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【おまけ】伊集院くんと春日くんの一泊二日/後
夕食後、大浴場にも行こうかと春日を誘ってみたが、「ふやける」と、つれなかった。
その代わり、館内をぶらつき、フロント前にあった土産物屋を冷やかすことにした。
家族への土産物はここで買うべきかと悩んでいると、春日がふらりとどこかへ行ってしまう。
「おい、春日」
春日は観光パンフレットが置かれた棚の前にいた。館内案内図を見ている。
「温泉宿ってさ、卓球あるんじゃないの?」
漫画なんかで見るけど実際に置いてあるのを見たことはなかった。
「春日と卓球やっても、俺かなわないよ」
「俺、そんなに強くないって。テニスも試合じゃけっこう負けてたよ」
そう言われても、俺は颯爽とスマッシュを決める春日しか想像できない。
「でも、教えるのはうまいって言われてた」
春日に手取り足取り教えてもらうのは魅力的なんだけど、春日の行くようなスポーツクラブの会費は高そうだよな。
「春日ん家ってテニスコート持ってる?」
俺が訊くと、春日は手をひらひらさせた。
「秋本ん家じゃあるまいし」
それって、俺に女装を強要した、フェラチオのうまい、高田の彼女だよな。
「秋本って金持ちなの?」
「銀行だもん、銀行。志門くん知らなかったの?」
「あんまり誰の家がどうとか興味ないよ。高田とは相変わらず?」
学部は違うが、二人と同じ大学なら消息を知っているだろうと話を振る。
「あの二人なら別れたよ。高田が女子大のヤツと浮気だと」
なんと、現実は厳しい。
「そうなんだ、俺、あいつらが羨ましかったんだけどな」
俺がしみじみと言うと、春日は渋い顔をする。
「羨ましいって、何が」
「みんなに付き合ってるって言えて、教室でも平気でイチャついてた所」
春日は浴衣の裾をはためかせ、俺のすねをキック。
「ばか」
食事の時はデレたかと思えば、すぐこれだよ。
「志門くん、ところでお土産買うの?」
「ああ、いいや。明日にする」
「そう……じゃ、部屋に戻ろ」
春日はきびすを返してエレベーターホールへ向かった。えらく早足なものだから、室内履きの雪駄がペタペタと音を立てて品がない。
タイミングよく、エレベーターがフロント階に到着して、春日はさっさと乗り込んでしまう。
「春日、待ってってば」
下手をすると置いてゆかれそうだった。他にもエレベーターに乗ろうとする宿泊客がいたので、春日はエレベーターの扉を開けてくれたが。
やれやれ、春日がやけに焦って先を行く時に何考えてるかなんて、お見通しだけどさ。つまり、俺と一緒に部屋に戻るのが恥ずかしいのだ。そこにはもう、布団が敷かれているから。部屋に戻るまで、敢えて話しかけないでおいた。
さて、部屋に入れば、布団は一つ、枕は二つ──とはいかず、部屋の広さに見合う分だけ離されて、二組。紅地に花を散らした掛け布団の柄が白いカバーにくりぬかれ、行灯型の間接照明に照らされている。
「春日、布団くっつけようよ」
「ん……ちょっと待って……」
春日はバッグをごそごそと漁っている。また変な映画のDVD持ってきたんだな。フロントでDVDプレイヤーも借りてたし。
俺は二組の布団を部屋の中央に寄せて一組にした。寝転がってテレビを見るにもちょうどいい位置だ。
布団をペロッとめくって中に入る。ふんわりとした上質の綿が眠気を誘う……いやいや、まだまだ。
「かーすがっ、おーいで」
と呼ぶと、DVDの準備を終えた春日は俺の前に来て体育座りになり、俺を背もたれにするように寄りかかってきた。
「何の映画なの?」
「カニの映画」
春日がDVDのパッケージを見せてくれた。今回は日本の作品だ。巨大化した真っ赤なカニが、ビルをはさみでちょん切って掲げている。本編見る必要あるのか、これ。
