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21 約束は叶えられる ※

 雪解けを終え、花真っ盛りの季節をすぎた夏の日。  騎士達が凱旋するという知らせをうけ、ミランは待ち望んでいたその日をやっと迎えることになった。  隣国は、強力な火魔法の使い手でもあり、唯一正妻の子でもあった第三王子を旗にしていたが、戦争を厭う国民のクーデターにより、王子はその地位を追われることになった。それに伴い国境線の守りは以前よりは厳重ではあるものの、他の地域からの助けが必要な段階ではなくなったと、やっと帰還命令が下ったのだ。  賠償として流れてきた隣国のものが安く買い叩かれているためにまだ元通りとは言えないが、やっと日常が戻ってきたという感じがする。  門から街に入ってきた騎士は、一様に、出ていくときのような精悍な凛々しさはなかったけれど、誇らしげな態度で満ちていた。先頭にはアデルがいて、カスターニエが耳を震わせながらリズムよく歩いている。彼女も元気そうだ。 「アデル兄だ! アデル兄ー!」  傍らのミアが、ミランの父の肩車の上で両手をぶんぶんと振る。その声が届いたのかはわからないが、アデルはぱっと顔を上げると、ミアに向かって手を振った。  その隣のミランは増えすぎた人にすっかり埋もれていたけれど、おずおずと投げキスをすると、同じものが返ってきたからちゃんと見えていたのだろう。 「騎士様が無事じゃないはずないよねえ。本当、よかったよ」 「そうじゃのう。ミランもほんに嬉しそうじゃ」 「……息子なのはわかってるけどよ、ちょっと嫁にやる気分だぜ、俺は」 「なんだい、しんみりしちゃって」  家族が話す横で、レノアがこそっと耳打ちした。 「公認なの?」 「恥ずかしながら……」 「良かったじゃない。素敵なことだわ。――ミア、そろそろ下りてちょうだいな。叔父様、ありがとうございました」  父はレノアの呼びかけに、下ろす前にミアを仰いだ。 「もういいのかい? 俺はいつまでだって構わないぜ」 「ミア、つぎはアデル兄の肩にのってみたいわ!」 「ははは! 俺よりでっけえから乗りごたえがありそうだな」 「アデルさんなら、万が一落ちても魔法で助けてくれるだろうしね」 「もう……皆さん、ミアをそんなに甘やかさないでくださいな」  レノアが困ったように笑っているが、当のミアはどこ吹く風であった。父の肩から下りて、続く騎士の列をまた見ようとしたが、人混みのせいで全然見られずに飽きたらしく、光魔法をちかちかさせて遊んでいる。 「こら、お外でやるのはやめてって言ったでしょ」 「なんで? だってひまなんだもの!」  ミアは騎士団に出入りするようになってから、すっかり魔法がお気に入りのようで、隙あらば魔法を使っているようだ。以前よりも操魔が上達しており、今は空に光でできた馬を走らせていた。ミランは自然とレノアの顔色を窺ってしまったけれど、暗い顔ではなかったのでほっとする。様子がおかしかったら話を聞くことにしよう。  ふと意識を向けると、マルティンも列に交じっているのが見えた。トリシャもさぞほっとしていることだろう。怪我はなく、表情もすっきりとしている。ただ珍しく目が開かれてらんらんとしているので、妻不足と顔に書いてあるようだった。  殿の騎士を追いかけるように進む人々を見送って、ミランは踵を返す。今日は店番を免除してもらっているのだ。 「母さん、ハンバーグ持っていくね」 「はいよ。騎士様によろしくね」  容器につめたハンバーグと、他にいくつかの総菜を持って、ミランはアデルの家に向かった。  昨日掃除したばかりでたいして汚れてはいないが、気になるところを触り、換気を済ませる。もう聞きなれた誰かの怒鳴り声に、ミランはすっかり動じなくなった。  アデルと出会う前のミランならきっと、ここに五分といられなかっただろう。今はちょっと絡まれたくらいでは引かないし、この治安が悪い場所にも慣れてしまった。  