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第17話

「緊張してる?」 空を割くように黒い闇が現れた まだそこから何現れていないが僕にでもあれはこの世のものではないと理解でき、あそこから現れるものはきっと 碌でもないモノなのは確かだと感じた 「していない」 良く通る男の美声で答えが届く この男はどんな時も変わらなかった 変わるのは、いつも僕のことに関してだった気もする… 「僕は、少しだけ怖いかな」 痩せ我慢かもしれない そりゃ世界を滅ぼす軍勢がやってくるという 神話の化け物が来るんだ あの、魔眼による光景はサイファーによればあり得ざる未来の一つだそうだ あの阿鼻叫喚の光景は…… ただの映像であっても身の毛がよだつほど生々しく恐ろしかった 二度目の人生は堅実に生きたかったのになー 目の前に終焉きちゃったよあはっ なんて笑って虚しくなる 「あ…」 肩を抱き寄せられた その相手は僕で してきたのは隣にいるログナスだ 周りの人は慌ただしく動いていて離れているから注目はされていないけどやっぱりドキドキしてしまう 「なに、ログナス…」 「怖がることはない。何があっても…セウス」 前を向いていたログナスが僕の方を向く 「お前は必ず俺が守る」 強い眼差しでそう言った 僕は愚かにも見つめたまま、頷くことしかできなかった そんな僕を見ると優しく、いつものように微笑んでくれた それだけで僕は体の震えがおさまる やはり、伯爵の件から僕はさらにおかしくなってしまった 頭の中がかき混ぜられたような不快感と嫌悪感 そして恐ろしいほどの悦楽、そんな得体の知れない何かを感じた体の奥底から湧き上がるような危機感… あれは何だったのか、もし結界がなく あのまま見つめていたら僕は僕で無くなっていたのかもしれない 「準備が整ったようです」 音もなく静かにユダが現れた 母上は安静にしているらしい 「お疲れ様」 「そんなことより、何故ここにいるのですか」 その通りだと思う 作戦会議でも僕の名前なんて出なかった 「いるべきだと思ったから」 「…意味がわかりません。危険すぎます。お遊びではありませんよ?」 「うん。その通りだと思う」 「ならば!」 「でもね、ユダ。僕は見届けなきゃいけない気がするんだ」 「…なぜですか」 「理由は、良く説明できない」 「先程のあの男の言葉は気になさる必要はありません」 「…うん。ありがとう。でもそれだけじゃないんだ」 「…あの男ですか」 「え?」 「だから……だったのに」 顔を背け吐かれた呟きは聞こえなかった 「仕方ありませんね。ログナス様の邪魔になってもいけませんし、お供します」 「…ユダ」 「いいですか、本当に危険でしたらすぐさま逃げますよ」 「うん。わかった」 「はぁまったく…」 「ユダ、俺も全力でセウスを守る。お前もセウスのことを頼むぞ」 「頼まれなくてもそうさせて頂きます」 ご機嫌斜めのご様子だった 苦労をかけさせてばかりだな 帰ったらご褒美、用意しないと そんなことを考える … 空から闇が 落ちてきた ▼ 時を遡る 半刻前 「厳重警戒体制!!迅速に行動せよ!!」 街の魔法通信灯から音声が聞こえる それはこの国が未曾有の危機に晒されたことが始まったという知らせだ 警報音が鳴り響く 携帯している懐中時計で時間を確認する …もうすぐだ 僕がいるのは中央広場、だが人は少ない 青薔薇の騎士団員が数人いる程度で彼らは後衛だ …恐ろしいことに前衛としてログナス単騎… それは妥当だねうん… そして隣の僕だ 未成年の子供二人が主軸となって迎え撃つことになった …確かに戦力としては正しい。僕はおまけ程度だけど 単騎よりは……ね? 僕たちは魔術素養がこの国では高い 年齢や性別、子供だからというだけで分け隔てなく使う うん、合理的ですね 僕は自分で突っ込んできたんだけどさ既に後悔 ……あ 背丈の高い巨躯、銀冠の騎士…シルヴァが目の前を通り過ぎて行こうとしていた 来た道は…聖堂? そこにサイファーがいるのかな 確か作戦ではサイファーが精神攻撃を防ぐ広域結界の術式を神官たちと共に構築して守ってくれるらしい そして上位の眷属… 星の落とし子と呼ばれるうちの一体を僕たちが倒す手筈になっている もう二体のうち一体は騎士団長たち青薔薇と僕の使用人たちとなった 大丈夫かな…… どっちみち倒さないと全滅だけどさ そして最後の一体は 目の前にいる銀冠の騎士シルヴァが倒す算段らしい ……たった一人で 噂ではさまざまな話を聞くが、その真偽は不明だった だが各地で活躍して伝説となるほどその存在は大きい 前の人生では一度だけあったはず それはあの式典の前の日だった… 暇だった僕は時間を持て余していて、ログナスは忙しくて会えなくユダの目を盗んで散策した すると離宮の離れへと続く道を歩く姿を見た あの黒と銀色の鎧は印象的だ なぜあの時あの場所にいたんだろう 彼の国の人らは別の場所で逗留していたはず …もしあの日の襲撃者と関係があったら もし敵だったら…倒すことは今は不可能だ だけど 「あ、あの!」 