テレビに目を転じると、再生はもう始まっていた。宇宙空間から見下ろされた地球に、怪しげな光が落ちていく。画面が切り替わり、業務用の冷凍庫の中、足を縛られてずらりと並ぶタラバガニ。その一つに光が降り注ぎ……なるほど、宇宙からの侵略者がタラバガニを乗っ取って大暴れするのね。
映像は安っぽいが、巨大タラバガニが街を荒らし回る様子は大胆に描写され、なかなか見応えがあるんだが……。
「ねえ春日、このカニ、何人前あると思う?」
「静かにして」
とまぁ、春日はすっかり映画に入り込んでしまい、ちょっと退屈なんである。ラブシーンの一つでもあればチョッカイをかけてやろうかと思ったが、タラバガニに立ち向かうのは自衛隊のオッサンどもだ。ついでにゲイカップルでも出せばいいのに。
クライマックスは自衛隊員の先輩が後輩をかばって死亡、後輩は敵討ちに燃えて、ロケットランチャーをかついで巨大タラバガニに単身よじのぼり、顔(?)にぶっ放してめでたしめでたし……なんで近代兵器より肉弾戦の方が強力なんだろうな、この手の映画って。
「もしかして、映画まだあったりする?」
春日の家でデートした時なんか、耐久上映会みたいになったからな。あのホームシアターは絶対Z級映画を観るためのものじゃないと思う。
「続編も見たかった? ロブスターが巨大化するんだけど」
俺が映画の内容に興味を持ったと勘違いした春日は、目をきらきらさせて少年の顔になる。こういう反応するから、俺もついつい映画に付き合ってしまうわけだが。
「映画は春日ん家でも観られるでしょ! こうしてやる!」
俺は春日の方へ身を乗り出し、布団でかまくらを作るように覆い被さった。
「ああ、もう、せっかち……お風呂でしたのに……」
薄暗い布団の中で揉みくちゃになり、春日はやんわりと俺を押し返す。
「もっと、いっぱい、したい」
羽織の下に手を突っ込み、少し着崩れた浴衣の上から胸板をまさぐる。
「志門くん、電気、消してってば」
が、春日は本気で抵抗する気配を見せた。
「いいじゃん、これで」
「やだ、ちゃんと消して」
うぅむ、頃合いを見て布団をひっぺがし、浴衣姿で悶える春日を堂々と見たかったのだが……やっぱダメか。
俺は立ち上がって電気を消しに……その前にコンドームとジェルを取りに行くか……ああ、タオルもいるな……。
荷物から必要なものを探す俺の背に、春日が「早く」とせっついてきた。もう、どっちなんだよ、お前は。
部屋の明かりを落とすと、行灯の白熱電球が布団を橙に染めた。
「おいでよ」
春日は布団に仰向けになって、俺を手招きした。浴衣の襟が臍近くまではだけて、ぽっかりとした影を作っていた。俺はそこへ吸い込まれるような心地で布団に向かう。
両の手で春日の浴衣を掻くようにして肌を撫で回す。胸から腹、緩んだ帯……更に下へ手を伸ばそうとすると、春日は身体をくの字に折って抵抗する。
「春日ぁ」
耳元に絡ませるように名前を呼んで。
「勃ってるだろ」
太股の内側に手を滑り込ませ、つつと上へ這わせていく。ぴっちりしたボクサーパンツの前がもっこりと持ち上がって火照っていた。掌で包むようにそれを掴むと、春日が「あ」と小さく息を吐く。
パンツのゴムに親指を掛けて、するりと引き落とす。そそり立った春日がつんと前に飛び出してきた。
「志門くん、俺だけ、こんなになってるの、恥ずかしい……」
俺は竿を掴むと、己を慰める時の力加減で、上向きにしごく。
「あっ、やっ……やぁ……俺、今日、変……すごく、すごく……変……」
春日は浅い呼吸で喘いだ。竿を握る手に力を込めると、脈動がドクドクと手のひらに張り付く。
「しゃぶってもいい?」