あまりにも危ない時には走って逃げる、それができると約束してやっと合鍵をもらえたのだから、ミランはここで自分の身に傷一つだってつけさせたことはないし、これからもそうするつもりだ。  少しすると、外階段を上る急いだ足音が聞こえた。思わず玄関に走ったミランを、開いた扉の向こうにいたアデルが、目を丸くして迎えた。 「……ミラン?」 「はい」 「着替えてから道具屋に行こうと思っていたのに……待っていてくれたのか」 「約束しましたから。ここで日常を守るって」 「あれはそういう意味だったのか……」  可笑しそうに笑うアデルは、目を細めると、とろけるような笑みを浮かべて両手を広げた。  ミランはミア顔負けに突進したが、彼は難なくその広い胸でミランのことを抱き留めた。  服から漂う埃っぽいにおいが、離れていた日々の過酷さを物語っている。でも彼は帰ってきた。それが今はすべてだ。 「……あの、アデルさん?」 「ん? なんだい?」  ミランの存在を噛みしめるように機嫌が良い彼は慈愛に満ちた笑みなのに、ミランの身体に何やら硬いものが当たっている。 「どうして!?」 「君のことを考えすぎて夜眠れないと言っただろう?」 「今は昼ですよ!」 「……君の匂いをかいでいるとだめだ、抑えがきかなくなる……けれどさすがにシャワーくらいは浴びないと。くっついてしまって、服は汚れていない?」 「くっつ……だ、大丈夫です」  やけに可愛らしい表現にどきりとした。アデルはおそらく浮かれているようだ。  かくいうミランもこのままもつれ込んでも仕方ないかと考えるくらいには、頭の中が春めいているのだけれど。  いつもより時間をかけたアデルのシャワーを、ミランは食事の準備をしながら待った。  母が作った煮込みハンバーグ以外のサラダとオムレツとパンはミランが作った。  母の料理教室通いは未だ続いており、家で成果を披露する際にミランも一緒に作っていたから、今ならレシピなしでもパンが焼ける。  シャツにパンツを身に着けたアデルは、久しぶりのクラウゼ家の料理をやはり幸せそうに笑いながら平らげた。  そのあとは二人並んで洗い物だ。 「戻ってすぐにミランの手料理と母上のハンバーグを食べられるとは思わなかった」 「母だけじゃなくて父も祖父も帰りを楽しみにしていたんですよ。アデルさん、本当にお疲れ様でした」 「こちらこそ、待っていてくれてありがとう。……ミランは髪を短くしたんだね」 「はい。ついに前髪を切りました」 「なんだか以前より幼く見えて可愛いな。口づけても?」 「……ど、どうぞ」  アデルは身を屈めると、頬にちゅうと可愛らしい音を立てて口づけた。 「くちは後でとっておこう。とりあえず片付けないと」  その宣言は、これが終わったら抱くということと同義だった。  *  久しぶりの行為に顔を真っ赤にしたミランに、アデルはさらりと訊ねた。 「自分でしなかった?」 「……えっと」 「俺はしたよ。でも、ミランの中を思い浮かべたけど、ぜんぜんうまくいかなかった」 「……俺もしようとしたんですけど、自分でやっても気持ちよくなかったので……」   アデルはくるりと目を丸くして、それから照れたようにミランの肩に顔を埋めた。 「可愛いことを言わないでくれ。久しぶりなのに歯止めがきかなくなる」 「可愛くはないですけど、でも、いいんですよ?」 「……誘惑しないで。俺は君を傷つけたくない」  ふいに笑みを引っこめ、そう凄む。相変わらず、そういうところはしっかりしている。  ミランは勢いつけてベッドに寝転がり、アデルの首をぐいと引いた。覆いかぶさりそうなところを、慌てて手をついて体重をかけまいとする彼の耳元で、「ちゃんと準備してます」と囁く。 「か、帰ってくる日がわかってから、毎日……。いちおう、ですけど」 「……。そんなに俺に抱かれたかった?」 「……は、はい。あなたがちゃんと生きてるって、俺に教えてください」  彼の片腕をとって、自らの腹に誘導する。へそのすぐ下、一番奥の弱いところ。  