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第1話
その日俺は、後輩から呼び出されて学校の校舎裏にいた。そいつは緊張した面持ちでやって来ると、案の定なのか想定外なのか、人によるだろうが、俺は何となく告白の類だろうなと思っていた。
「ごめん」
短く告げると、「わかりました」とそいつは帰って行った。こういう事は期待を持たせない方が良い。
最近、男に告白されることも多くなったな。ま、ボーダーレスの時代だし性的嗜好は人それぞれだし、良いんだけどな。俺自身は異性愛者ってだけで。
そんな事を思いながら帰路に着いた。
満員電車。
本当にいつも辟易する。この混雑さが文明が進化して行っても解消されないのは何故なんだ。
と、また、手が股間に伸びて来た。最初は触れるだけだったが、最近は明確に意思を持って触って来ているのがわかる。
そしてここ数日は、ズボンのチャックを下ろして中に手が入り直に触られていた。
最初は驚きもしてが、まぁ快楽があるのは事実だし、慣れれば自分でするより疲れないから良いかと思うようになっていた。
徐々にエスカレートしていく痴漢。
ズボンの後ろを切られて、アナルに何か注入された。そして、細いであろうが何か棒状の物を挿入された。
急いで電車を降りてトイレに駆け込む。
引き抜いたのは、ツボ押しに使われるマッサージ用のアクリルの棒。
そして、それに着いていた白濁の液体。
瞬間、吐き気がした。
見ず知らずの人間のザーメン。
その日以来、時間を変えて空いている電車に乗るようにした。
平穏な日々に慣れて、警戒心も緩んだ頃、寝坊をしてしまった。
あの、満員電車に乗らなければならない。
一本遅くすることも考えたが、何故自分が痴漢如き変態野郎の為に時間を動かさなきゃならないのか考えると憤りを感じた。
それに、車両を変えれば大丈夫だろうとも思った。別に、絶対俺がターゲットなわけじゃないだろう。制服を来た年頃の男なら他にいくらでもいるし。
そう思って電車に乗り込んだ俺は、考えが甘かった事を痛感させられた。
その手はまた、俺の股間に伸びて来た。
クソっと思ったが、身動きが出来ず痴漢の自由を許してしまった。後ろは守りたくて、壁側に移動しようとしたが、それも無理だった。
そして今日もまた、ズボンの後ろを切られて、アナルを弄られた。そして、何かを捩じ込まれた。すぐさま指らしき物は出て行ったが、すぐにまた何かを押し込む。
痛みはないが、繰り返されるその感触に肌が泡立つ。
ようやく降りる駅に着いてまたもや、トイレに駆け込んだ。
そして、自分の後ろに手を伸ばすと、触れた物は触った事のある物。それを引き抜くと、中にザーメンが入ったコンドーム。
今度は、すぐさま嘔吐した。
情けなさに涙が目に浮かんだが、そのままにもしていられないので、自分で後ろを弄りコンドームを引き抜いた。中には破れているものもあり、中に入っていた液体が自分の中にあるだろう事も予想出来た。
その日はそのまま家に帰り学校を休んだ。
それから暫くは電車の時間をずらして、空いている電車で通学した。
良い事もあった。座れるし、時間に余裕も出来た。
だが、座席に座りながらスマフォを弄っていた俺はとある画像を目にした瞬間、固まった。
それは、電車の中のイケメンとして投稿されていた画像で、マスクをしているので俺とは認識できないが知っている人間が見ればわかるものだった。
そして、何枚もありタイトルが気だるげな朝とか、満員電車の苦痛とか書かれていたが、それはどれも俺が痴漢にあっているその時の映像だった。
自分の事だからわかる。
気だるげな表情のそれは、快楽に浸っている時だった。
苦悶の表情はアナルを弄られている時。
誰だかわからない恐怖に体の芯が冷える思いをした。が、次第に怒りに変わる。
そもそも他人の写真を撮って載せるのなんて違法だ。
俺は悩んだ末に覚悟を決めて、あの満員電車に乗り込むことにした。
手にはスマフォを持って、手すりを掴んだ。
痴漢野郎が現れたら写真かムービーを撮るつもりだ。もしくは、それを警戒すれば痴漢されないだろうと思った。
が、俺はその日、これまでにない恐怖を味わう事になった。
手が股間に伸びて来た。
スマフォのカメラを起動させる。
そして、俺が見た物は。
カメラの中に映った俺の周りにいる奴ら全員とカメラ越しに目があったのだ。
