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You're My Only Shinin' Star⑤

 おなかを満たすとAllyは再び地図を広げ、星がきれいに見えると評判の場所をいくつか教えてくれた。 「何にもないだだっ広い場所まで結構車で走ると思う。ドライブにつきあってもらうけど大丈夫?」 「よろしくお願いします」  意地を張っても意味がないので、ドライバーをAllyに頼む。優希だけの力では限りがあるだろう。 「ぼくも何か所か調べてみたんだけど、そこにも行ける?」  禄朗の話してくれたことを思い出しながら、それとなく記憶に残っている地名を探した。中には星がきれいだと書き込まれている場所もあったから、可能性はあるだろう。 「調べたの?」 「うん。といっても土地勘がないから、当てにはならないかもしれないけど……行ってみたい」 「よし、そこも行こう」  数日分の荷物を積んで、昼前に出発することにした。 「多分、夕方には到着できると思う。もしホテルが見つからなかったら車で寝ることになると思うけど」 「平気です」  贅沢な旅行に来たわけではないのだ。 「じゃ、行こうか」  空港からここまで来たのとは違う大きな車に乗り換え、フラットシートの後部座席に寝袋なども積み込まれていた。キャンプにでも行くのかと思うような装備だ。 「もし星空を収めようと思っていたら寒空の中にいるはずだからね。こちらもしっかり防備していかないと」 「何から何までありがとう」  助手席に乗り込むと、見送りに出ていたケイトは窓越しにAllyとキスを交わした。 「気をつけていってきてください」 「留守番を頼んだよ」 「任せてください。禄朗が見つかりますように」 「ありがとう」  静かに出発した車はみるみる加速し、ケイトは見えなくなった。カーステレオからラジオが流れ陽気なDJが何かをしゃべっている。 「まずは近いところから回ってみよう」  人があふれ賑やかだった街並みは、次第に点々と建物だけのさみしい景色へ代わっていく。空港からの道のりでも思ったけど、都会と自然の差が激しい。  ゴミゴミとしていた道路はいつしか空が広く、どこまでも続く道のりに代わっている。 「禄朗が見つかったら、どうする?」  ハンドルを握りながらAllyが問いかけた。 「ずいぶん会っていなかったわけでしょう?お互いにそれぞれ生活していたじゃない、それでもまたうまくやっていけると思ってる?」 「そうだね」  考えなかったかといえば嘘になる。禄朗といた時間より離れていた時間の方がはるかに長い。好きだと思っているけれど、過去の彼に恋をしているだけなのかもしれない。  今、再び顔を合わせて恋愛に発展するのか……優希にはわからない。そしてそれは禄朗にも言えることだった。 「でも会いたいし、もし一人で道に迷っているならそばにいたい」 「もし禄朗が思っていたのと変わっていても?」 「……うん」  雑誌や写真の中でしか逢えなかった禄朗。知っている彼よりいくつも年齢を重ね、いろんな人と出会い、時間を経た彼は優希の知っている禄朗ではないのだろう。  なぜこんなに執着しているのか。いつまでも忘れられないのか。 「禄朗はぼくの初恋でただ一人の人なんだ」 「初恋?」 「そう。恋愛に疎くて誰かに興味もなかったぼくが、唯一一目で恋に落ちて欲しいと思ったのが禄朗なんだ。今までの人生でそれは変わらない。彼以外に恋をしたことはないよ」 「結婚してたじゃん?」 「それとはまた違うかな、あれはなんだろう……家族としての情はあってもドキドキしたりせつなかったり、そういう感情とは違ったし……責任は果たせてないけど、そんな感じ」 「ふうん。禄朗も同じようなこと言ってたな」  Allyは遠くを見つめて呟いた。 「優希が初恋でほかの人とは違うって。優希以外に欲しいと思った人はいないよって」 「そっか」  いまもそうであってくれたら嬉しいな、と緩む頬を抑えながら外へ視線を向けた。流れていく景色は禄朗のもとへ、つながっているのだろうか。