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第1話
「あの、変なこと、聞くんだけど、俺達って前にも会ったことないか?」
季節は10月に入った頃だった。まだブレザーの下に半袖を着た高校生がタブレットに文字を打ち込んでいた元石慎(もといししん)に話しかけてきた。
高校生の名前は正親豪(まさちかごう)。
この9月から元石の通う青水学園に転校してきた男だった。
「我ながら頭、いってるなってこと、聞いているなって思うんだけど」
「いや……」
正親の問いにYesともNoとも答えず、元石はタブレットの電源を落とすと、曖昧に返す。
『前に会ったことがないか』
その問いに対して、元石の口から出なかった答えはNoで、瞳の色は瑠璃色から深い茶色に変わっていたが、忘れることはできない人物だった。
とても一言では言い表せる関係ではなかった。
「そうか……覚えて、いないのか……」
正親は呟くようにいうと、静かながらもケタケタというように笑い出す。
まるで、元石の忘却を喜んでいるように。
ただ、元石の忘却を哀しんでいるかのように、笑っていた。
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