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第9話

優雅にアンティークの机椅子に座ってこちらを見ているログナスの前で僕は固まってしまう なんで僕の部屋にログナスがいるんだ? 「少し風が冷えてきたな。そんなところにいないでこちらに来い。今温かいお茶を淹れよう」 席を立って僕の肩を抱いて室内に進むのを促す 彼からシトラスの香りがふわりと香る ログナスは部屋の真ん中にあるテーブルの椅子に僕を座らせ、茶器に触れ魔力を流しお茶を温め直したらしい 魔石を介さずに相変わらず器用だと思考が落ち着いていない頭のまま僕はそんなことを思った 「ユダのように上手くは淹れられなかったが、飲んでみてくれ」 「うん。ありがとう…」 ティーカップに注がれた紅茶を一口飲む ふわりとベルガモットの香りが僕の波立つ心を落ち着かせた 「じゃなくて!?なんで僕の部屋にいるの?」 慌ててそう問うと 「相部屋だからだ」 当たり前のように僕の正面の席に座ってそう言いのけた 卒業生だよね?朝から隣のベッドが空いてるからドキドキしてたのにまさかログナスだったなんて… 落ち着き払っている彼にさらに聞くと、サイファーに直談判してこの部屋を勝ち取ったらしい 「何処の馬の骨ともわからない輩にセウスと寝食を共にさせるなんてあり得ないだろ」 と当然のように言われた 最初は相手にされなかったらしいが貸しを作る形で交渉は決したようだ 昔から特に固執したりしない人物だったが、固執すると頑固さを発揮して何がなんでも実現させる男だった 僕は内心呆れながらも そこまでして僕のそばにいてくれようとしたことに素直に嬉しいと感じた 面と向かっては言えないけど… 「これでセウスの学校生活も安泰だ。なんでも俺に任せてくれ」 保護者付きか… と内心呆れる 「…忙しいのにずっとはこっちにいれないでしょ?」 彼は国の最上位騎士だ 多忙で国の一身を背負っている 「それについては問題ない。遺憾だがずっと側にいることはできそうにないが、学長のおかげで問題点がクリアされた」 問題点?と思ったがログナスを見るとその綺麗な横顔が目に入りこの部屋から暮れた景色を見ていた 僕も同じように黄昏時の景色を見た 暮れ泥む夜色に光が散りばめられた景色はどこも一緒で綺麗だと思う 少しだけ、屋敷での生活を恋しく思った 「セウス?」 名を呼ばれて振り向くと白くて長い指が僕の頬に触れた 少しだけ冷たい体温が感覚を刺激する そして頬に添えられた手が心地よくてつい猫のように頬を押し付けた クスッと微笑んだ僕だけに見せる笑みに、照れを感じたが二人きりなので甘んじて受け入れる 「…疲れたのか?」 心配するような声音だ そして頬に添えられていた指が輪郭をなぞり 耳から髪の毛を掬うように差し込まれた 「少し熱いな。お前のことだ。緊張して頑張りすぎたんだ。もう寝るか?」 甘やかされる だから僕はいつまでも……… 「ううん。大丈夫…」 「無理はするなよ…」 慈愛のこもった優しさに気持ちがいい 「……んあっ」 僕が身動ぎしたせいでログナスの指が耳をなぞる様に触れたせいで変な声が出てしまって顔が赤くなる 「………セウス。お前は本当に…」 席を立ったログナスが僕に近づく またシトラスの香りがした ログナスはベッドに座っている僕に膝を曲げて耳元に口を寄せて 内緒話をするような仕草で声を出す 「可愛いな….」 その低く甘い男の声で僕は心臓が高鳴り、一瞬息が止まりんはっと息を吐く 「も…」 「…も?」 プルプルと震え出した僕はログナスと離れ態とらしく咳を吐いて歩き出す 「もう無理!シャワー浴びてくる!!」 室内にある浴室に向かった バタンと扉を強く閉めた 青いタイルが僕の気持ちを落ち着かせる 鏡に映った自分がひどく滑稽だった 「セウス」 「な、なに?」 扉の向こう側からログナスに声をかけられる 「一緒に入るか?」 「ッ!?入らない!子供扱いしないで!」 シャーーー… 服を乱雑に脱いで浴室に入る 魔石が嵌め込まれたノズルに触れるとすぐに熱いお湯がでた 湯煙が僕を包む 熱めのお湯が今の僕には丁度よかった 終わって部屋に戻ると机のランプが落ち着く灯りを灯しておりログナスがベッドにいた 「………そこ僕のベッド」 「?…一緒に寝るだろ?」 当然のように言われたが寝ない!