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第8話
仄かに香る花の香
白みがかった灰に銀の十字架が音もなく鎮座する
闇の中 空っぽの王座 欠けた王冠
血塗られた真っ赤な自分が見つめていた先に
愛しい が 壊れていた
〈己の罪を 忘れるな〉
………………ーーーー
「セウス!ねぇセウスってば」
「にゃ!?ッはい!!」
……………
一同の視線が集まっていた
「あはは!にゃって。猫なのかなセウスはー、あはは」
柔らかい声音で僕を呼んでいたのはケイだったらしい
「ぼ、僕いつのまに寝ちゃってたんだ…」
「ぐっすりだったね。俺もお昼寝したかったよー」
お昼前だから朝寝?と言ってニコニコと笑っている
「……もうよいだろうか。よく寝れたようで何よりだセウス・クルースベル騎士候補生殿」
冷ややかな声が僕を嗜める
視線を向けると教壇で片手で黒表紙の本を開きながら狼の仮面の騎士が声と同じ、冷たい視線を向けていた
「も、申し訳ありません!」
「…申し訳ない。と感じる感性と知性があるなら反省したまえ。次は罰則を与える」
「り、了解しました先生」
勢いで立ち上がったままだったがおずおずと座った
初日から色々やりすぎじゃないか僕?ダメな子なのか?
少し泣けてきた
「大丈夫だよセウス?眠くなっちゃうのは、仕方ないこと。一緒に寝る?」
僕の頭を撫でながらケイが言う
ここで寝たらきっと学校の外で目が覚めることになるだろう
初日から何をしていらっしゃるんですか?もしかしてジョークのおつもりで?つまらなすぎてシバきたくなります
とかあの陰険執事に言われちゃう
「…いい加減にしろ貴様ら」
「「…」」
隣で腕を組んで怖い顔のまま僕たちを見ずに前を向いたままフォルテが怒りを込めた声で話す
ここは大人しくしとこう
別に騒ぎたいとか思ってないけどさ
「コホン…。春の陽気で夢現の弛んだ者たちが多いらしい。もう一度だけ言おう」
明らかに僕に向けてだろう
すみません
「私は貴殿ら将校及び騎士候補生の諸君らの統括教官であるオルドだ。オルド教官と呼んでくれたまえ。そして…」
一拍の間を置いて告げる
静かに仮面を外した
微かに整えられた短い藍色の髪が揺れ、
黄色の瞳輝く相貌が僕たちを捉える
まさに武人としての貫禄があった
「銀冠の騎士第四席を賜り叙勲された者だ。本来は教職に身を置ける立場ではないが、これも未来ある若者を育成するためにこの場にいる。軍規法執行官としての役職もあるので貴殿らは立場を理解し、己を律し節度ある行動をとりたまえ。学生だからと言って一才手を抜くことはないので以後よろしく頼む。…質問のあるものは?」
静かに問いかける
心地よい低音の声が教室に響く
「はい!」
隣から大きな声と挙手をした青年がいた
フォルテだった
まさに、何というか優等生感が滲んでいる
「質問を許す。述べたまえ」
「はい!ありがとうございます!サー・ロイドはどのようにして銀冠の騎士になったのですか?」
真っ直ぐに見つめ問いかけた
世界で活躍する銀冠の騎士だがその実態は謎だらけで、以前サイファーに教えてもらって少しばかり情報を得たばかりだった
「敬称はいらない…銀冠の騎士に任命される為の必須項目はない」
「…それでは誰でもなれるのですか?」
「その質面に対して、機密情報もあるので開示はできないが基本的にある方により銀冠の騎士として任命される」
「…それはどなたでしょうか」
「神聖教会最高位神官、大異端審問官でありこの学校の学長であるサイファー殿である」
「……つまり、あの方に認められればなれるのですね」
「どうだろうな。…因みに今まで志願してなれた者は一人もいない」
「それはどういう意味ですか?」
「なるべくしてなった。というべきか。私からはここまでしか話せない」
「……回答ありがとうございます」
明らかに不服そうにして着席するフォルテ
もしかして、銀冠の騎士を目指しているのかな
それはすごい夢だな
夢……か
「…他に無いようだったら「はーい」…ケイ、間延びした口調は控えたまえ。質問は?」
「今日のお昼ご飯は何ですかー?」
……………
一同が固まってしまう
見るからに怒気を発した教官
「その質問は学食を担当しているシェフに聞け。では次に進める」
淡々と工程を進めるようだ
「この後貴様らは班に別れもらう」
!?
