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やっと4話目
俺は食べた物を片付け、リビングに座るスペースを確保する為にそっちも片付ける。なんとか座るスペースが出来上がった頃に大ちゃんが戻ってきた。
「ごめんな……。潤、疲れてたんだな……直ぐに寝たよ」
大ちゃんも一緒にお風呂に入ったのか髪が濡れていて、大ちゃんからシャンプーと石鹸の香りがした。
「えっと……何か飲むか?」
「うん」
「……って言ってもお茶くらいしかないけど」
冷蔵庫からペットボトルを二本取り出して、大ちゃんが俺の隣に腰を下ろした。
「お、こっちも片付けてくれたんだな」
「だって、あのままじゃ座るとこなかったし」
「あはは……」
「あはは……じゃないよ、大ちゃん」
大ちゃんは照れ隠しなのか、笑いながらペットボトルを俺に一本渡した。
「何年ぶりだっけ?」
「う~ん、十年ぶりくらい?」
「もうそんなになるか?」
「うん、だって大ちゃんの卒業式以来じゃん」
「あ……そう言えばお前、式に来なかったもんな」
「うん……。あの時はごめん」
「良いよ、気にすんなって!それに突然だったしな……」
「うん……俺、聞いた時、ビックリし過ぎて腹が痛くなった」
「何だそれ?陽介、お前ってばやっぱ面白いヤツだな」
「いやいや、マジでそれくらいビビったっていうか……」
そこまで俺が話すと大ちゃんは黙り込み俯いてしまった。そんな大ちゃんを見て俺は迷ったけど……今、訊かなきゃ駄目だと思い口を開く。
「大ちゃん……何があったの?」
大ちゃんは暫く手に持っていたペットボトルを見つめていたけど……ポツリと話し出した。
「あいつさ……突然、出てったんだ。他に好きな人が出来たって」
「え?」
「仕事から帰ってきたら置き手紙があってさ。潤がおかさん出て行ったって泣いてた。手紙には潤はいらないって書いてあって、一緒に離婚届も同封されてた。あいつの親は俺が悪いって一方的に怒って……。だから俺は潤を引き取って会社も辞めて……」
「何、それ?俺、訳わかんないんだけど……」
「俺だって分かんないよ……」
「ごめん、そうだよね……。だけどこのこと……大ちゃんのお母さんたち知ってるの?」
「いや……。落ち着いてから知らせようと思ってる」
「そうなんだ……」
「潤と二人で生活を立て直そうと思った時、出来れば自然の多い所で潤を育てたいと思ってさ。就職先探して……で、此処にきたらお前がいて驚いたけど、ちょっとホッとした」
「ホント?」
「ああ。今朝、お前の顔見て驚いたけど……なんかホッとした」
「そっか……」
「なあ、陽介は何してたんだ?」
「俺?えっと……大ちゃん、絶対に笑うなよ!」
「おう……で、何?」
「あのさ……俺、ホントは大ちゃんの近くにいたくて、京都方面の大学受けたの」
「そうなのか?!」
「う……うん。でも落ちちゃって」
「はい?」
「だから、見事にどれも滑ったの!」
「それは、また……」
「で、二年浪人したけど流石に三年目は母ちゃんの目が鬼みたいになって」
「あはは……そういえばお前ん家のお袋さん、迫力あったもんな」
「笑いごとじゃないって!」
「ごめん、ごめん……。でも……あはは……」
「もう、大ちゃん!」
「はい、真面目に聞きます」
「うん、よろしい!でさ、俺……子供が好きだったから保育士になろうって思って」
「そっか……」
「資格を取ったら大ちゃんに会いに行こうって思ってた」
「そうなのか?だけどお前……会いにこなかったじゃん」
「……う……ん。だって……」
「ん?」
大ちゃんは俺の方に向くと、大きな瞳で俺を覗き込む。真っ直ぐに俺に向けられた大ちゃんの綺麗な瞳に俺は恥ずかしくなり、視線を逸らしてしまう。俺は一つ、深呼吸をしてから大ちゃんに
「大ちゃんが結婚するって聞いたから会いに行けなかった」
そう答えると大ちゃんは俺の顔を見つめたまま「何でだよ?」って訊いてきた。
俺の心臓がドクンと大きく鳴る。大ちゃんの問いに正直に答えて良いんだろうか……?ちゃんと答えれば何かが変わるのかな……?今更だけど。
俺は一か八かの賭けに出る。顔を上げ俺を見つめる大ちゃんの瞳をみて俺は答えた。
「大ちゃんのことが好きだったから会いに行けなくなった」
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