と言いながら、春日の股間の前に回る。
「え、じゃあ、志門くんのも」
「さっきしてもらったから、いい」
それにシックスナインだと『負ける』のだ……だって、気持ちいいんだもん、春日にしてもらうの。
「でも」と抵抗する春日を黙らせるべく、亀頭を口に含み、唾液で濡らしていく。
「あ、あっ……ぃ……そこぉ……」
それだけでもう、春日はたまらず声を上げた。唇を使って唾液を馴染ませるように、亀頭から竿の半ばをゆっくり往復する。雁首に唇が引っかかれば、そこを軽く食んでやる。亀頭を唇で撫でて、鈴口を舌先でえぐる。
「ん……やぁ、しもんくん、先っぽ、やだぁ」
と春日が言うので、亀頭に何度もキスしてやって、裏筋もペロペロ舐めてあげて、とろとろ零れてくる先走りを舌ですくって。
「あぁっ、や、なんで、そこばっか、ひどい……いぃ……あ、あぁ……きもちいぃ……きもちいいよぉ……」
春日の足につんと力が入り、腰が浮く。行灯の光が作る春日の影が、部屋の奥へぐぃんと伸びていく。
口の中に竿を導いていく。今度は深く根元まで、喉奥すれすれまで飲み込む。頬をすぼめ、唇を締めて、圧迫感を与えるようにしながら、頭を振る。
「あ、そんなの、しなくていい、いっ、あっ、やぁっ……ずぼずぼしちゃ、やだ……しもんくんが、しないで……!」
春日がそうしてくれるよりはだいぶ下手くそだと思うが、徐々に動きを激しくして、春日の昂奮を絞り出していく。
「んぅ、んん、うぅん、あぁ、そこ、いや、いやぁ、もう、もうだめ、もう、もういい、いいから……!」
春日は肘をついて上体を起こし、俺の額をわしっと掴んできた。どうも俺を引き剥がそうとしているらしいが、逆に催促されているような気分だ。
「しもんくん、くち、はなして……もう、いいってば……いいの、いいの、だめなの、いやぁ……!」
春日の熱いペニスが口の中でドキドキしている。竿と唇がこすれ合う度、涎が口の端から溢れていく。ああ、まるで、俺が春日に犯されてるみたいで──俺の股間もとっくに、下着を突き破りそうなぐらいに昂ぶっていた。
「ん、あ、い……イク、イキそう、だめ、はなしてぇ……しもんくんの、おくち……あぁ、出る、出ちゃうからぁ、中で出すの、やだぁ、やだやだ、出ちゃう、出るから、ゆるして……イクの、やだぁ……」
春日がいやいやと頭を振っているのが目の端に見えた。俺は瞼を閉じて口に意識を集中する。根元がどくんと脈打ち、絶頂の証が上りつめてくる。
「あっ、出……出ちゃ……あぁ、やだぁ、止まらな、せーし、止まんない、しもんくんの中に出てる、出てるの、やだぁ……くち、はなしてよぅ……」
春日の指が、俺の前髪をくしゃくしゃと掻いた。春日の吐精をすべて受け止めた俺は、余韻たっぷりに唇を竿に這わせ、静かに春日を解放した。唾液がつぅと糸を引いて、俺と春日を繋ぎ止めようとする。
「もう、早く吐き出して、そんなの」
春日がタオルを差し出したので、俺は精液をそこへ吐き出した。飲むと怒るんだよな。自分は「飲んじゃった」とかやるくせに。
「ああ、もう……」
春日は四肢を投げ出しぐったりしている。浴衣の帯はとうに解けていて、はだけた前身頃から、滑らかな肢体が暖色の明かりで浮き上がって見えた。
「春日、お尻こっち向けて」
「ん……もう、休ませてよ……」
でも、春日はうつ伏せになり、浴衣の裾をたくしあげ、太股を開いてくれた。褐色の窄まりは、俺に見られてひくひくと動いている。
俺は春日の股間に鼻面を突っ込み、口づけの要領で吸い付いた。
「うぅん、あっ……や、恥ずかしい……」
春日が尻をぷりぷり振るが、誘っているようにしか思えない。今度は大げさな動きで舌を使い、皺の一つ一つに唾液を塗りたくっていく。ペチャペチャとわざとらしい水音が部屋に響く。