そんなのあるの?ぼ、ぼっち確定じゃん
いや、ケイがいる。ねぇ一人にしない、よね?
横を向くとこくんこくんと船を漕いでいるケイがいた
…………
「一週間の間に基本的に五人以上、班員の構成に対する相談も可能とする」
基本的?……含みがあるなぁ
「その班で一年生活を共にしてもらう。一週間以内に決まらなかったら罰則として座学を放課後二時間追加する」
ちなみに、と続けた
「決める方法は委任する。死人などがでなければいい。重症程度ならこの国の医療技術から三日で治る。恐喝などは問題外だ。質問は?…では午後からは自由行動とする。この学校の生徒としての矜持と品性を持って生活をするように。あとは担任の…」
こちらからは見えなかったが、オルド教官の隣にいたらしい人物が一歩前に出て現れた
「皆さんはじめまして。担任のエトスといいます。若輩者ながら皆さんの学業と生活のために尽力したいと思っています。……よろしくお願いしますね」
柔和な微笑みを浮かべた細い男性だった
白髪に青い縁の眼鏡があって文学的雰囲気を感じさせる
「…返事をせんか!」
「「「はい!!」」」
教官の一喝により慌てて生徒たちで返事をする
エトス先生はあははと朗らかに笑っていた
…優しそうな先生だな
「あと後日クラス委員長など決めていきますので皆さん考えておいてください。何か困ったことがあればなんでも先生に相談してくださいね。では解散です」
一礼をして先生たちは去っていった
生徒たちもやっと一息付けたのか所々に談笑しながら退室していく姿が見受けられた
………
(どうしようかな?と、友達作るのは最初が肝心だって本に書いてあったしここは攻めるべきか。いや舐められないようにクールにするべきか。ううむ)
「ふぐあっ!」
突然グイッと引っ張られて机に腹が食い込む
い、いったい、痛いです先生
既にいない先生に内心で告げた
見るとずっと寝てたのか
欠伸をしながら人の姿のイトスが顔を上げて何か匂いを嗅ぎながら動いている
「ちょ、ちょっと痛いよ」
「なぁお前!俺様は腹が減った!」
「……」
ドックフードは購買にありますか?
人権団体に聞かれたら発狂されそうなことを思った
「僕はお前じゃないよ。セウスって言うんだ」
「なぁ腹減った!」
「……チッ」
思わず舌打ちをしてしまった
「ほら、起きろケイ!いい加減にしろよお前寝てばっかの寝坊助が!」
隣で騒いでいるのは寝ているケイを起こそうとしているフォルテだった
大きな体を揺られていても起きないケイ
フォルテだって身長は一緒ぐらいでも大きさは負けていて苦労しているようだ
見ていると睨まれた
「なぜ見ている!」
ふぇ不良だ
難癖の鬼だ
「べ、別に何でもない」
「ふぁ~~…」
「ふぁ~じゃない!いつまで面倒を見させる気だ!」
「おはようフォルテ」
「おはよう。じゃない!」
漫才のように騒ぎ立てている
「あー、お腹すいちゃったな」
「………なら食堂に行くか。数量限定の格安ランチを確保せねば」
「あは。お母さんたちみたいなこと言うねー」
「うるさい!倹約家と言え!」
「そうだ!学校の案内がてらセウスたちも一緒に行こうよ」
「いいの?」
「おい!俺は許可してないぞ!」
「まぁまぁ」
騒がしい僕らは教室で残り最後だった
「よぉ」
「うわっ!?」
