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なんだかんだあったけど最終話
俺はもう一度確かめたくて大ちゃんに訊く。
「大ちゃん、それホント?」
「バカ、何度も同じこと言わせんな!」
「ね、お願い!もう一回だけ言って! 」
大ちゃんは耳まで真っ赤にして俺の言葉に応えてくれる。
「陽介が好きだ……」
「大ちゃん!!俺、今まで生きてて良かった~~!!」
この十数年間の片思いにやっと春が来た!俺は嬉しくて……嬉しすぎて大ちゃんを力いっぱい抱きしめる。
「バカ、離せ!」
「離さない」
「陽介、バカ!離せってば!」
「嫌だ、大ちゃん……俺、離したくない」
「バカ……陽介……バ……カ……」
「大……ちゃん……?」
俯いて声が小さくなっていった大ちゃんを、抱きしめた腕の間から覗き込むと、大ちゃんは俺の視線を避けるように横を向いてしまった。
「どうしたの?」
大ちゃんは黙ったまま俺と顔を合わせようとしない。俺は急に不安になって抱きしめていた腕を解き、大ちゃんの頬を両手で包むと掌が大ちゃんの瞳から流れた涙で濡れた。
「大ちゃん?え?何で泣いてるの?」
大ちゃんは答えない。
「抱きしめたの、嫌だった?」
大ちゃんは首を横に振る。
「え?なら……好きって言ったこと後悔してるの?」
「違う!」
今度はちゃん答えてくれた。
「なら、どうして?」
「あいつにも……潤にも悪いことしたって思って」
「大ちゃん……」
「俺が間違った優しさをかけちまったせいで……あいつを苦しめてしまった。そして潤も……。あの時、俺がちゃんとあいつに訊いてたら……もしかしたら潤は今、本当の父親と……」
「大ちゃん、潤くんにとって父親は大ちゃんだけだよ」
「え?」
「今日ね、潤くんが言ってたよ。お父さんが泣くのは見たくないって。お父さんは笑顔が一番ですって。お母さんじゃなくて大ちゃんのこと心配してた。それって潤くんにとって大ちゃんが一番大切な人だからでしょ?」
「潤がそんなこと……」
「うん。すごく心配そうに話してたよ」
「…………」
「本当とか本当じゃないとか、血が繋がってるとか繋がってないとか……俺、そんなの関係ないと思う。気持ちが繋がってたらそれで良いと思う」
「陽介……」
「潤くんは大ちゃんが大好きなんだよ。それで良いじゃん?」
「お前ってば、やっぱり……」
「やっぱりって何だよ?」
「俺、やっぱ……お前には敵わないわ」
「何だよ、それ!」
「ありがとな、陽介……」
俯いていた大ちゃんが顔を上げ、俺と大ちゃんの視線が重なった。俺は両手で包んでいた頬を俺の顔に近づける。大ちゃんの大きくて綺麗な瞳がゆっくりと閉じたのを合図にキスをした。
初恋のキスは檸檬の味って誰かが言ってたけど……嘘だな。だってこんなにも甘いんだもん。
「あ!はないせんせ~、おとさんをなかせちゃだめ~~~~!」
潤くん?ええっ??もしかして、今の見られた???リビングのドアが勢いよく開いて潤くんが入って来た。慌てた大ちゃんは俺を払いのけ、走ってきた潤くんを受け止めた。
「潤、どうした?」
「こえがきこえたから……そしたら、おとさんいないんだもん……グスッ……」
「ごめん、潤」
潤くんの背中を擦りながら目で「お前が大きな声出すからだろ!」と大ちゃんは訴えていた。俺は「ごめん」と手を合わせる。
「おとさん、ないちゃだめだよ?おとさんはえがおがいちばんです……ね?」
「潤……」
「だからなかないで……ね、おとさん……」
「潤……人はね、嬉しい時にも泣くんだよ」
「え?うれしいときにも?」
「そうだよ。嬉しい時にも涙は出るんだ」
「そう……なの……?」
「うん、そうだよ。今ね、潤の話を花井先生から聞いて嬉しくて泣いてたんだ」
「じゅんのはなし?」
「ああ、潤が俺のことを心配してくれてたって聞いて……」
「うん、じゅんね……おとさんとおかさんがけんかばっかりがいやだったの。おとさんがないてるのみたくなかったの。だって、じゅんはおとさんがいちばんすきなんだもん」
「潤……」
大ちゃんの瞳からまた涙が溢れてきた。それを見て潤くんは笑って
「これはうれしいなみだだよね?じゃあ、いっぱいないていいよ!」
そう言うから大ちゃんは泣きながら笑った。その二人の笑顔がすごく温かくて……俺まで泣きそうになる。
「潤、ありがとな」
「うん」
「さ、明日も保育園だし寝ようか」
「うん」
「ごめん、陽介……また今度ゆっくり話そう」
「分かった。潤くん、また明日ね」
「うん、はないせんせー、またあしたね」
俺は鞄を手に取り、玄関まで行く。大ちゃんに抱っこされた潤くんが気持ちよさそうに肩に頭を預け、眠そうに目をこする。俺は「バイバイ」と手を振りドアを閉めた。
帰り道、満天の星空を見上げながら俺はまだ見ぬ明日に希望を描く。明日はどんな明日になる?きっと……今日より幸せな明日になる。だって……大ちゃんがいる明日なんだから!
可愛い小さな薄紅色の花びらが舞う。今日は4月8日。新しい学年の始まり。
「あ!ひらのさんだ」
「おう、潤くん!」
「あのね、じゅん、りすぐみになったよ」
「お!そうか!」
「うん。でもはないせんせーじゃなかった」
「そうか・・・先生は誰になったんだい?」
「あたらしくきた、すずきせんせー」
「そっか……」
「はないせんせーがよかったなぁ」
「それは残念だったな」
「でも……いいんだ」
「ん?」
「はないせんせーね、いつもおうちにきてくれるから」
「へ?」
「きのうもね、おむらいすつくってくれたよ」
「ええ?」
「きょうはね、しんきゅういわい?にはんばーぐつくってくれるって」
「ええ~~ッ??」
「でね、ひみつだよ……じゅんがいちねんせいになったらいっしょにすむの!」
「ええ~~~~ッ???」
「はないせんせー、じゅんのおかさんになってくれるんだよ、いいでしょ!あ……おとさんだ!!ひらのさん、さようなら、またあしたね」
花びらが舞う中、可愛い一つの影が大きな二つの影と重なった。
終わり
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