「あっ、そんなとこ、舐めるの……だめ……んんぅ……んっ……くすぐったい……」
顔を離し、ふっと息を吹きかけると、尻が鞠のようにびくっと跳ねた。濡れた蕾がてらてらと艶めかしく光っている。
用意しておいたジェルのチューブから中身をたっぷり中指に取ると、菊座の輪郭にぐるりと塗り、指の腹でぐにぐにと揉みほぐす。
「かーすが、どうして欲しいの?」
「もう……早く……しろよ……」
「何すればいい?」
「う」と、春日は言葉を詰まらせるが。
「……指、挿れて、気持ちよくして……」
ずいぶん素直におねだりしてきた。見れば、掛け布団を抱き枕のようにして顔を伏せている。
蕾を指先で押し開いて、中に挿入する。ジェルがチュプチュプと鳴った。ふかふかの粘膜をかき分けるように進むと、指先が前立腺に当たるので、中へ押し込むようにして、くりくりと動かす。
「あっ、やっ、そこ突いちゃ、いっ……いやぁ……」
春日が背を弓なりに反らすと、浴衣の襟ぐりが腰まで落ちた。露わになった肌は白熱灯の夕焼け色に照らされて、ひどく淫らだ。
「俺の指、気持ちいい?」
ジェルを擦り込むように指を往復させ、前立腺を突く動きを繰り返す。充血した春日の中は柔らかくて、しかも締め付けてくるので、指では物足りないのだが、まだ我慢だ。
「しもんくん、そこ、いやぁ……ぐりぐりしないで……ぐりぐり、気持ちいい……おしり、へんになる……あっ、あぁ、ん、んぅっ、んっ」
春日は俺の動きに合わせて腰を使い始めた。掛け布団を熱烈に抱きしめて、耳まで真っ赤な顔をすりつけている。まるで掛け布団が恋人のようだ。
「指でイキそう?」
春日の中が昂奮でぎちぎちに狭くなったので、指を深々と挿れたまま、前立腺をつんつんと持ち上げるように刺激してやる。
「ん、あ、そんなの、だめぇ……そこ、おかしくなっちゃ……い、いやぁ……」
「嫌なら止めちゃうよ」
指をずるりと半ばまで引いた。腸壁が粘っこく指に絡んで、俺を引き留めようとするのが分かった。
「あっ、いじわるっ、おく、おく、してってば」
「嫌とか駄目とか言わないの」
春日の太股から尻にかけて、軽いキスを落としていく。イヤイヤする春日も可愛いんだけど、やっぱり「もっと」と言われる方が好きなんだよなぁ、俺。
「……しもんくん」
か細く湿った声で、春日は俺を呼んだ。
「なぁ~に、かすが?」
俺はおどけた返事をして、再び指で奥を突いた。心なしか前立腺の周りがふっくらしているので、ぷにぷにとつついてやる。
「だめ、そこ、そこ触んないで」
「春日のここは『もっと』って言ってる」
中指を波打たせるように動かすと、襞が硬くなり、押しつぶすような締まりになってくる。
「あっ、やっ、指、ゆびじゃ、ああ、欲しいのに、指で、あっ……」
春日の背に鋭い緊張が走って、尻がつんと上向いた。口元の緩んだ、だらしない面で掛け布団に頬を寄せ、目をゆるく閉じて快楽の波に呑まれる。
「あぁっ……だめっ……ゆびでイッちゃ……イク……すごい来る、来ちゃってる、気持ちいいの来てる、指が、しもんくんの、指、気持ちいい、あぁん……あ、あぁ……もう、こんな……イク……」
春日の悲鳴が股間をびりびり刺激する。気づけば俺の股間は先走りでじっとりと濡れていた。危うく射精してしまうところだった。
「もう……ほんッとに……すけべ……ばか」
春日は寝返りを打って仰向けになり、額へ手を当てた。腕の影が深く差して、顔を隠してしまう。対照的に、胸板に浮かぶ汗は光って見えた。
俺は肘枕でその隣に寝そべった。ちょっと張り切りすぎたかな。でも、春日をこれだけめろめろにできるようになったのは嬉しいぞ。
オーガズムの余韻に溶けている春日を、俺は辛抱強く見守った。こういう時に待てる程度には俺だって成長したのだ……でも、そろそろ下着脱いでも……今のタイミングで脱ぐのはちょっと露骨すぎるか……。