ミランはたまらぬ羞恥でぎゅっと目を瞑ったが、覚悟を決めると彼を見据える。  いつかの魔石のようにキラキラ輝くブルーアイ。すっかり伸びた髪をくくっているのは店のリボンだ。彼には変わらないものがある。  たとえどれだけの戦地に経っても、ミランのもとへ戻ってくる。そう信じたいから。  大きな手を自分の手のひらで覆うようにして言った。 「この奥の、いちばん深いところまで、アデルさんでいっぱいにしてください。中に出して、もう離れないでください」  ミランが深呼吸を三つできるくらいの時間、アデルは固まっていた。動かないでいるとそういう石像みたいで、ミランはじっくりその顔を眺めることができて、少し楽しかった。 「……誘惑しないでって言ってるのに。君って本当に……今日は泣いてもやめないからね」 「い、いつも泣いてもやめてくれないじゃないですか」 「あれでも加減してるんだよ」 「あれで!?」  悲鳴を上げたミランの身体はぐるんとひっくり返された。そのままアデルは上げさせた尻のズボンだけずらし、露出させたミランの秘部にむしゃぶりついた。 「やっ、そんな、いきなり!」 「恥ずかしがってもやめないからね……ここ、ちゃんと広げてあげないと」 「んひっ! ……舌、中に入れないでぇ……」  ぞわぞわと背筋を甘い予感が這いまわる。触られていない、腹の奥のほうがきゅんきゅんとした。自分はすっかりおかしくなってしまったとミランは思う。一人で触っても違和感しかないのに、彼にされるならなんだって気持ちがいい。  次いで彼は舌だけでなく指でも、その場所をいじくった。 「ミランのここ、ひくひくしてて可愛いよね」 「そん、そんなこと、言わないでくださいっ……」 「だぁめ。聞いて。赤くなって、俺のことをきゅんきゅん締め付けてくる。健気だね、ミランそっくりだ」 「ひっ……あぅ……」 「気持ちいいんだね、でももっと気持ちよくしてって、俺のを受け入れるために緩んできてる」 「今日……い、いじわるすぎますっ……あっ……そこ、ぐりぐりされたらぁっ……」 「ここがいいんだろう? ミラン、本当に可愛い」 「は! ……あ、あっ……あっ!」  ミランが思っていたのと違う容赦のなさだ。あまりの羞恥にぼろぼろ涙が出るのに、アデルはそれを見ても本当にやめる気がないようだった。それどころか興奮してぐいぐい腰を押し付けてくるから、彼も久しぶりで頭のねじがどこかに飛んで行っているとしか思えない。  すっかり暴かれた中に彼の欲望が入ると、ミランは鮮烈すぎる快感に甲高い声を上げた。 「あう、あっ、あううっ!」 「……っ! 今、もしかして……イッた……?」 「あっ、今、俺、やだ……今日、なんか、変ですっ……」 「入れただけで……。俺のこと、こっちでも待っててくれたんだね……」 「そんなっ、そんなぁっ……あっ! あっ、動かないで、またイクぅ!」  一突きごとに身体の震えが止まらない。入れて出すその動き全てが、今のミランには激しすぎる刺激になった。  そんなミランに触発されたアデルの腰はどんどん力強くなり、ミランはそれでさらに追い詰められる。  口の端からだらしなくよだれを垂らしはじめるのに、そんなに時間はかからなかった。 「はーっ! ……はーっ! はーっ……!」  正常位で抱かれていたと思ったら、今度は対面座位だ。アデルのもので串刺しにされ、鋭い快感が腰を舐める。  重力によって後孔で体を支えるようになり、ミランは叫んだ。  アデルはミランの脚を抱えると、容赦なく上げては串刺しにするのを繰り返す。その度にミランはイッてるみたいな快楽に襲われて、ひいひい泣いた。 「アデル様っ! アデル様っ、気持ちいの、苦しいですっ……」 「大丈夫っ、まだ、いけるだろ?」 「あっまたっ! イク! あっ、おしり、溶けちゃうっ!」 「ずぶずぶで気持ちいいよ、ミランのここ、俺のを離したくないって言ってるみたい」 「んひぃ! そんな、奥、奥、だめですからぁっ!」 