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第17話

 ともあれ腹ごしらえをすませるのもそこそこに探検に出かけた──(とも)をおつれください、いらない、と押し問答したすえに言い負かした(くだり)は割愛する。  領主館(別館)を背にしてしばらく道なりに進むと、湖畔に突き当たった。波がひたひたと岸辺を洗い、くすぐったげに(あし)の原がそよぐ。草原では鷲が大空を(かけ)るが、ここではトンビが旋回する。不意に胸が締めつけられた。寄る辺ない身とは、きっと今のおれのことだ……。 「って、めそめそする柄じゃないし」  最優先課題は小島から脱出すること。爪先立ちになって湖上を見回した。数艘(すうそう)の帆掛け船が輪になって「せーの」と網を引き揚げるさまに興味をそそられたものの、それより本土はどこだ?  ワシュリ領国で最大というだけあって、ウタイ湖は桁外れに広い。どんなに瞳を凝らしても草原と陸続きの対岸は、その輪郭をはっきり捉えるどころか遠景の中の点ですらない。 「泳いで向こう岸をめざすのは無謀っぽいよなあ……」  それ以前に幼いころに川で溺れたことが原因で、カナヅチを卒業できないままでいるのだが。  葦の枯れ穂を手折り、ぶらぶらさせながら(みぎわ)伝いに歩く。小島の地形は平らかで、半日もあれば一周できるらしい。とはいえ、あちらこちらで水路に行く手を遮られて、そのたび最寄りの橋まで引き返すなどして渡ってと、あみだくじの線をたどるような遠回りをする羽目になる。  なぜかといえば島じゅうに水路が張り巡らされていて、波止場をはじめ、領主館(別館)や診療所や市場(いちば)といったところを結ぶ。それゆえ一家に一艘、手こぎ舟の世界なのだ。  今しも農夫がキュウリを満載した手こぎ舟から会釈をよこすと、櫂を操って漕ぎ去っていった。  水辺にしゃがんだ。水草にじゃれる小魚をぼんやり眺めているうちに、クソ忌々しい許婚という立場に立たされるに至ったいきさつを、ひょっこり思い出した。  イスキアが、羊が踏み固めたのぼり坂に転がっているところに行き合わせたのは、十年前のちょうど今ごろだ。もはや死相が現れている顔つきで、水、水と、ぶつぶつ呟きながら這い寄ってこられたら、おっかないどころの騒ぎではない。うわ、亡者が黄泉の国からさまよい出てきた! そう思ってチビりかけた。  だが半病人を見捨てるようでは男がすたる。なので泉へ案内すると、潜ったっきり一向に浮かんでこない。行きがかり上、岸にあがるまで見届けようと、その場に留まりつづけたのが運のツキ。  泉に送り届けた時点で立ち去っておけば、(えにし)の糸は切れていた。純真な気持ちにつけ込んで、ちゃっかり売約ずみの札を貼る真似をしてくれるとは、あくどいにも程がある。

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