と叫んで別々で寝た ふかふかのベッドで疲れていたようですぐに寝てしまい 小鳥の囀りで目を覚ました時、ログナスに腕枕をされていた状態でおはようと言われ僕は朝からため息を吐いた 不覚にも安眠のために役に立ってしまった年上の幼馴染の朝から爽やかな笑みを見て僕は脱力した ガチャ… 音がして振り向くと 「俺は腹が減ったぞ!……んん?」 「イトスー。ダメだよ勝手に入っちゃ?ノックをしてから入らないとフォルテに怒られちゃうよ。……わぁごめん!」 「なぜ基準が俺なんだ。当然のマナーだろうが。俺はさっさと朝飯を食べて勉強を………………ふ、ふしだらな!?」 入ってきた三人に僕は現状を見られ 涙した 「もうみんな出てって?!!!」 騒がしい一日の始まりであった ◆ 「であるから属性の相関性の理解は必要不可欠であり、多元化された分野で相互性の理解があれば魔法、魔術の真髄に近づきます。そこで……セウス君?」 「……はいっ」 慌てて返事をする いけないぼうーとしてた なんだか最近寝ても寝不足というか、夢見が悪いというか…起きると内容は忘れているんだけどさ ええと… 「魔術属性の適性に関して…先天的なのが基本的に素養として認知されますが、後天的に属性が開花する場合が確認されており現在では複数の事例として確認されております」 「その通りよく勉強してますね。日が暖かいですからね。私の授業中はなんとか頑張って起きてくださいねセウス君」 「は、はい」 そう揶揄われクスクスと笑い声が微かに聞こえ恥ずかしくなりながら着席する 両隣ではケイとイトスが気持ちよさそうに寝ている フォルテはしっかりと目を開けて勉強していた 視線に気づかれたけど嫌そうにされて逸らされた そこからは意識がはっきりしたのでちゃんと授業に戻った 朝はクラスの自己紹介から始まった 緊張しまくって噛んだのは忘れたい記憶だ とりあえずお昼 昼前の授業は一つだけで魔法の基礎的な歴史学だった お昼をシェフ猫さんと他愛無い話をして美味しいランチを食べてケイ達と離れた イトスが眠いというのでフォルテにリードを手渡した その際キョトンとした表情のまま置いてきたけど 怒られないよね なんだかんだ面倒見良さそうだし 僕は階段を降り調度品が並ぶ通路を歩く しかし何度も思うけど、学校にしては豪華すぎるというか 美術館や王宮の中のような学校だ うーん、こっちかな? うろ覚えの校内の敷地図を思い出しながら歩く 暖かい日差しに冷たい風が心地よい この国は環境に恵まれているのがよくわかる 神気が強い土地だから魔族の襲来もないみたいだし敬虔な信徒が多いから争いも少ないようだ 聖地だからかな? 世界にも同じようなパワースポットがあるがここは異常なくらいだ もしかしたら何か秘密があったりして… 「ここかな?」 大きな扉を静かに開けるとそこには光の芸術のように美しいステンドガラスが室内を照らしている 美しい音色が耳に届く 奥には大きなパイプオルガンがあった ゆっくり歩き中を進むと、パイプオルガンの前で一人の少年が演奏していた 目を瞑り何か、祈りを捧げるように どこか悲しげな表情で演奏される音楽は壮大でありながら 鬼気迫るものを感じた コツッ 「だ、誰ッ!?」 ひどく驚いた少年の声は未成熟独特の高い声だった 僕は長椅子に足がぶつかってしまい演奏を邪魔してしまったのを謝ろうとした 「ごめんなさい!図書室かと思って入ったらここは…礼拝堂?」 そう謝りながら近づくと少年は恐れるように身を小さくしたので止まる 「…………確かに、ここは礼拝堂、です」 「そ、そっかぁあはは。迷子になっちゃったみたいで、でも迷ったおかげで素敵な演奏が聴けて良かった、なんて」 下手な誤魔化し方をして場をやり過ごそうとしたけどやはり空気が重かった さっさと退室した方が互いのためかと思い踵を返そうとした時 「…………僕の演奏なんて、紛い物、だから……」 今にもかき消されそうな声は僕の耳に届いた 「そんなこと無いと思う」 「………えっ?」 彼は俯いていたがその言葉に顔を上げポカンとした 表情を見せてくれた 柔らかそうな猫っ毛に淡いオレンジの瞳 可愛いなと素直に思う 今更恥ずかしくなり鼻頭を少しかいた 「僕は君の弾くオルガンの音色はとても素敵だったよ。