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番外編 ちょこっと親子に近づいた3人

 「おとさん……」  土曜の夜、リビングで大ちゃんと何をするわけでもなく、ただ二人の時間を過ごしていたら潤くんが起きて来た。  「どうした?」  「あのね……ねむれない……」  「そっか……じゃ、絵本でも読むか?」  「うん」  「陽介、ちょっと行ってくる」  「おとさんじゃなくておかさんがいい……」  「え?」  今の大ちゃんの顔、見た?めちゃくちゃ凹んでるよね?ね?笑っちゃダメって分かってる……でも……もう、ダメ!!  「バカ陽介、笑うな!」  あ……やっぱり怒られた。  「ゴメン、ゴメン……。でもさ……」  潤くんが俺の袖口を引っ張る。  「おかさん、いこ……」  潤くんを抱き上げると大ちゃんは泣きそうな顔してるし……。何だかな、もう……。  「大ちゃん、待っててね」  「……おう……」  心のこもらない返事。大ちゃん、潤くんが可愛くて仕方ないんだろうなぁ。なのに……ゴメンね、大ちゃん。  五歳になった潤くん。学級が一つ上がって今はりす組さん。担任は新任の鈴木先生になった。四月は何かあれば俺の所に来てたけど、夏が来る頃にはすっかり鈴木先生にも慣れて、運動会が終わる頃には俺の所に「おはようございます」って挨拶にくるくらいになった。でも、家に帰ってくると俺を「おかさん」って呼んで甘えてくれる。それがたまらなく可愛くて愛しい。  土曜の夜だけ俺が泊まりにくるから、大ちゃんは大きめのベッドを購入した。今夜はそこに潤くんと一緒に寝転がる。潤くんが選んだ絵本のページを開くとそこには悲しい物語が書いてあった。  「潤くん、コレで良いの?」  「うん、これがいいの」  「そっか……じゃぁ……」  俺は絵本を読み始める。  宇宙のどこかに小さな星がひとつありました。  その星にはひとつだけ花が咲いていました。  その花をまもっているのは花の妖精。  妖精はひとりでずっと花が開くのを待っています。  ひとりでもさみしいと思ったことがありませんでした。  でもある時、「その花が開くところを見たい」と炎の妖精が遊びにきました。  二人はすぐに仲良くなりました。  炎の妖精が言います。  「ね、少しだけなら大丈夫だよ!二人で夜空を飛ぼう!」  そう言って炎の妖精は羽から火の粉を飛ばしながら、真っ暗な夜空に綺麗な絵を描きます。  それを見た花の妖精は目を輝かせました。  「ね?行こう!」  でも、花の妖精は首を横にふります。  「行けないよ……」  悲しそうに言います。  「どうして?」  炎の妖精はききました。  花の妖精は言います。  「この花が開いたらぼくはみんなのところに戻れるんだ」  炎の妖精が泣き出しました。  「じゃ、ボクはこの花が開いたらひとりぼっちになっちゃうんだね」  花の妖精も涙がでてきました。    今までひとりぼっちでもさみしくなかったのに。   今はそのひとりぼっちがさみしいと知ったからです。   それは炎の妖精が教えてくれたのでした。  炎の妖精といっしょにいると花の妖精の心はいつもあたたかくなりました。  花の妖精は炎の妖精がいつのまにか大好きになっていたのです。  花の妖精は悩みました。  この花が開かなければずっと炎の妖精といっしょにいれるのに。  花が開くのをまっていたのに。  今は花が開いてほしくないと思っていました。  「ひとりぼっちはいや?」  「うん」  「ひとりぼっちだとかなしい?」  「うん」  花の妖精は考えました。   そして炎の妖精にこう言いました。   「じゃ、この花をキミの炎で燃やして」  炎の妖精は花の妖精の言葉におどろきました。  でも、ひとりぼっちじゃなくなると思うと嬉しくて。  炎の妖精が空を飛びながら花に炎の粉をまきます。  炎の粉は綺麗な絵を描きながらその花の上に落ちました。  花は炎につつまれます。  花は開かないまま燃えました。  炎の妖精が夜空から帰ってくると花も花の妖精もそこにはいませんでした。  残っていたのは燃えたあとだけです。  悲しくて、悲しくて、ずっと炎の妖精は泣き続けました。  するとそこから花の芽が出てきました。  その花の芽を今度は炎の妖精が見守ります。  ずっとずっと……。  もう、炎の妖精はさみしくありませんでした。  ひとりぼっちじゃないからです。  読み終わる頃に潤くんからスー、スーと心地よい寝息が聞こえてきた。俺は絵本を閉じて天井を見てると「潤……ねた?」少し開いた扉から大ちゃんの声。  「うん……眠ったみたい」  「そっか……」  大ちゃんがベッドに腰をかける。  「ねえ、大ちゃん……」  「ん?」  「ひとりぼっちってやっぱ、さみしいね」  「どうした、急に?」  「うん……。この絵本さ、読んでたらなんかね……」  「ああ、これ?潤、好きなんだよな」  「そっか……。でも、何でこんな悲しい話が好きなんだろ?」  「悲しい……か。でも、潤コレ読むと今度はずっと一緒だから良いねって」  「あ……そっか……」  「今度はずっと一緒だからさみしくないねだって」  「潤くん……優しいね」  「うん、良い子に育っただろ?」  「うん、ホントに」  「俺が育てました」  「そうだね」  二人で潤くんの寝顔を見て笑う。幸せな時間。潤くんも大ちゃんも俺も……ホントなら繋がっていなかった存在かもしれない。でも、今、こうして三人は繋がってる。優しい絆と愛で。そう思うと凄く胸が温かくなった。  「ねぇ、大ちゃん……」  「ん?」  「キスしよ!」  「は?」  「今……俺、凄くキスしたい気分」  俺は困った顔をしてる大ちゃんにキスをした。優しいキスを一つ。  「バカ陽介……」  そう言って微笑んだ大ちゃんが今度は俺にキスをする。心が温かくなるキスを一つ。  「ね、今夜は三人で川の字になって寝よっか?」  その俺の提案に大ちゃんは笑って頷くと、潤くんの隣に横になって潤くんの頭の上で俺の手を握ってくれた。そしてもう片方の手は潤くんの手を握る。俺も同じように空いた手を潤くんの手に重ねた。  今日は川の字で寝よう。ホントの親子みたいに。一生、一緒にいられますように……そう願って。  番外編 終わり

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