「……ねえ、志門くん」
額に当てた手をそのままに、春日は俺に流し目を送る。鋭い眼差しに、俺の背筋がぞくりとなった。
「俺、上で、したい」
そう言って上体を起こした春日は、片膝を立て、俺へ跨がろうとする。
「パンツ、まだ脱いでない」
「これでいいよ、もう」
春日の指がパンツのゴムを引っかけ、ずるっと押し下げる。って、そんな中身だけ出しました、みたいな……ああ、完全に上に乗られてしまった……春日が後ろ手に挿入の位置を確認している! マジで入れる気!?
「春日、ゴムつけて、ゴム!!」
なんで俺が焦る側なんだよ。
「ん……もう、わかってる……」
春日は気だるげに俺が用意したコンドームを手に取った。つけてくれるのはいいんだけど、パンツをちゃんと脱がせて欲しいんですが。
「もういいでしょ、するよ」
「えっ、パンツは……ちょ、わっ……!」
先端に生暖かい柔肉が触れたと思いきや、みるみる内に俺をすっぽりと包み込んだ。俺の長さを確かめるかのように、突き当たりまでぐいと押し込んでから、春日の腰が前後に振られ始める。ねっとりと熱い粘膜がうぞうぞと蠢き、ぴんと張り詰めている股間に、泡で撫でられるような快感が押し寄せる。
「かっ……かすがぁ、あの、もっと、ゆっくり……!」
いや、春日の動きは十分にゆるやかだ。俺の肉棒を、歯もなく舌もない器官で、極上の美食のように味わっている。亀頭が当たっている場所はどろどろに熱くて溶岩みたいで、そこが俺を優しく挟み上げる度、眉間の辺りが明滅する。
「しもんくん、すごい硬い、あったかくて、おっきい……奥、ずっぽり入って、すごいの……奥、もっと突いて、つんつんして、もっと、いっぱい、つんつんして、気持ちよくして……」
春日の端正な顔立ちが、獣の顔に崩れている。髪を振り乱し、顔を紅潮させ、下がった眦には涙さえ浮かび、ぽかんと開けた口から涎が垂れる。俺と同じように股間を漲らせているが、中空で当て処もなく頭を振るだけで、本来の用を為していない──春日は雄の快楽などでは満足できないのだ、この俺を、どんな雌よりも淫靡に貪ることが、春日の悦び──
「あぁ、あん、あっ……奥、おちんちん、届いて、いい……奥でイクの、好きなの、イカせて、イキたい、イク」
春日は奥を突く動きを求めて、俺の上でピストン運動を始める。それならばと、俺も臍から力を振り絞り、春日を持ち上げるように下から突き上げていく。腸壁のうねりで股間がむず痒い。それを掻きむしる勢いで腰を振った。
「ん、んぁ、あ、あぁ、すごい、イク、イッてる……奥でイッてる……中、じんじんする、ちんぽ気持ちいい、これ好き、このイキ方、好き……!」
春日はうっとりと目を閉じて、淫らな海に溺れている。M字に開いた足が壊れたメトロノームのように振れているので、内股へ大きく手を這わせると、電撃が走るのを感じた。
「あっ……足ぃ、触ッ……イッて……あ、あぁ……い、いぃ……もう、なか、きもちいい……」
春日の四肢から力が抜けて姿勢が崩れたので、俺は背中に手を回して抱き寄せた。
「ん、あ……あぁ……あ、しもんくん……?」
春日の瞳はどんより曇っている。知性の抜けた声を漏らした唇を乱暴に塞いだ。胸の奥いっぱいに甘ったるいものが広がっていく。春日の唇が俺に吸いつき、舌が俺を求めてくる。上も下も、互いの輪郭を見失うほどに、俺たちは繋がった。
「春日」
口づけの合間に、名前を呼んで。
「愛してる」
春日とこんな風に触れ合っていると、何もかもを忘れてしまいそうで──そう、何もかもだ──俺は春日だけを見ていればいいし、春日も俺だけを見ていればいいんだ──誰にも、邪魔なんか、させない……!