…繊細なのに情熱的で、まるで船に乗って夕焼けを見ているような情景が見えたようで…って素人感想で恥ずかしいな」 つい語ってしまい羞恥心を感じる でも本心だった 少年は驚いたまま固まってしまい、ねぇ大丈夫?と問いかけるとピクンと動きそして顔が赤くなった そして真っ直ぐ立ち上がった 「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくはそんな、そ、そそそんなすごい感想を貰えるようなものじゃないよ。で、でも、あの…」 ぎゅっと胸を押さえながら話す彼は苦しそうで一生懸命だ 眉を寄せて僕を見上げながら潤ませた目でみる姿に 小動物のような愛くるしさを感じる 「あの、ど、どなたか存じませんが、あ、ありがとう。褒めて、貰ったんだよね?うん、…とっても、嬉しいなぁ」 ふにゃっと安心したように微笑む姿に僕はキュンとした 破壊力がすごい子だ ついまじまじと見つめてしまいそれに気づくと彼は視線を逡巡させた後恥ずかしそうに俯いた 恥ずかしがり屋さんなのか 思わぬ癒し系の人と出会い癒された僕だった 「えっと」 「ん?」 もじもじとしながら小さな声で話す その仕草がいじらしい 「……図書室…ですよね。確か…。僕でよければ、案内します」 「本当!」 つい声が大きくなってしまいビクッと体を揺らした ごめんねと謝った 「じゃあよろしくお願いします。そういえば自己紹介がまだだったね。セウス・クルースベルです!君の名前は?」 笑顔で手を差し出した そんな僕を見て彼は瞳を丸くして驚き目でどうしたの?と尋ねるとハッとして慌てて姿勢を正した 「ぼ、僕はインデックスNo.01、ルイエと言います。ど、どうかぼくと、な、仲良くしてください!」 ふわりと癖っ毛が揺れ、顔を赤くしてルイエは息を乱しながら言った インデックスNo.01?どういうことかな? 「うん。ぜひ僕とも仲良くしてほしいなルイエ!」 胸の前で震えているルイエの手を握りしめ握手すると 瞳を潤ませながら彼ルイエは、嬉しそうに微笑んだ ◆ 解放してある窓から中庭で昼休みを謳歌している生徒の笑い声と話し声がわずかに聞こえた 見るとボール遊びをしているようで真新しい学生服の上着をベンチに置いて騒いでいるようだ 楽しそうに学友と交流する姿がそこにある それを見つつ 僕は前を向く そこには柔かな春の日差しを浴びながら廊下を進むルイエがいた 彼は校内を把握しているようで歩みを止めることなく図書室に向かって歩みを進めている 軽やかに談笑しながらの時間は楽しくて充実している 嬉しい……僕にも普通で平穏なお友達とお喋り!できるなんて …友達って言っていいよね?基準とかわからないけど… めんどくさいとか思わないでほしいよ 「……うん。僕は、暑いのは平気かな。……寒いのはちょっと、苦手だけど……。クルースベルさんはどっちかな?」 「セウスでいいよ。僕もルイエって呼びたいし、いいかな?僕はどっちも苦手だなぁ。暑くて屋敷に篭っているとカビが生えるとか言って執事に追い出されるし寒くて篭っていると掃除の邪魔とかいうんだよ?信じられる?やんなっちゃうよ」 僕がわざとらしくおどけて言うとルイエは口元を手で覆って笑いを噛み殺していた 「……フ、フフ、ウフ、ご、ごめんなさい笑っちゃって。じゃあ僕も、セウス君って、呼んでもいいかな?」 恥ずかしそうな声がだんだんと小さくなっていくルイエ なんて無垢で純粋な子なんだ 周りで与えられるストレスが溶けていくようだ そんな心が癒される時間を過ごしながら目的に着いた 「……図書室……?」 見上げたそこには一つの水晶があった そう、丸くてツヤツヤの塊 床の台座に確かに金属のプレートにはライブラリーと書かれている ルイエはチラッと僕を見やった後水晶に手を翳した すると淡い光を発光させ水晶は輝き出した 「な、なに!?」 一瞬で光が溢れ景色が変わった 目を庇っていた手を退けるとそこは一面が本だらけの 図書館だった 中には人が疎にいるようで、静かに読書するものや 本棚の前で本を探している人もいてやはりここは図書館だと確認できた 「これって…」 「ここは皇立図書館だよ。…市民であれば誰でも利用できてたくさんの人が利用しているんだ。セウス?」 