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ここまでこれたよ5話目

 俺の言葉に無言になった大ちゃん。もし、この時間があと三十秒でも長く続けば俺は間違いなく、勝手に失恋を決め込んで茶化して帰る仕度を始めたと思う。  「そっか……。あのさ、陽介……。俺も……その……お前にずっと……会いたかった」  「え?」  「何か自分でも分かんないんだけど……。ずっとお前に会いたいって思ってる自分がいてさ……」  「う……そ……」  「嘘じゃないって!誰かと飲んで騒いでても陽介の顔が浮かんで……」  「大ちゃん……?」  「ほら、お前が隣にいるのが当たり前だっただろ?だからかなって思ってた。けど……」  「けど?」  「あいつの手紙に書いてあったんだ。あなたは私を見てないって」  「…………」  「たぶん、俺……結婚してもお前をどっかで探してたのかもしんない」  「大ちゃん、それ本当?」  俺は大ちゃんの言葉に嬉しくなって思わず抱きついてしまった。  「バカ、陽介!離せ!!」  「あ!ごめん!」  大ちゃんに抱きついた腕を離して大ちゃんの顔を見ると、耳まで真っ赤になっていた。  「大ちゃん?」  「だから……今朝、お前に会った時、嬉しかったしホッとした。もう探さなくて良いのかって思うと……ホッとしたんだ」  「大ちゃん……」  真っ赤になって俯いてしまった大ちゃんを今度は俺が覗き込む。すると大ちゃんはポツリと呟いた。  「俺も……多分、その……お前が……好きだったんだと思う」  「え?うそ……ホントに?!」  思わず大きな声になってしまった俺。  「バカ!潤が起きるだろ!」  「ごめん!でもビックリして……」  「ホント、お前ってさ今でも全然変わんないよなぁ」  そう言って笑う大ちゃんを俺は抱きしめた。  「バカ、離せ!陽介!!」  「なんか懐かしいなぁ!!大ちゃん、もっと俺のことバカって言ってよ!」  俺の腕の中でバタバタと腕を動かして「バカ陽介、離せ!」と言う大ちゃんが愛おしくて……。俺は抱きしめた腕に力を込めてしまう。暫くして諦めたのか腕の中の大ちゃんは大人しくなった。その大ちゃんの顔を見ようと俺が顔を覗き込むと、大ちゃんの瞳から一筋の涙が……。  「え?何?俺、なんかした?」  「…………」  「大ちゃん……」  「潤さ……俺の子じゃないと思う」  「え?」  「俺さ、あいつと多分一度も……」  「…………」  突然の告白に俺は動揺しすぎて何も言葉が出てこない。  「俺さ、その……酔ってて覚えてなくて。気がついたらあいつが隣で寝てて……」  「え?」  「あいつ、部長の娘だからって皆から距離置かれてて……。俺、そう言うの好きじゃないだろ?デスクが隣だったのもあるんだけど、色々と相談とかにも乗っててさ。飲みに行ったんだけど、俺……あの日は珍しく悪酔いして、記憶が全く無くて……」  「う、うん」  「で、その日からなんとなく付き合うようになってさ……。そしたら「出来たかも」って……」  「それで?」  「責任とんなきゃって……」  「へ?」  「だから結婚した」  そこまで話を聞いて、あまりにも大ちゃんらしくて俺は噴出してしまった。すると大ちゃんは膨れっ面になったかと思うと、今度は眉を下げて悲しそうに言葉を続けた。  「俺さ、なんとなく俺の子じゃないだろうなって思ってた。あいつさ、好きなヤツがいるけどそいつとは結婚できないって言ってたから。多分、俺のこと利用してんだろうなってことも分かってて結婚した」  ああ、そうだった。大ちゃんはそう言う人だ。優しいから自分を犠牲にしても誰かを守ろうとする。何時だったかな?俺がふざけてガラスを割って……それで大ちゃん、額を切って……。結構深く切れて何針か縫ったんだった。でも、俺のこと庇ってくれて、泣く俺に「誰にも言うなよ」そう言って、ガラスの割れる音に驚いて俺の部屋に入って来た母ちゃんに「自分でぶつかって切った」って言ってくれたっけ。  ああ、そうだ。翔ちゃんはそう言う人だった。俺は翔ちゃんがたまらなく愛しくなって抱きしめる。  「俺さ、あいつに一度も触れてないんだ」  耳に届くかわからないくらい小さな声で大ちゃんが呟いた。  「妊娠したら……赤ちゃんに何かあったら大変だろ?産後はあいつも慣れない育児で大変だったし。でも、俺……それはただの言い訳だったんだ……」 「言い訳?」 「俺……あいつを抱けなかった」  そこまで話すと大ちゃんの声はもっと小さくなって  「……が……好き……だった……から」  コレって俺の聞き間違い?もしかして思い込みがそう聞こえさせてる?「陽介が好きだったから……」って聞こえたのはやっぱり空耳??

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