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とりあえず2話目

 「せんせー、はやく、おへやいこ~!」  小さな手が俺の手を握って引っ張る。驚いて口を開けたままの大ちゃんから俺はとりあえず荷物を引き受け  「大ちゃん、また帰りにゆっくり話そ」  そう言って潤くんに引っ張られながらうさぎ組の部屋に行った。その日は何だか何時もより時間が早く過ぎる気がした。  お昼寝の時間、新しい場所や友達に緊張しているのか眠れずにいる潤くん。そんな潤くんを俺はお喋りに誘った。皆が起きないように小さな声で。  「潤くん、眠れない?」  「う……ん……」  「そっか……じゃ、ちょっとお外に出て先生とお喋りしよっか!」  「うん!」  口に人差し指を当てて「シーッね!」って言いながら歩く潤くんはとても可愛くて、思わず微笑んでしまう。職員室に行くとバスの運転手の平野さんがお茶を飲んでいた。  「お!新入りさんかい?」  「しんいり~?」  「潤くんです。今日からうさぎ組なんですよ!平野さんよろしくお願いしますね!」  「潤くんか……俺はバスの運転手をしている平野です」  「ひらのせんせ~?」  「先生じゃないからバスのおじさん……いやいや、ひらのさんで良いよ!」  「ひらの?……さん……いしかわ じゅんです。よろしくおねがいします」  「はい、潤くんよろしくな!」  平野さんは潤くんの頭を撫でると「さてと……そろそろ車の整備しに行くか!」と職員室を出て行った。いざ、潤くんと二人っきりになるとどんなお喋りをしようか悩んでしまう。  「せんせー」  「何?潤くん?」  「あのねー、じゅん、はないせんせーすきだよ」  「ホントに?ありがとう」  「このほいくえんもねー、すき」  「そっか~」  「うん。だって、けんかないもんね」  「喧嘩……?」  「うん。おとさんとおかさん、けんかばっかだった」  「…………」  「じゅん、けんかきらい。おとさんなくのみたくない」  「大ちゃん泣いてたのか……でも、なんで……」  「え?だいちゃん?」  「あ、ごめん、ごめん。潤くん、ここじゃ誰も喧嘩したりしないから……ね」  「うん。けんかいや。おとさんはえがおがいちばんです!」  「うん。そうだね……笑顔が一番だよね」  「ね!」  そう言って笑う潤くんを見ると胸が痛くなった。大ちゃんに何があったんだろう?愛し合って結婚したんじゃないの?エリートコースまっしぐらじゃなかったの?なのになんでこんな田舎に来てんの?俺の頭の中でグルグル色んな疑問が回りだす。頭の悪い俺にその答えなんか見つかるはずも無いのに……そう分かっててもドンドン次から次へと?マークでいっぱいになった。  あ~、もう止め!止め!俺がここで悩んだってどうしようもないじゃん!俺なんかじゃ頼りになんないかもしれないけど……大ちゃんに訊いてみよう。俺達が一緒に過ごさなかった十年間に何があったのか……。大ちゃんがどんな十年間を過ごしてきたのか……。  大ちゃん……俺、また失恋しちゃうかもしんないけど、やっぱ、大ちゃんが今でも俺の中で一番だから、俺は大ちゃんの力になりたいよ。大ちゃん……やっぱ、俺……大ちゃんが好きだよ。

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