驚いた僕の声と他のみんなが振り向く
そこには正装を脱いで学生服を着たヒスイがいた
その首元の襟には紫のリボンがついていた
「……誰だ貴様」
フォルテが訝しんで聞いた
「口の聞き方には気をつけろよ後輩」
ヒスイは戯けるように言ってリボンをつつく
「……最高学年……。失礼いたしました」
「いいぜ。可愛い後輩の間違いぐらい許してやる」
一瞬眉がぴくって眉が動いた
だけど態度には出さないようフォルテはしているようだった
「何しにきたの?」
僕は純粋に尋ねた
するとピンッとデコピンされる
い、痛い
「健忘症かお前。掃除当番だろ」
「あっ」
そうだった
やらかして掃除当番を命じられたんだった
「ええー」
「ええー。じゃねぇよ。サボりなんてゆるさねぇからな?まぁ午後からでいい。飯行くんだろ?先輩が案内してやるぜ!」
着いてこい!と言ってヒスイが先導する道を歩んでいた
さっきからリードが引っ張られて歩きにくいよ…
教室を出ると疎に生徒がいた
穏やかな太陽の陽が校内を照らしている
窓からは緑色と様々な花の色が外庭で美しく咲き誇っているのが見られた
騒がしく僕たちは通路を歩き外通路を歩き渡ると、大きな建物に入っていく
見ると同じ新入生と思われる生徒が上級生に声をかけられて話していた
その手には馬術クラブと書かれたチラシが握られていた
上級生が僕たちを見て動こうとチラシを持った腕を伸ばしかけたが、ヒスイを見て固まり動かなくなった
そして遠巻きに見ている
なぜだろう?
「あ、あの!」
男女の上級生の一人が話しかけてきた
白のリボンだから、何年生?
「ヒスイ先輩ですよね?お目にかかれて光栄です!」
さっきまで欠伸をしながら歩いてたくせに
話しかけられた途端、謎のキラキラを発して
まるで王子様風の好青年みたいになって相対した
「そうだけど、君は?三年生だから後輩だよな。面識は…あぁこの前の魔術実技試験の担当した時だった時いたよな?」
その発言に女性は驚いた顔をした後頬を染めて嬉しそうに笑った
「そ、そうです!覚えてくださったんですね!あの時、私が一度ミスをして魔術が不発した時ヒスイ先輩に助けてもらったんです。改めてあの時はありがとうございます!」
「そうそう。怪我は、無かったよな?可愛い女の子が傷つくなんて許せねぇし良かった」
「え!?あ、あの…」
女の子の手を自然を流れるように握ってキメ顔でヒスイはそう言った
後ろでもう一人の男の人が複雑そうな顔をしている
あらまぁ…
「ねぇねぇ」
「あ?なんだよ今いいところなのに」
小声で話しかけた僕に邪魔そうな態度だ
まったくこんなところでナンパなんていやらしい
「お腹すいたんだけど」
「はぁ?もう目の前だろ?これだからお子様は」
お子様だとぉ!?
「あ、サイファーだ」
「!?!?」
ビクッと揺れて離れ当たり見回した
「てめぇ…」
「ほらほらお昼食べに行くよー」
頭を下げて二人の上級生から離れた
まだ文句を言っているヒスイを連れて皆んなで食堂に向かった
「これがこの学校の最上級生か……。しかもシルバーブローチ所持者とは…」
「元気でいいねー」
「お前わかってないだろ」
後ろでケイとフォルテがそんなことを話す
「シルバーブローチ?」
振り返ってそう問うとフォルテがため息を吐いた
失礼じゃないかな?
