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なんとか3話目

 夕方、お母さん達が迎えに来る中で、潤くんは少しさみしそうに「バイバイ」と友達に手を振る。時計の針が六時を過ぎた頃、大ちゃんが潤くんを迎えに来た。走ってくる大ちゃんの姿を最初に見つけた潤くんは大きな声で大ちゃんを呼ぶ。  「あ!おとさんだ!おとさ~~~~ん!!」  潤くんの声に手を振る大ちゃん。  「ごめん、潤。遅くなって……」  「ううん。じゅん、おりこーさんでまってたよ」  「そっか」  「お帰り、大ちゃん」  「陽介……じゃなかった、花井先生すみません」  「やめてよ、大ちゃん!陽介で良いってば!!」  「そっか?でも……な潤」  「うん、はないせんせーだよ」  「じゃあ、園では花井先生でね!大ちゃん、ちょっとだけ待っててくれる?日報を置いて来たら俺も今日は帰れるから……」  「わかった」  俺は潤くんに「直ぐだからね」と声をかけ職員室に走った。急いで日報を園長の机に提出し、鞄と上着を手に取り今来た廊下を戻ると、教室の前の踊り場に座って楽しそうに話す二人がいた。その二人の姿を見て、今まで何処かで信じきれてなかったけど、大ちゃんが結婚してお父さんになったんだと実感する。  「ごめん、待たせて!」  俺が声をかけると二人一緒に俺を見た。その仕草やタイミングがあまりにもピッタリで俺は笑ってしまう。  「何、笑ってんだ?」  「いや、似てるなぁと思って……」  「そっか……」  アレ?何だろう?大ちゃんの顔が一瞬、曇ったような……。俺の気のせい?  「じゃ、潤帰るぞ」  「うん!あいばせんせーもね!」  「潤くん、帰ろう!」  「うん、かえろー!」  俺達はもうすっかり暗くなった道を潤くんを真ん中にして並んで歩いた。潤くんが今日保育園でした遊びや、友達になった子のことを大ちゃんに楽しそうに話す。俺は時々、その潤くんの話に相槌をうちながら大ちゃんの横顔を見る。大ちゃんの口元には無精ひげが少し伸びていて、昔に比べるとちょっとやつれた様にも見えた。潤くんの話が終わるのを待って、俺は勇気を出して大ちゃんに訊く。  「あのさ……大ちゃん……」  「ん?」  「何が……あったの?」  「…………」  「ごめん、変なこと訊いて。言いたくなかっ……」  「いや、良いよ。ただ、潤が……後でも良いか?」  「あ……うん。ごめん」  「だから、良いって!謝まんなよ!」  「うん……」  「家、来る?引っ越ししたてで、まだ片付けられてないけど……」  「え?良いの?」  「ああ……でもホント、まだ全然片付け出来てないから笑うなよ」  そう言って頭に手をやる大ちゃん。暗いけど大ちゃんの頬が少し赤くなってるのが分かった。  翔ちゃんの引っ越してきたマンションは俺の部屋から近い場所にあった。玄関を開けて入る前にもう一度「陽介、笑うなよ」そう念押しされて上がった部屋は……ダンボールが山積みにされてて本当に片付いてない。  「大ちゃんらしいや」  思わず口から出てしまった言葉に大ちゃんは俺のおでこをコツンと叩く。  「お前ね、それ言っちゃ駄目だろーが!」  なんて口では言ってるけど、「勘弁してくれよ」と言いたげな顔の大ちゃん。その大ちゃんの笑顔がとても懐かしく感じた。  俺はテーブルの上に帰りに寄ったコンビニの袋を置き  「潤くん、お腹すいたでしょ?手、洗っといで!」  ……と、潤くんを洗面所に促した。潤くんが戻ってくるまでにとりあえずテーブルの上を片付けて、お弁当とお茶を並べていたら 「陽介、悪いな……」 「そう、思うなら片付けようよ……大ちゃん」 「うるさいよ!」  そう返事が返ってきて俺も大ちゃんも昔みたいに笑い合った。  お弁当を食べ終わる頃に潤くんが大きな欠伸を一つ。それを見た翔ちゃんは  「陽介、もうちょっとだけ良いか?潤を風呂に入れて寝かせてくるから……」  そう言うと眠たそうに目をこする潤くんを抱っこし、大ちゃんはお風呂場に消えていった。

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