駆け寄って話しかける 動きが止まり振り返る その威圧感に逃げ出したくなった こ、こわぁー… 「…」 「あ、あの、その…」 その目に見下ろされるだけで僕は身が竦んだ ッ! 後ろから肩を掴まれた そして抱き寄せられる 「大丈夫かセウス」 「あぅ…うん、大丈夫」 心配そうにしたログナスが側に寄ってきてくれらしい 情けなくも安心してしまった シルヴァさんは黙って僕たちを見ている 僕から駆け寄ったのに放置させてしまった 「今少し、お時間いいですか…」 一拍程の間を置いて頷いてくれた 「…許可は頂きました。少しなら構いません」 いつのまに許可とったんだ?通信魔術とか使ったのか、魔道具か 「ありがとうございます」 「それで、お話とは」 声音に温度を感じさせないそんな声だった まるで人形劇の人形が喋るようだった 唾液を飲み込み、意を決して問いかける 「あなたは黒装束のたぶん…男を知りませんか?」 「該当する者が多すぎます」 「で、ですよね。えっと…」 まだ王城に封印されている魔剣は持っていないはずだから それしか情報が… この段階でなら 「それと、恐らくですが堕天した者か憑依された者です」 「つまり神聖教会の咎人だと」 咎人… あの事件から僕は調べ上げたが、全く実行犯の手がかりは掴めなかった ただ王城地下は結界が破壊されているのに感知もされず に封印が解かれていた つまり何者かが結界を無力化し裏切り者が封印を解いたことになる そして二度目の対峙 あの時はレジスタンスのみんなと 子供を攫い実験していると噂の施設に襲撃した時だった そこの研究施設の研究項目に盗賊の誰かが関与している疑いがあったからだ 証拠を見つける前に奴が現れ以前より力を増してより鮮明な姿で現れた その時も奴はある武器を携えていた 「黒装束で、魔剣ダインスレイヴ…を扱える者です」 「セウスそれは…」 「うんわかっているよ」 国家機密だよねでも今手がかりはここにあるかもしれないんだ 「…一人、心当たりがあります」 ッ!!! 来た!やっと手がかりが! 「だ、誰ですか!教えてください!」 詰め寄る だがシルヴァは口を閉じたままだった 「それは、言えません」 僕は絶句した 何を言ってるんだ… 「な、なぜですか!?教えてください」 ログナスの腕を振り払ってシルヴァの傷ひとつない鎧の胸元を叩く 「落ち着くんだセウス!どうしたんだ」 「邪魔を、するな!!」 僕の体から黒と赤のオーラが出て伸ばした手を覆うようしてログナスを攻撃しようとした 興奮した僕の中に冷静な僕がやめろと叫んでいる 至近距離が災いしログナスでも当たりそうだ その腕ごと切り落としてくれればいいのに どこか他人事のように思った それでもログナスは剣を抜かなかった 「落ち着いてください」 「カハッ!?」 「セウス!?」 視界がぶれる 鋭い一撃だった 倒れながら僕は振り返る シルヴァさんの黒手袋に包まれた手の指先が僕の頭に触れていたようだった ログナスに受け止められ呼吸を荒くする 「貴様ッ!!」 僕を片腕で抱いたまま剣を抜くログナス ダメだよ、僕が悪いんだから… そう思って手を伸ばそうとしたが先程の光景が頭をよぎり 触れることはなかった 「ログ…ナス」 「待ってろセウス。すぐ終わらせる」 激昂したログナスはシルヴァさんを睨みつける それに臆した様子はなく 彼はただ静かに見下ろしている 『はいそこまで』 場を変えるような声が聞こえた どこからだ? 『きーこーえーてーまーすーか?』 間伸びした声で尋ねられる ど、どこからなの? 「聞こえております」 『あらそう?ならよかった』 僕たちの代わりにシルヴァさんが答えた この声は 「…サイファー?」 『ご名答』 フフフと笑い声が僕の首元、銀の羽根飾りから聞こえた 「なんで?」 『多機能なんですよこれ。阻害されない限りどこからでも話せるし見れちゃうんですよ』 それは、すごい へ?プライベートガン無視? 『大丈夫。ちゃんと配慮してるからね』 僕の心を勝手に読まないで… 『シルヴァは口下手、というか他人に興味がないから誤解されがちだけどいい子だから許してあげてほしい』 いい子って…この貫禄でいい子って言われても 『説明を』 「承知しました」 恭しく返事をした 「精神の昂りにより邪気を纏った魔のオーラを発動させたので、強制的に介入して遮断しました」 定時報告のように告げる それって、あの一瞬で僕の心界深層に入り込んだってこと? あれって良くないよね 切断しちゃえ!ってしたって事? 