ポカンとしたままの僕を不安そうにルイエは見る 「…すごい蔵書の量だね」 何階建てなのか…見上げると霞むぐらい高い 所々に水晶が設置されていた僕たちのように人が転移してやってくる やっぱりあれは転移装置…… 普通は王族クラスが有事の際に利用するぐらい貴重なもので易々と使うことはできないのにこんな当たり前みたいにあるなんて驚かされた 「ああ、…あの転移水晶は決められた範囲でしか利用できないし記録されるから悪用もできない、みたい。書は人が人である為に万人に利用されるべき、というスタンスであるみたい。詳しいことまではわからないけど、沢山の人がいるね」 国にとって書物とは国の豊かさと歴史の証明である それがここまで恵まれているのはそれだけ国力を示しているともいえた 市民が読み書きもできない人や国など山ほどあるのに、つまりこの国の教育機関がしっかりと機能している証明だ そりゃ世界一の名門校があるくらいだし当然なのかな 「…あの」 また考えに夢中になってしまいルイエが不安そうに話しかける 「ここに用ってことは、何か探し物があるのかな?よ、よければだけど、レファレンスしようか?僕、結構ここに詳しい、よ?」 辿々しく言うルイエはなぜか申し訳なさそうに話し、僕に勇気を出して踏み込んでくれたのだろうと僕は感じた 「まずはここ数年の記事とか載ってる新聞を読みたいな」 そう言うとルイエはとことこと歩いて中央に並べてある転移水晶にまた向かう それについて行き、隣に立つとルイエは水晶に触れ起動させた すぐに淡い光に包まれて景色が変わる 「…三階の東エリアにあるよ」 「ありがとう!」 窓から白い光が差し込んでいる 見える外は何もなくきっとここは作られた世界なのかも知れない 魔術師が己の秘匿される知恵や秘法を隠したり研究するための工房として小さいのを作るのは知っているけどこの規模は信じられなかった …一度目の僕も、暗黒魔術の研究のために工房…研究施設などがあったがここまでの異空間を用意するのはとてつもない技術だ 白亜の城と一緒で中も白いけど本棚の横にさまざまな植物が植えてある 中には見たこともない植物もある そういえば中央にも大樹があって白い枝に青い葉が印象的だった ええっと…案内板には確かにこっちみたいだ ……… 棚に並んだ書物の奥に新聞が並んであった それを過去五年分ほどとり近くにあったテーブルに座る するとルイエが湯気の立つカップを前に置いてくれた 「ありがとう。カフェオレかな。どこでこれを?」 ここでカフェスペースのように使っていいのかと頭によぎったがルイエが言うには中央で注文すれば配達してくれるらしい 誰が配達してくれたの?と聞こうとしたら 「うわっ!?」 僕の足元を冷たい何かが通り過ぎた 見ると丈の長い服を着た人………ではなく人形がそこにはいた 「…….に、人形?」 僕が驚いて見ているとルイエがそれは自動人形だと言った 「ここの建物内には沢山配置されていて、案内だったりレファレンスとか結構なんでも、便利な人形だよ」 笑みを浮かべた後去っていった後ろ姿を見つつ聞いた 確かに魔力を感じたから術者によって簡単な命令を聞く程度の性能か….すごいなぁ 幅広く利用できて機能できるなら、世界的に活躍しそうな話だと思った いけないいけない… また本題から離れちゃった いただいたカフェオレを飲みつつ、新聞を読む 今回は必要なことだけ知りたいので魔道具の速読の眼鏡を取り出して読む ……… …………… 魔術研究の権威である科学者が行方不明 組織的犯行で誘拐犯罪増加。王族が動く 魔獣の群れ発生。近隣の村が壊滅 毒沼の霧により家畜に多大な被害 裏オークションで人身販売か。神聖騎士により検挙 銀冠の騎士活躍。山ほど大きい地竜討伐 呪術師による犯行か。四大貴族次々と病に 非人道的研究施設。謎の消滅 現る。見せちゃうおじさんの秘密を暴露 神聖教会。邪教の本拠地を発見。死傷者多数 太陽の国。二人の王子に密着 青煙の森で謎の叫び声。取材陣単身乗り込む あの有名第二王子!!黒幕説はガセ?可愛いだけが正義じゃない ……… いくつか気になるのはあるけど詳細はそこまでないのか まぁ大体何があったか知れればよかったけどさ 自国だけではなく他国でどんな情報が開示されていて報道されているのか知るのは大事なことだと思い情報収集のためここにきた やはり、僕の知る過去の出来事と少し違う あの式典から大きく違うし、もしやと思ったけど 何が違う?