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第9話 すごいね、マリア様
何で逃げてきてしまったのだろう。
マリア様は、私がここに来たばかりの時も、ずっと気にかけてくれた。
私の宝物も送ってくれた。
マリア様がそんなこと思っているはずないということくらい、分かっているはずなのに。
いつものベンチに腰掛け、黄昏ていると、誰かが私の肩を叩いた。
「よっ、聖女様。」
「……なんだ、団長様か。」
「なんだって何だよ、失礼だな。」
男はカッカと笑って、私の横に腰掛けた。
「お前の世話係が心配してたぞ。」
「ニーナならきっとすぐに来るでしょ。」
ニーナは第1騎士団の中でも一目置かれているらしい。
私を探し出すくらい朝飯前だろう。
恐らく、そう時間はかからないはずだ。
「みんなお前を心配してる。この世界に来て寂しい思いをしてるってな。」
「……。」
「で?本当のところどうなんだ。寂しい思いはしてるのか?」
「……してるように見えますか?こんなに悠々自適に暮らしてるのに。」
「だよな。」
男はまた笑った。
「両親は、心配してるかもしれませんね。」
「可愛がられてたのか。」
「とっても。小さい頃もすこぶる可愛かったので、私。」
この男、笑いすぎじゃない?
でも、可愛がられたのは本当だ。
だから、両親を楽させてあげたくて、私は看護師になった。
「私は元いた世界で看護師をしていたの。」
「カンゴシ?」
「医療の仕事よ。」
「!そうだったのか。」
「ええ。でも、私はこの世界に来る一ヶ月前、無理がたたって体を壊したの。」
「え……。」
「この世界に来る前の私の一日の睡眠時間はね、たったの2時間。」
「2時間?」
「そう。だからね、寝ないの慣れてるの。あなたはさっき、「聖女様は最後まで面倒を見てくれた」と言ったけど、最後までなんて見てないわ。だって、この世界に来てから、私にはちゃんと寝る暇があった。」
そう、ちゃんと寝れたのだ。
あんなに重症者がいっぱい運ばれてきて、いくら魔法といえども、一人一人治療するのにはそこそこ時間がかかるのに。
「私がね、付きっきりで面倒を見ようとした時、他の医療員の人に止められたの。私は「何で止めるんですか?」って聞いたわ。「私が見てなきゃ、この人たちは死んでしまうかもしれない」って。そしたら、医療員の人、何て言ったと思う?」
「……さぁ。」
「「あなたがいないときは、私たちが見ていました」って言われたの。」
「……!」
私は、自分がいないとダメなんだと思っていた。
前の世界ではそうだったから。
私が1人で患者の面倒を見て、1人で後輩の指導をして、1人で亡くなった患者を看取っていたから。
でも、この世界では違う。
「ここの医療員は、みんな優秀だよ。ちゃんと技術がある。さすが、私がいない間も騎士たちを助けてただけあるなって思った。すごく心強いなって思ったの。」
「……。」
「ねぇ、これって誰のおかげだと思う?」
「え?」
これだけ優秀な医療員を、育てたのは誰だろう。
私がいない間も、何とか騎士たちを助けようと、奮闘していたのは誰だろう。
私が来てからの体制を、ちゃんと整えてくれたのは誰だろう。
「すごいね、マリア様。」
そんなマリア様が、私のことを嫌っているなんて、私にはどうしても思えなかった。
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