下手したら即死したり魔力暴走していたかもしれない なんて繊細な行為を片手間のように一瞬でしたんだ 『だそうです』 サイファーがそう言った 何か飲んでいるのか啜る音がした お茶してるのかもしかして 「そうだったんだ。ありがとうございますシルヴァさん」 「いえ感謝はいりません。お気になさらず」 そう答えられた 『あとさっきの話ですね』 通信機からクリアな声がそう言う 『シルヴァは私たち神聖教会の誓約として内部機密が言えないんだよ』 「それってつまり…」 『そう。神聖協会の関係者ってことになるね』 淡々と話す 「なら…」 『深入りはやめた方がいい』 「何を言ってるんだ!諦められるわけがないんだよ!」 『そうだろうね。別に諦めなくてもいいさ。ただ現段階で過剰に核心に触れると予期せぬエラーが出てしまうからね』 「さっきから、何を言って…」 そう言えばなぜサイファーは何か物知り気に話すんだろうか 何か知っているのか? 『ごめんなさい。君の魂に触れちゃったんだ』 申し訳なそうな声が聞こえる それって普通誰にもできないことじゃないか 魂に触れると言うことはつまり、世界の根源に近しい者だと 『そこからの思考はやめた方がいい。視られているからさ』 僕は言われた通り、そこからは考えるのをやめた 『大丈夫。後で話そう。君にとってもきっと悪くない話のはずだから』 「わかった…。必ず話して」 『ああ、約束するとも』 そこで話は終わった ▼ 気まずい… 先程のことできっとログナスは困惑しているに違いない 黙ったまま腕を組んで何もないところを凝視している こわぃ… 後ろで使用人たちと合流し打ち合わせを終わらせて戻ってきたユダはこの重苦しい雰囲気に触れず怪訝な顔を一瞬したが黙って控えている 視線がまた貴方が何かやったんでしょと責めている うぅ…… 「ねぇログナス…」 腕を軽く引っ張り呼ぶ 黙ったまま僕を見つめる 「…どうしたセウス」 「えっと、さっきのこと」 「ああ。俺もそれを考えていた」 やっぱりか 怒りに身を任せて僕は、ログナスを傷つけようとしちゃったんだ… 「ごめんなさい!!」 「すまなかった」 同時に謝罪の言葉を放った 互いに下げた頭を上げ、情けなく見つめ合う 「何がだ?」 「何を?」 互いに尋ねる 「…僕はその、ログナスが心配してくれたのに危険な目に合わせちゃったから」 「そんなことは問題ない」 「あるよ!」 顔を見つめるけど本当にそう思っているのか 堂々としている 「そっちは?」 「…俺は自分が情けなかった。話についていけず知らないセウスを垣間見て俺は」 「俺は?」 「…嫉妬した」 …………嫉妬? 僕に?なんで? 「あの男に駆け寄り親し気に話し互いにしかわからない話をし始めてそしてお前が不用心にも抱きつくから、俺は…」 「そ、そんなこと」 「そんなことではない!」 珍しくログナスは気が昂っているようだった 「しかも、セウスの異変に動揺して、あの男よりもはやく助けられなかった。俺は自分が情けなく許せない」 拳を握りしめながら言う 「あれは自業自得で、ログナスは悪くない」 「悪いに決まっている…。もしあの一撃が攻撃だったなら、セウスを失っていたかと思うと、俺は」 俯いてしまった な、なんなのこの展開 僕は慌てながらログナスの背を撫でて頭も撫でる ダブルだ 「そんなことないよ。ログナスはいつも守ってくれたよ」 「…でも、実際何もできなかった」 「しようとしたのを僕が邪魔したからだよ。僕が動揺して暴れたからログナスは鎮めようとしてああしようとしたんでしょ?」 「…そうだが、あいつに先を越された…」 「そんなぁ…先とか後とかないよ」 「…死ぬほど悔しい」 「そ、そうなの。でもさ、ログナスが一番心配してくれたしさ。あの場にログナスがそばにいなかったらあの人に酷いことしちゃったかもしれない僕のこと、止めてくれてよかったよ」 「あいつはどうでもいい」 「へ?嫌いな感じ」 「嫌いだ。俺より強いからな」 目が据わっていた 実力者同士…感じるものがあるのかも知れない 「今は仕方ないよ。年齢差とかあるし、よくわからないけど」 「わかっている。必ずやつより強くなる。必ずだ」 僕を抱き寄せ肩に顔を埋めて言う。くすぐったい! 「うんきっとなれるさ!」 「もちろんだ。セウス見ていてくれ」 「うん!」 抱きしめ合いながら見つめ合う やっと元に戻ってくれて一安心だ… 意外とネガティブ…というか負けず嫌いなんだね 子供らしい一面が見れて嬉しいよお兄さんは よしよしと届かないので背を撫でる するともっと抱き寄せられる いつも通りで一安心だ 「何の茶番ですか…」 離れている所にいたユダがつまらなそうに言った

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