「シルバーブローチってのはねー」
「おい。一先ず食事をしてからだ。いつまでも進まないだろう」
確かに
大きなは扉の奥には沢山の生徒がいた
そしていい香りがしてついお腹がクゥと鳴る
「さぁ飯だ飯ー」
と言ってヒスイは列に並んだ
「えー、今日は点心セットあんじゃんこれにしよ」
「点心?」
「俺の故郷の料理だよ。ここの食堂は世界中の料理が日替わり週替わり月替わりとあるからすげーぜ。うまいし安い。御師様が料理人をスカウトしたらしいし味は保証するぜ」
ヒスイは気分が良さそうに鼻歌を歌っていた
僕はどうしようかな…
お腹すいたし…
「こちらなんて如何ですか?スペシャルお子様ランチと書かれていますが特製トマトソースで作られたオムライスとスパゲティ。ハンバーグとグラタン、そして新鮮野菜のソテーとサラダ。コンソメスープとデザートにプリンがついています。もちろん旗付きで」
「うーん名前に引っかかりは感じるけど確かに美味しそう。お値段も安めだし………てあれ?」
横を向くといつも通り仏頂面のユダがいた
そして僕たちの制服とは違ったデザインの制服でエプロンを着ていた
「何してるの?….」
「こちらでお手伝いをしております。私も一般科に在籍する事になりましたが、既に入学式などのイベント事は先月済んでいるようで暇でしたので彷徨いていましたらこちらのシェフと意気投合しまして」
ユダと意気投合……どんな人なんだ
「ねぇセウス。こちらのシュッとした人は?」
ケイが後ろから僕の肩をつんつして聞いてきた
「えっと僕の執事のユダだよ。僕と一緒に、てか入学してたの?」
「いえ、そういうわけでは….いやそれでいいです」
説明が面倒なのかそう説明される
違うのかな?ユダは僕に付き添いとして来てもらったはずだけど同じ学生としてならより一緒に入れるのかな
なら嬉しいな
「執事さんかー初めて見たよ生執事!初めましてー俺はケイって言うんだ。よろしくね。ほらフォルテも」
横で腕を組んで知らない顔をしていたフォルテもそう言われて仕方なそうに口を開いた
「俺は「仕事がありますので失礼します。それでは坊ちゃんまた後で」………こ、この野郎」
憤慨したフォルテを無視してユダは一礼してキッチンの方へと消えていった
「俺はーこのスペシャルデラックスビッグハッピーランチにしようかな」
「ん?なんだそれは……!?な、なんだこの値段。や、やめとけバチが当たるぞ」
珍妙な名前のランチセットをケイが選んでその値段に慄いているフォルテを見つつ僕も注文を決める
おすすめされたスペシャルお子様ランチにしよう
別に名前なんか気にしてないから
美味しそうだと思ったからだ
「フンッ」
「……」
列の最後だったけど後ろの人が来て僕の注文を聞いて鼻で笑われた
僕は顔に出ないように、でもムカついた
好きなの頼んで何が悪いのさ
へぇ~トッピングたくさんあるしビュッフェコースも美味しそうだなぁ
でもあんなに食べれないから今度誰か誘ってみようかな
人数割引とかあるみたいだし
「おまたせですにゃ~」
「……にゃ?」
顔をあげるとそこにはシャフの格好をした猫がいた
「冷めちゃうにゃよ~。もしかして猫舌ですにゃ?仲間ですにゃー」
カンカンとお玉で鍋を叩きながらそう言った
ここにも獣人か
「おやおやイトス様もいらっしゃってたんですねー。自慢の料理。たくさん食べてほしいにゃー」
「クンクン……美味そうだ!俺も!俺もこいつと一緒のがいい!」
「そう思って作っておりましたにゃ!お召し上がれー。にゃ!」
クネクネと動きながら手早く料理が差し出された
美味しそうな香りが食欲を刺激する
「チッ……獣かよ」
その言葉に反応した僕はつい、振り返ってしまった
そこには先程僕を小馬鹿にした男子生徒がいる集団がいた
「誉れ高い我が校に獣風情が跋扈しているなんてどんな神経をしているのか尋ねたいものだ」
