだ!
「ほう。そちらの御仁。なかなかやるようでござるな。もし一勝負、如何でござるか?」
好戦的な笑みを浮かべ、ユダを挑発する
「結構です。露出する趣味はございませんので、あとそちらの滑稽なパフォーマンスにも興味がございません」
意に介さず淡々と告げる
冷淡な態度に少し周囲がクールダウンした
謎の安心感
「あやや!手厳しいでござるなぁはっはっは!面白い勝負ができそうでござったのに残念至極。まぁまたの機会もござろう。………よい殺気でござったよ」
「何のことでございましょうかわかりませんね」
それよりと続ける
「良いのですか?あちらから警備隊が迫っていますよ」
「そこのお前たち!!ここで何をしている!認可されていない場所での商売と私闘は禁じられている!!そしてなぜ半裸なのだ!!直ちに連行する!!大人しくしろ!」
きっちりとした制服を着た警備隊が警棒を持って笛を吹きながら来た
「んなっ!?これはまずい。また叱られてしまう!では不躾ですまないが、さらば!またねーでござる!」
木箱の中に入った袋詰めの金貨と、笠を持って走り去っていった
とても素早く何事もなかったかのように消えた
「変人ですね。ああいった輩とは関わってはいけませんよ。一応トラブルメイカーの坊ちゃんにご忠告申し上げます」
無駄でしょうけど
と言って片手で持っていた袋の中から魚の形をした菓子らしきものを頬張っていた
「………好きでこうなったんじゃないやい」
ハァとため息を吐いた
「いやぁ、悔しいな!すまないな坊ちゃん、情けないところを見せてしまった。鍛えてもらっているのにユダさんもすまない」
「いや、僕のために戦ってくれただけでも嬉しいよ!何より相手の有利な勝負だったし、十分かっこよかった」
「そうですね。鍛錬メニューを数倍追加で許しましょう」
「ははっ、よい友人とご主人様で俺は恵まれているな!さらに強くなるからな見ていてくれ!」
ガシッと腕を空に伸ばしたヘイムを後ろで微笑ましく笑ったギリスが隣にいた
「はい、連行する」
「へっ?」
その腕を警備隊の一人が掴んだ
「な、なぜだ!俺は何も悪いことはしていない」
「なぜって、自分の格好を見てみろ!そんな裸で…聞き込みしたらここで裸で抱き合って揉み合っていたらしいじゃないか」
「そ、そんなぁ!?俺は無実だ!なぁ坊ちゃん」
悪寒で冷や汗が出る
このパターンはアレだね
「ん?君がこの人の主人か?なら一緒に同行したまえ。詰所で話を聞かせてもらおう」
「…………ひぇ」
さっそくやらかしたと思い
裸の使用人を暴れされたと悪名が広がる展開に
僕は涙した
「ふむ。豆も良いですが、クリームも美味ですね」
甘味を堪能してないで助けてと内心思ったが
届くことはなかった
《路地裏》
「ふぅ……あぶないあぶない、あぶないところでござった。これで一安心でござるな」
額の冷や汗を侍は拭う
「なぁにが、「一安心でござるな」だよ侍の兄さん。派手に暴れちまって、俺は知らないぜ」
暗がりから声がした
ムラマサは横目で窺う
「おお!シースン坊か!大きくなったでござるなぁ。あとそこで隠れてないで兄にその顔を見せてはくれまいか弟よ」
何もない暗がりから黒い布と鉢金をしたシースンと呼ばれた少年と同じ身長の男が音もなく現れた
「………お久しぶりです。兄上。ご壮健で何よりです」
静かな声音で淡々と言い放つ
そう言った割には鋭く冷たい視線だった
「シースンって名はもう変えちったよ侍の兄さん。今の名前は俺との勝負に勝てたら教えてやってもいいぜぇ。てか諜報や工作ばっかだと自分が曖昧になっちまってたまんねぇな。まぁ仕事だしなんでも俺ならこなしてみせるけどよ」
この国、各国の要人いるんだろう?そいつら全員やっちまえばいいんじゃねぇの?と
日陰から現れた少年は生意気そうな喋りで歯を見せ笑う
翠の目が淡く輝いていた
「ふむ。若者たちと会えて俺は嬉しいぞ!」
「や、やめろよ恥ずかしい奴だなあんた!俺は美人以外お断りだ!」
嫌そうに抱きついてきたムラマサの胸を押す
もう一人は一瞬で後方に消えた
「ふむ。年頃の若者の扱いは難しいものよなぁ、先ほどの若者たちは溌剌としてよい気心の男たちだったのに」
「知るか!あんた余計なことして目立ってんじゃねぇよ!俺らまで叱られんだろうが!俺はごめんだぜ。ぜってぇー失敗なんかしてやるか!頼むからこれ以上変なことすんなよ!御師様に言い付けるかんな!」
憤った様子で胸を叩く
ムラマサは笑顔のまま殴られている
「…兄上はこれでも失敗はしないお方だ。そしてお館様の不利益になることはしない。するぐらいなら腹を切る男だ」
静かに告げる
「ふむ。その通りだ。だが無駄死にする気はござらんよ。宿命を果たさんうちに志半ばで朽ちるなど死んでも死にきれん」
シースンと呼ばれた男の子の頭をぐりぐりと撫でながら語る
「なら何も心配はありません。同じ主君のため、作戦を素早く確実に成功させましょうそして…」
最後の言葉は小さく、他の者には届かなかった
ポンっと弟の頭を片手で撫でるムラマサ
「あまり気負いすぎるな。折角こうやって会えたのだから今ぐらい喜んでもバチは当たらんよ。それに、我らは見ている先は違くとも、志は同じ。一連托生でござる」
「はっ、俺はあんたらとちげぇからな!絶対認めさせてやるんだ俺はなんでもできるってな!凄いんだってな!」
お前もだろ?と弟の方に向ける
「私は粛々と任務をこなすだけ。…それ以下でもそれ以上でもない」
うむうむ。こちらの若者たちもいろいろ複雑でこざるなぁ
と内心思ったムラマサ
「……もう少しで刻限が迫っております」
「うむ。では参るか二人とも。死地に赴く勇気がないなら、今からでも引き下がると良いぞ」
「誰が尻尾巻いて逃げるか!こんな国俺一人だって落としてみせるぜ!」
「問題無用。全ては刃の心のままに」
まだ未熟な若者たちだが決意は固いようだ
これから起きる出来事のため集まった我らは
賑わいを背に、この国に起きる災厄のため
闇に潜み暗がりへ消えた
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