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プロローグ〜幸せの黄色くないロープ

「縛ってやろうか」  そう、男は言った。  自分は造園屋の息子で、ロープの縛り方なら百種類くらい知っていると自慢した。そういうことじゃないーーと言いたかったが、日に焼けた手の甲と使い込んで硬化した指紋が、あながち見栄や冗談でもないと語っている。  何かをひけらかすような男ではないのでその事によほど自負と自信があるのだろう。    金や社会的地位や所有物、なんなら恋愛経験の豊富さや性的技量の巧みさを自慢して口説いてくる男は嫌というほど見てきたが、このパターンは初めてだ。 「だって君、同性に性的な興味はないんだろう?」  その無骨な手と逞しく硬い指先が自分の肌を這い、機械的に縄をかけるーー形のいい唇から発せられる心地よいテンポの罵りと嘲りの言葉を浴びながらーー想像しただけでくらくらするような興奮と渇きを覚える。  この手がさらに自身の鋭敏な部分を擦り内奥を蹂躙(じゅうりん)するのは一体どんな感覚かーー煮えたぎり溶け落ちてしまいそうな肌の熱を悟られないよう、しおらしく牽制した。 「ない。けど、あんたにならある……のかも」  男の濡れた真っ直ぐな瞳に捉えられたーー正常な判断力を有しているとは言い難い。好奇心を満たした翌朝、正気に帰って後悔することになるのだろう。  が、今夜のこの機会を逃したら、望んでも抱かれることは叶うまい。 ーーああ君よ。叶うなら堕ちて来いーー  

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