「志門くん、俺、嬉しい」
春日のキスが、俺の鼻や額、頬へと散りばめられていく。
「ずっと、好きだよ……ずっと」
猫のように俺へじゃれてくる春日の頭を、静かに撫でる。雲の上か、川の流れか、ふわふわゆらゆら、心地良かった。
「……志門くん、上に来る?」
春日が心配そうな顔で問いかけてきた。和んでたんだけど、萎えると思われたかな。
「なら、そうする」
「このままでして」
というので、俺は挿入を維持したまま、前のめりになるようにして春日と上下を交換することになった。
「動いてもいい?」
「……うん」
騎乗位で乱れたのが一転して、春日は恥ずかしそうにうつむいているので、顎をしゃくって、こちらを向かせる。
「ん……なんか、もう……入ってるの、感じるだけで……変になりそう……」
春日の足を膝裏から抱え込むと、俺は抽送を始めた。春日の中はしっとりと重く、厚ぼったい。欲棒で掻き回すようにしながら、奥をトントンと突いてやる。
「あ、あっ、いッ……いぃ、いッ……い、あ……あぁ、中、もう、俺の中、しもんくんで、いっぱいなの……」
両足が俺の腰に絡んで、ぐいと引き寄せてきた。射精しなければ、この拘束からは絶対に逃れられまい。
「あぁッ、中に、欲しい……しもんくん、中、出して……奥、出して、いっぱい出して、俺ッ……!」
肉襞が小刻みに痙攣して、俺の意識を破裂させようと苛んでくる。俺は乱暴なピストンで自らの衝動を高めていく。竿の付け根から劣情の泉がじんわりと湧き出てくる。
「しもんくん、せーし、欲しい……俺に、いっぱい、欲しい……出して、俺に出してッ!」
春日に乞われ、溢れかえる白い濁流の勢いに身を任せた。解放感に蕩けていると、ぴちゃりと腹の濡れる感触がした。お返しとばかり、春日も俺へ向けて精を放っていた。指ですくい取ると、ぶよぶよとした濃いものだった。
「あー……あぁ、もう、まだ、きもちいーよぉ……」
雄と雌の快を同時に満たした春日は、舌なめずりしていた。その足はまだ俺を離さない。汗でくったりとした春日の前髪を整えててやり、労うように背中をぽんぽん叩く。
「もう、むり……」
春日は何を勘違いしたのか、そんなことを言って、左右に首を振る。
「何言ってんだよ、春日のスケベ。一泊二日で、どんだけヤるつもりだ」
「なにさ……旅行したいって言ったの、そっちじゃん……」
「俺は春日と一緒にいたかったの」
「んー……そう……」
春日の口調はつれない。身体の昂奮が冷めてきたんだろう。現金な奴。
「志門くん、重い」
ついにはそんなことを言うので、俺は春日から降りて、コンドームを片付ける。ゴムの被膜に閉じ込められた我が子種を、手遊びにむにむにと揉む。
「なぁ、今日、ナマでやりたかった?」
「……後が大変だもん、しない」
春日は、もはや着ているとは言えない浴衣を前にかき寄せて帯で縛り、掛け布団をひっかぶってしまった。俺はタオルで身体を拭いてから、浴衣を着直す。
「浴衣、そんな着方じゃ身体冷えるよ、着せてあげるって」
「めんどくさい」
……泊まりだとけっこうルーズなんだな。
布団に俺が入ると、春日はぴたりと俺に引っ付いてきた。どうやら、それで十分ということらしかった。
瞼の裏に朝日が滑り込んで眩しい。二三度目を瞬かせて、目をこすりこすり、意識を覚醒させる。掛け布団の中はほかほか暖かい……傍らに人が寝ているからだ。てっきり俺より早く起きるものだと思っていた春日は、いまだぐっすりと眠っていた。無防備な寝顔があどけないものに思えた。