思考が停止する。
と、ズボンの中に入った手とは別の手が、俺のズボンのベルトを外し始めた。
次々と伸びてくる手は、縦横無尽に俺の体を触り始めた。乳首を摘れる。
後ろでもパキッという音がしたかと思うと、硬い物がアナルに差し込まれ何かを注入された。
体が固まっていると、耳元で、声がした。
「これはオイルだよ」
その声に我に帰り、体を捻りその場から逃げようとした。自分で思ったよりも緩慢な動きでイライラする。恥も外聞も無いと思い、声をあげようとしたが声が出ない。
自分でも驚いた。パニックになっている。
と、吊り革を捕まっていた手に、大きな手が重ねられた。
「ムービー撮らないのかい?」
「・・っゃ・・」
声のした方を向くと知らないサラリーマンと目があった。辺りを見回すと学生やらスーツを着た人間ばかり。知り合いらしいヤツはいない。そして、全員が俺を見ている。
「気付いたかい?君が乗る車両の人間はね、いつも同じだったんだよ。乗る場所を変えてみんなで君を共有してたのさ」
「今日は楽しい日になりそうだね」
笑顔に恐怖した。
俺は泣きだし暴れたが無駄だった。体をいく人にも抑えられ、口をこじ開けられ噛み付けないように顎を抑えられると、ペニスが捩じ込まれた。喉の奥まで、嗚咽を漏らしても手加減はなく、実際に何度か吐いたがそれでも俺の口の中で射精は繰り返された。
もちろんアナルもターゲットであり、オイルの助けを借りてペニスが押し込まれる。何度も抽送を繰り返されるうちに、それが前立腺に触れた瞬間体の中を快楽が駆け巡った。
「うううん。あっっっ」
奴らにもそれは伝わったようで、場の雰囲気が異様なものに変わったのがわかった。
「気持ち良くなった様だね。今日は全員で可愛がってあげるからね」
「好きなだけイクと良い。ほら」
ペニスを、二度擦られて俺はイッた。その後は何度イッたか覚えてはいない。そのうちに扱かれなくても射精の快楽を味わった記憶が微かに残った。
悪夢の様な時間が終わり、いつの間にか服装が整えられ、電車を降ろされた。
奴らは何気ない他人顔で日常に戻って行く。
きっと常習なのだろう。俺以外にも被害者はいるだろうが、全員が共犯ならどうする事も出来ない。
俺は心身共に疲弊して、いつもの様にトイレに入り鏡を見た。泣き叫んだお陰で目は赤いし、顔も浮腫んでいる。
「ひでー顔」
今日もこのまま帰って学校を休もう。とてもじゃないが行く気になれない、と思った時。
数週間前、俺が振った奴が入って来た。今は顔を合わせたくない。出て行こうとすると、
「あ、先輩」
すれ違いざまに腕を掴まれる。
俺はその瞬間、自分でもビックリするくらい強く腕を振り解いた。
「あ、わ、悪い・・」
「いえ。僕の事気持ち悪いですか?」
そいつは少し悲しそうに俯いた。
「ち、違う。今、さっき・・嫌な事があって・・。お前じゃないから」
一応フォローを入れてさっさとその場を離れよとした。
が、すぐにまた腕を掴まれる。
また振り解こうとしたが、今度はガッチリと掴まれていて振り解けなかった。心臓がドクンと鳴る。
「離・・せ」
そいつはポケットからスマフォを出すと、ムービーを再生させた。そこに映っていたのは・・。体の血液がマイナス五度くらいになった気がした。
「さっきの先輩可愛かったです。泣いちゃって。今も目が腫れてますね」
そう言うと手が目元に伸びてくる。触れる。体が硬直して動かない。それを認識している別の俺がいた。
「ん?驚いたですか?」
俺より背が高いそいつは屈んで俺の顔を覗き込んできた。
「あぁ、また声が出なくなりましたか?」
「・・」
「ターゲットになっていたの知っていたから、助けようと思ったんですけど、僕の告白断ったでしょ。お仕置きが必要かなって」
「・・」
ヤツの手は俺の頬を撫でてから、胸元にするりと伸びていった。
「どうします?この映像、流しても良いですか?もちろんマスクしてるから誰かはわからないけど、先輩の事知ってる人間はわかりますよね」
ゴクリと唾を飲み込む。やめてくれと言いたくて口を開いたが、声が出てこない。
それを見てそいつはクスッと嗤った。
「この後、僕の部屋に来ますか?シャワーで綺麗にしてあげますよ。体、気持ち悪いでしょ」
俺は頷くしか出来なかった。
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