「そうですねリュスト君。獣臭くてたまらないですね」
嘲るようにわざと聞こえる声で話す奴らに僕は怒りを感じた
「君たち!その言い方はあんまりじゃないか!」
互いに料理を持って見つめ合う
「誰かと思ったら依怙贔屓の小さな王子様じゃないか」
「ッ!……それはどういうことかな?僕を愚弄するのは勝手だけど君達の発言も態度も品位を疑うよ」
「フンッ。知っているぞ。国内テロの首謀者と繋がりがあって国から追い出されたそうじゃないか。国の恥晒しがなぜここにいるんだ?」
「……事実無根だし、そのような者がこの学校に入学できるわけないだろう。少し考えればわかるんじゃないかな?リュスト君」
王族流皮肉を込めて言う
兄の真似とは言えないです
「ッ!貴様言わせておけば!」
「うわっ!?」
肩を押されてスープが揺れ、溢れた
丁度料理を先に受け取って布巾を片手に持ったフォルテにぶつかってスープがかかってしまった
「あ!ご、ごめんなさい!」
湯気立つスープがかかったのだ熱かったろうに
真顔で僕の肩を掴んだフォルテ
「俺はいい。それより料理は無事か?」
「え?あ、うん。少しこぼれただけだけど、その服が….」
溢れたスープがフォルテの上着を汚してしまいシミができていた
「おい貴様」
「な、なんだ」
僕を押し退けフォルテが前に出た
どことなく圧を感じる
「食べ物を粗末にするなと教わらなかったのか?貴族であるならば振る舞いと省み矜持を持って行動をしなければならない。その点貴様はくだらない偏見と性格のねじ曲がったことを言って料理を作ってくれたものに対し侮辱しそれに飽き足らず食べ物を粗末にする。恥を知れ愚か者」
真顔で淡々と述べる姿に僕たちは圧倒された
「なっ、き、貴様。知っているぞ。田舎の辺境伯の息子だろう。西大陸の野蛮人の侵攻時矢面に立って大損害だったらしいな。援軍も来ず領地を侵され滅ばれされかけたあわれな「ゴキッ!」ヒッ!?」
恐ろしいオーラを発して骨を鳴らすフォルテの怒気に圧倒されリュストは震えた
「言いたいことはそれで全てか?父上は立派に戦い戦場で命を散らした。俺はそれを誇らしく思う。それを侮辱するなら今すぐ決闘を申し込むが…」
「し、私闘などすれば罰則が」
「知るか!言わせておけばぬけぬけと!今すぐお前をブッ潰して我が父の墓前で詫びさせてやる!さぁ表へ出ろ。瞬殺してやる」
激怒しているのかキツそうな目が殺気を放っている
「だ、黙れ!田舎者風情が!」
奴が投げた銀色の缶がなぜか僕の方に来てそれを瞬時に掴んだフォルテによって直撃は防げたが
逆さまだったのが災いして中身のスパイスが僕のオムライスにたっぷりとかかった
ひぃ、ひどい!真っ赤だよ!激辛だよぉ!
「おい何騒いでやがんだよ」
「先に食べちゃうよー?」
遅いせいでヒスイとケイが席からこっちに来たようだ
「ひ、ヒスイ特待生……」
「聞こえたぜ?決闘だってな。俺が見届け人になってやるよ。大丈夫だぜ死ぬ一歩手前ぐらいまでには止めてやるからよ」
笑いながらヒスイが僕の方に腕を乗せていった
重いんですけど
「喧嘩ー?久しぶりにフォルテのガチギレ脳天砕き見れるかなー?」
なにそれ凶悪な名前の技
「け、結構ですヒスイ先輩」
「あっそう。でもよぉあっちは止めねーぜ」
「えっ」
ヒスイが親指で指し示す方には
大きな包丁を持って気を逆立てて目が狩人の状態の猫獣人のシェフがいた
「フシャーー!!食べ物を粗末にする奴は即刻ミンチにする!皮を剥いで目を抉って血抜きするニャ」
その気迫に皆が固まる
こ、こわい
「ほら謝らねーとお前ら肉団子になるぜ」
「…………申し訳ありませんでした」
「……次はないニャ」
お怒りは静まったようで、鼻歌を歌いながら鶏肉の骨を包丁で断ち切っていた
ゴリッという音がよく響く
「飯が冷めるから早よ食っちまうぞ」
「う、うん」
でも僕のスペシャルお子様ランチ真っ赤に……なってない?