俺は鼻先すれすれまで顔を近づけた。くうくうという寝息が感じ取れた。目覚めのキスなんかしたら、鬱陶しがるだろうなぁ、「朝っぱらから何?」とかさ。ま、いいや。
春日の頤を軽く持ち上げて、その柔らかな唇を吸った。甘酸っぱさがじんと沁みてくる。一回じゃ起きないかな。んじゃ、もう一回。
「ん」と、春日が鼻を鳴らしたので、その天辺にも、ちゅっとキス。
「おはよう、春日」
「え……」
寝ぼけ眼の春日は、なかなか目の焦点が合わないようだ。
「あ……?」
唇をカリカリと掻いているので、俺が何をしたかは気づいているんだと思う。
寝起きのぼんやりとした無表情に、じわりと感情が浮き上がってくる──何に傷ついたというのか、それは深い悲しみだった。今にも泣き出しそうでさえあった。
次の瞬間、春日は俺の胸に飛び込んできた。その勢いに、枕にしたたか頭を打ってしまう。
「志門くん、俺」
浴衣の襟がぐっと掴まれ、春日の顔が懐に潜りこんでくる。
「俺……帰りたくない」
その一言に、俺の呼吸が完全に止まってしまう。
「ずっとここにいる……」
春日は頭をしきりに俺の胸板へすりつけてくる。くすぐったい。
「ずっとこうしてたい……ずっと……」
鼓膜の奥で心音がざわめいて、春日の声が遠い。
「……志門くん、すっごいドキドキしてるね」
俺の胸板に耳を押しつけ、春日はくすりと笑った。
「かッ、春日がそんなこと言うからだ……」
「幸せ」
春日は俺の腰を抱いて、朝の生理現象をすり合わせてくる。そこになかったはずの淫猥な感覚にくらっとする。
「なぁに、したい?」
「いや、違うって……そんな、朝から……」
っていうか、春日はしたいんじゃなかろうか。嬉しいけど、困るというか怖いというか、春日こんなに性欲強かったっけ?
「もう……志門くんのせいなんだからね……」
春日は、俺の襟をぎゅうと締め上げてくる。首回りに余裕があるから苦しくはならないが、まるで脅迫されているようだ。
「志門くんと……こんなに一緒にいたら……」
言葉はそこで途切れたが、問い返すような無粋な真似はしない。春日の二の腕にそっと手を添えて。
「また来ような」
「うん」
最高に良い雰囲気に割って入る、くぐもった腹鳴──俺は自らの腹の音で甘い一時を破ってしまった。
「朝ご飯、食堂だよね」
春日は上体を起こし、俺から離れてしまった。俺は春日の袖をくいと引いてみたが、さすがにもう一度寝てはくれず、諦めて俺も身を起こした。青空が窓から見えた。
「あ、今日はいい天気じゃん。お城行こ?」
春日は満面の笑みを浮かべた。唇から白い歯がちらりと覗いた。いつになく無邪気な春日に、俺は却って切なくなる。
──『帰りたくない』って、『ずっと一緒にいたい』って、春日が、俺に。いつものデートで俺がそう言うと「しつこい」とか言うくせに……なあ、春日。そう思ってくれるなら、もっと素直になってくれ。
「……ああ、今日も、ずっと一緒だ」
今日だけじゃない、明日も、その先も、ずっとずっと。シャワーを浴びたいと、浴衣を脱いだ春日の真っ直ぐな背中に、俺は胸の内でそう語りかけていた。
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