ナビを見ながら「このあたりかな」とAllyは車をドライブインへ向けた。 「滞在するならそのあたりのお店に寄っているかもしれないし、聞いてみよう」 「そうだね、気がつかなかった」  カウンターにいる店員に写真を見せ聞いてみるが、見たこともないとの返事だった。 「何件かあたってみよう」  だがどこのお店でも、見たことがない以外の返事はなかった。すぐに見つかるとも思っていなかったので、次の候補へ車を走らせる。  空は色を落とし、濃い青へ変わっていく頃。Allyは車を停め、「今日はここに泊まろう」と言った。 「ここもいい撮影スポットだって評判のキャンプ場なんだ。施設もそろっているし安心して泊まれる」 「うん、運転疲れただろ。お疲れ様でした」  助手席に乗っているだけでも体中がバキバキと音を立てる。途中で買ってきた食材で簡単な調理をするのは優希が引き受けた。 「せめてこれくらいはさせて」 「じゃあ頼むね」  火をおこし、ただ焼くだけの料理ともいえない食事だったけど、満天の星空の下で食べる味は別格だった。 「キャンプって実は初めてなんだよね」 「そうなんだ?」  仲の良い家族で行うイメージもあるキャンプは、優希の生活と無縁だった。火を起こしたのも初めてのことだ。もたつく優希にAllyはアドバイスを送りながらも自分は手を出さなかった。 「でもこれで火もつけれるようになったし、いつでもキャンプに行けるな」 「そうだね。火がついたときは感動したよ!」  顔を黒くしながらも炭の先端が赤く灯り、先端から白い煙を出すのを見た瞬間、嬉しくて飛び上がった。Allyと手を叩きあって喜んで実践することの大事さを強く理解した。どんなに大変でも自分で経験することが糧になる。パチパチと穏やかにはぜる火を眺めていると、心が落ち着いてくる。 「今頃、何してるのかな」  ポツリとこぼれた呟きにAllyは耳を傾けた。 「そんなに好きなら離れなきゃよかったのに」 「だよね。いつだって必死で、これしかないって選択したはずなのに間違えてばかりだ」 「後にならなきゃわからないことだらけだからな」 「本当に。全部意気地のない自分のせいなんだけど、ね」  もし怖がらず禄朗を信じていられたら、今頃は二人で過ごしていたのだろうか。誰のことも傷つけず、ただまっすぐに彼だけを愛していられたのだろうか。 「でもそうだったなら、優希とこうして過ごせなかったと思えば、それはそれでさみしいけど」  彼の言葉に顔をあげた。 「そうだろ?禄朗を探しに来たから、こうしてすごい迫力の星空を見ながら語り合えてる。僕は楽しいけど」 「そっか。そうだよね、Ally」  間違えた選択ばかりしてきたのかもしれない。けれどそれらの先に繋がっていた道は、優希をたくさんの人たちに会わせてくれた。いろんな経験を与えてくれた。 「本当にきみはずいぶんと大人になったんだな」  しみじみとした言葉にAllyは唇を尖らせ、「子ども扱いかよ」とすねた。そんな仕草は昔と変わらないのがほほえましい。 「Allyとも色々あったけど、いい友達になれるのかもしれないなってこと」  優希の生活をボロボロにした相手とこうして一緒の時間を過ごすようになったこと。人生は何が起きるかわからない。面白い、と思った。 「ちょっと回ってくるね。もしかしたらいるかもしれないから」 「わかった。気をつけて」  懐中電灯を手に、キャンプ場の中をゆっくりと歩いた。点在するテントや車からほのかな明かりが漏れ、楽し気な笑い声が聞こえている。  ここにいる人それぞれに人生があって愛する人がいて、生活があって楽しみがある。そんな簡単なことに今まで気がつかなかった。窮屈で狭い優希の世界は今、メキメキと音を立てて広がっている。禄朗を見つけたい、そう思って行動したことが新しい世界へつながっていく。  たった一人、部屋の中で過去だけを見ていた日々。それを解き放ち目覚めるキッカケは、いつだって禄朗が与えてくれる。

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