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第2話
飲食店で腹を満たし、会計をして外に出る。
ーーすると、今日寝取った相手が入口の横でスマホを弄っていた。俺を見るやいなや
「ーーあっ!」と駆け寄って来るのだ。
「・・・あー、さっきの。何か用?つか何でここが分かったわけ?」
「え、えっと・・」
もじもじしている相手を見て、なんとなく事情を察してしまった。おそらく跡を付けられていたのだろう。「はぁ」と息吐くと相手はおどおどしつつ俺を上目遣いで見つめてくる。
「えっと、そのっ・・。跡を付けちゃってごめんなさい・・。よかったら、俺と・・」
言い終わる前に「無理」とばっさり切り捨てる。こういうタイプは少しでも気を持たせると付け上がるからだ。
そもそも最初に名前は聞いたがもう覚えてないくらいこいつに関心がなかった。そもそも依頼相手の情報は、行為が終わった時点で記憶から抹消されるくらいどうでもいいことなのだ。
「あくまでも俺は仕事でお前を抱いただけ。それ以上はないから」
「ーーっえ」
相手の返事を待たずにその場を後にする。
今までもこういうことがなかったわけではない。なんというか、セックス中に好意を持たれた場合はなんとなく分かる。それに気付いた彼氏は行為が終わると、長居せず相手を回収しすぐに帰るパターンがほとんどだ。
まあ好意を向けられてなくとも、セックスした俺と相手をいつまでも同じ空間になんて居させたくなくて、すぐに帰るカップルがほとんどだ。
寝取り屋はあくまで寝取り行為を楽しみたいカップルが利用するだけの存在でしかないからだ。
そう考えると今回のカップルはやり変わってる。というか、おかしいのは彼氏の方だ。
俺と相手がヤってる時も無関心だし、明らかに俺と体を重ねていた相手は俺に好意を抱き始めていた。彼氏も気付いていたはずだ。
終わった後、相手からもう少し休んでから帰らないかと誘われたのだ。反応に困り彼氏の方を見ると「どうぞ」と笑顔で言われたので、気が進まなかったが仕方なくホテルで一時間ほど休んでから帰路に付いた。
おそらくそれもあって余計に相手に惚れられたのだろう。
相手の会話に俺が付き合ってやってる間、彼氏は俺と相手を全く気にしていない様子でスマホを弄っていた。その時点でなんとなく嫌な予感はしていた。
***
用心をし、いつもより遠回りをして帰路に付く。
飲み屋街を歩いている途中、後方を確認する為にわざと財布を落とし、拾う振りをしてチラッと後ろを見やる。
ーーすると、相手が飲み屋の看板の影からこちらの様子を伺っているのだ。やっぱりか、と思い気付かないふりをして財布を拾い、先程よりも足早に歩く。
飲み屋街を抜け人通りが少なくなってくると、尾行されてるのが明らかに分かる。俺の足音の他に、タッタッタッと音が聞こえるのだ。
家に帰るにはただでさえ人通りが少ないルートになってしまう。・・・家にまで押しかける気か。どうしようか。
ーーすると、突然誰かにがしっと腕を掴まれたのだ。まさか追いつかれたかと反射的に振り返った時だった。
ーそこには全く知らない男がいた。
「こっち来て!」
「っえ」
顔も知らない男に半ば強引に引きずられ、この場を後にする。寝取った相手も予期していなかっただろうこの光景をぽかんと見ているしかない様子だった。
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