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第2話

 俄かには信じられない話だろうが、元石には所謂、前世の記憶というものがあった。ただ、生まれたばかり、乳児の頃から持っていたという訳ではない。  そのことを思い出すトリガーとなったのは父方の祖母の一言だったのだが、小学校4年生にして、中学校3年生の教科書の内容を理解できる学力の高い孫。そんな孫に対してかけるにはそこまで無理のないものだったように思う。 「慎ちゃんにお医者さんになってもらって、じいちゃんの病気を治してもらおうかね」  父方の祖父は若い頃から時折、心臓が悪くなることがあったらしく、祖母は祖父の面倒を見ながら家計を助ける仕事に、父や兄弟達の育児に奔走していたという。  だが、そんな何気ない彼女の一言は元石にとって最も残酷な前世の罪の記憶を呼び起こしてしまったのだ。 「あああああ……!」  悲痛な叫びに。地獄の底へ落とされ、地獄の淵から這い上がるも、引き吊り落とされ、踠き苦しんだような真っ青な顔。  とても子どものそれとは言えない様子に、彼女も只ならぬものを感じて、父や母に連絡して、迎えに来てもらった。 「やっぱり、病院で診てもらった方が……」  実際に狂乱した元石を見ている祖母に、元石の父も母も「大丈夫」と言い、その日は2人に連れられて帰った。  それきり、元石が毎日のように行っていた祖母の家へ行くことはなくなり、5年前、元石が青水学園中等部へ受験すべく、勉強していた時、祖母は心臓が弱かった祖父を追うように息を引き取ったという。 「僕が、殺したんだ……」  と、元石は両親の手前、口にすることはなかったが、あの時、祖母に「医者になる」と言うことができれば、今でも祖母は生きていたのではないかと元石は17歳になった今でも思っていた。 「それにあの人も……」  あの祖母の家でフラッシュバックして見えた光景。  炎に包まれてはいたが、あの場所も。  自分がどういう立場の人間で、許されざる思慕を抱いていたかも。  そして、顔は見えなかった故に、その誰かは前世の記憶を取り戻した今でも分からないが、明らかに1人の人間を刺し殺してしまったことも何かの媒体から影響を受けたり、自ら創作したものではない。 「おばあちゃん、ごめんね。僕には医者になる資格なんてなかったんだよ。僕は人殺しだったんだから」

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