どこに犯人に繋がる情報があるかわからない 結末を変えるために尽力しないと…… ふぅ、と一息ついて顔を上げるとルイエがちょこんと前に座っていた 夢中になって忘れてしまっていた 「ごめんねつい夢中になっちゃって」 「……ううん。大丈夫、だよ。こうやって、読む君を見てるの、結構好き、かも」 少し頬を染めて話す なぜか僕まで気恥ずかしくなった 場を誤魔化すように席を立つ もうすぐお昼休みは終わるし戻ろうか 「僕の用事は終わったからもう出ようか!あっ、ルイエは他に何かある?」 特に用事はないと言うので共に退館しようと新聞を持って棚に戻して歩く 「ルイエはよくここに来るの?」 「僕?…よく来る、よ。…じ、実は管理を任せてもらってるんだ」 「へぇ!すごいね!こんな広いところを管理するなんて」 僕の言葉に慌てるように小さく手を振った 「ち、違うよ。僕一人じゃないから、ね?流石に全部は、無理で兄弟たちが一緒に、管理してる」 へー兄弟いるんだ ルイエがこんないい子だし会ってみたいな 僕にも兄弟がいるという話をするとルイエは興味があるようで話を聞いてくれた 耳を澄ますと館内には小さい音で音楽が鳴っているようだった 静かでありながら落ち着く音色で読書には最適そうだ また今度来てゆっくりしよう 他のみんなにも教えたいな ルイエも紹介したい 意外と僕、学生生活充実してる感じ? 嬉しくなって足取りが軽くなった そんな僕を見て不思議そうな顔をしたルイエは微笑んでくれた この階の転移水晶まで近づいた 僕はルイエの真似をして水晶を起動させようと手を触れ 魔力を流した バチッ! 「えっ?」 魔力を流した瞬間不穏な音がした 視界が歪む 「いて!」 尻餅をついた 「いてて…。なんなんだよ。もう…」 痛みを感じたお尻を摩りながら立ち上がる ………………………………… 「………え?」 見上げた先には 一面の"黒" そこは先程いた緑と白の静謐な図書館ではなく 真逆の漆黒に染められた図書館だった まるで世界が反転してしまったかのようだ 「ここ、どこだ?さっきとは、別だよね…」 不安感で汗が流れる 本能がつげている ここはまずいと、どうにかして脱出しなければ そう思い振り返ると白い図書館にあった水晶があったが それも真っ黒だった 触れてみても何も反応がない どうすればいいんだ…… 仕方なく… 黒い図書館を歩く 床天井壁、窓の外も黒い なのに見える 僕の姿はちゃんと色がある 本棚の本も黒いようで統一した黒さだった 「ここはなんなんだろう…」 思い浮かぶのは、…禁書庫 表に出せない内容の本や魔術者の秘匿した術法 触れるだけで呪われたり、読むと精神が錯乱する本や世界を滅ぼすことができる本もあるなんて聞いたことがある 魔術者の術とは基本的に門外不出だ それだけ貴重で、危険なのもなのだ 僕も数冊所持していたが解明できないものばかりで封印していた そんなことを思い出しているとある棚の一冊の本 それだけが赤い本だった ふと側により、手を伸ばした 触れて棚から取るとずっしりと重い なのにしっくりとくる これは僕の"本"だ そんな考えが浮かぶ まるで取り憑かれたように何も書かれていない表紙を撫でる そっと、表紙を開こうとした時 異音が聞こえた ギィシャア………グルルル……… 獣のような唸り声 それはまさに獲物を見つけ舌なめずりするような音だ 体が固まってしまう 目が、合ってしまった 長い尾が床を叩き黒い躯体が鈍く光っている 一つ目の眼光からは赤い閃光が瞬いていた 両腕のような鉤爪からはドス黒い死の気配を纏った オーラが放たれていた それはまさに神話にある冥界で死者を喰らう化物そのものの様だった グルルシャアアアーーーー!!!!! 耳を劈くような咆哮が響いた そして僕にもわかった。わかってしまった こいつは今僕を、殺そうとしている 「…ヒッ!」 空気が抜けるような音が僕の中からした に、逃げなきゃ あんな化け物、勝てるわけがない ま、まずは 「鉄を溶かせ!猛き炎よ焼き尽くせ!」 魔術を放ちその隙に逃げれば そう短い間に目算したが無駄だった 微動だにせず炎に包まれた化け物は嘲笑うように吠え 無傷だった 鎌のような爪が僕を映す 震えながら手を伸ばす 「遠き稲妻よてきを」 詠唱途中に奴の鋒が、音も無く僕の首を刎ねていった

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