何故だ?美味しそうなまま真っ赤なスパイスが消えていた
いつのまに…
僕は上着を脱いで布巾で拭いているフォルテに話しかけた
「さっきはごめん」
「謝罪は無用だ。お前のためじゃない」
「…それでもありがとう」
「……フン」
さっきの僕の話、知ってるのかな
「あのさっきの話って」
「俺の親の話はしない。だから貴様の噂も聞かない。俺は俺が見聞きして正しいと判断したことしか信じない」
「そ、そう」
はっきりとした性格なんだな
つまり僕自身を見て判断してくれるということだ
それは、とても嬉しい….
「ありがとう。フォルテ」
返事のない背中に僕は言葉をかけた
僕たちが場所取りしてもらった席に行くと
ヒスイとイトスの真ん中に空席
ケイの隣はフォルテだろうから真ん中に座った
てかイトスこっちにいたんだね……
いつのまに…
…………
隣のテーブルにさっきの一団がいて気まずさが満ちていた
それを意に介さず騒いでるのがイトスたちだった
「それじゃあ…」
「「「「いただきます!」」」」
揃って食事を始めた
銀色のスプーンをとってスープを一口
野菜の旨味とハーブの香り、塩味が丁度よくとても美味しい
シェフが新しいスープをよそってくれたので温かい…
と食事を堪能していると横から叫び声が聞こえた
「が、ガハッ!?!?がらい!!」
「ゲホッ!?」
例の三人組が食事を吐き出していた
見ると辛い?と叫んでのたうち回っている
彼らの皿にはハンバーグやオムレツなどがあったが
スプーンなどで一口分食べた後がある
その断面に真っ赤な層があった
もしかして唐辛子?
「うへー陰湿なことすんなぁ」
声の方に向くとヒスイが自分の分のシュウマイという食べ物を食べているところだった
「陰湿?」
「不遜。処断」
後ろから聞こえてきた言葉に僕は振り返る
そこにはターコイズカラーのマフラーを制服の上から巻いている生徒がいた
さっきまで人はいなかったはずなのにいつのまに…
「さっきのセウスの飯だろ?」
「正解。自業自得」
「でも普通の辛子じゃああまでならねぇだろ?なんか盛った?」
「…….」
こちらに振り返らず背を向けたまま左手で小瓶を振る
中には赤いものが入っていた
「それ毒?」
「否。特性激辛スパイスを少々」
「激辛マニアめ。常人には致死量だろ」
淡々とヒスイと話している
誰だろう
「お前は初対面か。こいつは」
「名はヒエイ。それ以下でもそれ以上でもない」
「ど、どうも」
挨拶をして、彼はうむと返事をしてから黙々と焼き魚をなんだろ…二つの棒で器用に食べている
あの白いのなんだろ
そのあと特に問題もなく、というか食事とは普通問題とか起きない行為だけど平和だった
大きなエビフライに舌鼓していたらヒスイが慌ただしく食事を食べ終えた
「わりぃ用事できた。掃除は明日からでいいらしいからまたな」
そう言って颯爽と駆け出していった
忙しいんだなぁ
というか今日の掃除無くなってラッキー!
残された僕たちも複数あるらしい図書室とか講義堂やムキムキがいたトレーニング室と最後に戦闘訓練室などを簡単に見て解散した
ユダはシェフたちと料理談義があるらしく別行動となった
ぶらぶらと散策して時間ができたからサイファーとお話でもしようかと訪ねたけど銀冠の騎士庁舎の方にはいないらしく閑散としていた
とりあえず学生寮にまで戻るか
夕陽に染まった校舎を歩くと何故か懐かしいような
寂寞とした感傷に駆られた
オレンジの空と青白い境目に
僕は一番星を見つけた
「大浴場もあるのか……でもぼっちでは辛いし恥ずかしいし、部屋のシャワーでも浴びようかなぁ~」
ガチャッ
「おかえり。セウス」
「ただいまー…ってえ?」
魔術機工?とやらでロックされた部屋の扉を学生証で開けると出迎えられた
そこにはいつもよりラフな格好で、首元のボタンを外したシャツで本を読んでくつろいでいるログナスがいた
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