「ここでいっぱい出してって言ったの、ミランだろ?」  ちょっと意図がすり替わっているが、否定するだけの余裕はミランにはなかった。  体を落とされるたびに、少しずつ、奥の形が変わっていく。入ってはいけないあの場所が緩んで、彼の長大なものが更に奥まで入ろうとしているのがわかった。  ふいにアデルは先端を奥に押し付けたまま、小刻みに腰をゆする。そうされることで、狭い道に、しるべができてしまう。 「あ! ……あ、あっ!」 「入ったね……結腸だ……」 「あ……あ……あー……」  ミランはすっかり絶頂から下りられなくなっていた。もう揺さぶられるまま、頭を真っ白にして啼くことしかできない。頭がばかになってしまうんじゃないかと思う快楽をまともに受け止めることができず、胸の突起をぴんと腫らせて、内壁でアデルのものを締め付けた。 「ミラン、気持ちいいの?」 「むり……そこむりだから……」 「そこって、ここっ?」 「あああああーっ! あっ、そこ、あんっ! あんっ!」  過ぎる快楽は苦痛なはずなのに、ミランの頭は本当にばかになってしまったらしい。アデルがねじ込んだ奥から、まるで泉のように快楽の奔流がやってきて、ひっきりなしに喘いだ。 「気持ちいいのっ、おく、おくがぁっ……」 「……ミラン、うっとりしてるね……」 「もっと、いじめて、おく、突いてぇ……」 「お姫様のお望みならっ……ほら!」 「あーっ! おしり、壊れちゃうぅ!」  ミランは身も世もなく乱れ、アデルが出す飛沫をたっぷりと体の奥で飲み込んだ。  それからも、どれだけ泣こうが体位を変えて抱かれ続け、いつの間にか失神していたらしい。  目が覚めたのはまさかの翌朝だった。 「……アデルさん!」 「……すまない、やりすぎた」  近所の人が書いたらしい手紙が、ポストから部屋に投げ込まれているのを発見したミランは、怒りの声を上げた。  そこには『耳に毒だからもう少し静かに』と書いてある。  アデルは髪をかき上げて、 「確かに……あんなに色っぽい喘ぎ声が聞こえたら困る人もいるか……」 「からかってますか!?」 「違う、違うよ! ……ミラン、去年のクリスマスにした話は覚えている? いい機会だし、引っ越そうか」  その瞬間、怒りの感情がすっと収まってしまい、ミランは納得いかないと思いながらも、ゆっくり頷いた。 「……俺も払えるところにしてくださいね」 「え? ……え?」 「誤魔化さないでください。そういう甘やかしはよくないですよ。俺がのさばったらどうするつもりなんですか?」 「のさばってもいいよ。昨日みたいに叱って、ごめんなさいって言うまでやめないだけだ」  あぐらをかいた腿の辺りに肘をつき、手のひらに自らの顎を乗せて、アデルはうっそりと笑う。  その仕草がこの上なく魅力的で、ミランはつい言いよどんだ。 「……アデルさん、ずるいですよ」 「俺が? 可愛すぎるミランのほうがずるいだろう」 「だ、だから、可愛くないですってば! もう、みんなのところに一緒にあいさつに行こうと思ってたのに……俺、へろへろで歩けませんよ!」 「魔法で支えようか。そうしたら大丈夫だろう?」 「……アデルさんに支えてもらうよりはその方がいいか……。家族のところに、ミアとレノアさん。ミュラー夫妻のところにも行きたいですね」 「マルティンのところ? いらないだろ」 「相変わらず……。あ、俺、カスターニエにも会いたいです。無事に帰ってきてくれて、帰してくれてありがとうって言わなくちゃ!」 「それは俺も賛成だ。彼女にはたっぷり甘いニンジンをあげないとね」  立ちあがった彼がミランにすっと手を差し出す。  分厚い手に同じものを乗せながら、ミランはゆっくりと立ち上がった。  アデルの風が身体を支えてくれる。思いやりに満ちた彼らしい温かさに、ミランは弾けるように笑った。  そんなミランに、アデルはそっと囁いた。 「俺も愛しているよ」

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