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第3話
「っ、ちょ、もうっ..無理、」
「もう少しだから頑張って」
言われるがまま手を引かれているがこの男は一体だれなんだ。
とっくにストーカーも見えなくなっているのに走る速度を緩めないのは用心してのことなのだろうか。
考えても仕方ないので、大人しく手を引かれるがままこの素性もわからない男に身を任せるしかなかった。
***
しばらく走った後、ようやく手を離してくるのだ。はあ、はあ、と肩を上下に揺らす俺とは正反対にこの男は随分と涼しい顔をしている。
「・・・で、アンタ誰」
「・・え!ストーカーから助けてあげたのにお礼とかないの?!」
「・・あー、さっきの奴を撒いたのは正直助かった。・・・で、アンタは一体」
誰なんだと言う前に「じゃ、そのお礼にここの店でちょっと呑もうよ」と手首を掴まれる。まさかこいつも寝取り相手と同じか、と思い
「まさか最初からこういう目的だったのか」と睨む。
「違う違う!俺はソッチじゃないから!ノーマルだって!」
「・・・はあ?じゃあなんで」
いいからいいから、と半ば無理やり店の中に連れられ席に案内される。
ーーすると、見た事のある顔が席に付いていた。
「え、お前・・・・」
「・・あ!良かったまた会えた~!」
さっきぶりだねえ!と席を立ち両手を包み込んでくるこの男は今日の寝取り相手の彼氏、もとい先程のストーカーの彼氏だ。今日の行為中に無言を貫いていた時とは打って変わって、嘘のないような笑顔で手を握りながら顔を近付けてくる。
「ごめんねえ。怖い目に合わせちゃって。でももう大丈夫だからね」
「は?それってどういう・・・」
「まーまーお二人さん。とりあえず座って話しようよ」
先程ストーカーから助けてくれた奴が間に入ってくると、寝取り相手の彼氏は「もー、今良いところだったのになぁ」と口を尖らせるのだ。
***
「で、さっきのは一体どういうことなんだよ」
注文したオレンジジュースを飲みつつさっそく本題に入る。
「はいはい。急かさなくてもちゃあんと説明するよお。和夏くん」
「ーーえっ、何で名前・・」
と思わず口にすると
「いっちばん最初に名前言ったじゃ~ん」
と男はむすっとするのだ。
「ちなみに~、俺の名前は」覚えてる?と言われる前に「覚えてない」と突っぱねる。
最初に名前は言ったかもしれないが、行為中は好かれるのが面倒な為名前は呼ばない。それゆえに寝取り相手も、もちろん彼氏のことも毎回名前は覚えていない。
「俺はね、宮っていうんだ。もう忘れないでね、和夏くん」
「いや忘れるなも何も他人なんだからもう会うことはないだろ。そもそもなんでこんなことになってんだよ」
先程の、寝取り相手が俺をストーカーしていた話だ。
彼氏・・宮は自分の相手がストーカーをしているのを知っているような口ぶりだったのが疑問だった。
「実はね~、君には悪いんだけど俺がアイツーー里と別れたくて和夏くんを利用させてもらったんだよねえ」
「・・・は?」
「つまり、里と別れたい俺がネットで見つけた寝取り屋且つ里のタイプである君を使って里と別れられたんだあ。で、里は君にお熱ってこと~」
寝取り相手及びストーカーである里が、宮にとってうっとおしくてたまらなかったらしい。
宮と里は最近付き合ったばかりで、宮は里に押し切られ付き合ってあげてたそうだ。体の関係は持っていなかったらしい。里のことがタイプでない為、ヤる気になれず誘われても断り続けてたそうだ。別れようと言っても嫌だと一晩中泣かれ、とても困っていたとか。
何か別れる方法はないかとネットで調べていたら、寝取り屋である俺が出てきたらしい。
あらかじめ俺と寝取りの日程を決め、DMをした際に写真も手に入れてた宮は、俺の写真を里に見せ「寝取り屋の彼とヤッてくれたら俺もヤる気になるなあ」なんて言ったとか。食い付いてきた里は「彼ならいいよ」と言ったらしい。
なんでも俺の顔が里のタイプだとか。
里はクソ男らしく、なんでも気になる相手ができたら見境ないらしい。
ーー例え自分や相手に恋人がいたとしても、付き合ってもらえるまで気になった相手に付きまとう。という性格のことを宮と里の共通の友人に教えてもらったらしい。里と別れたい宮は、里のタイプである俺を使って別れることに成功したのだと言う。俺とホテルで解散した後に里に振られたそうだ。
そして里が俺にストーカーをするのを見越して、宮が友人に里の跡を付けるように頼んでいたようだ。
で、俺を助けて待ち合わせ場所であるこの居酒屋に連れてきた、ということらしい。
「・・ストーカーも俺を利用したお前もクソだということが分かった」
「ほんっとう和夏くんには申し訳ないと思ってるんだ~。そこで提案なんだけど」
本当に申し訳ないと思ってるのかと思いつつ、提案?と首を傾げる。すると宮はにこっと笑いかけてくるのだ。
「いつストーカー被害に合うか分からないでしょ?俺が護衛してあげる~」
わーぱちぱちと手拍手をする宮に「はあ?」と思わず声が出る。
「おい、何を勝手に」
「店員さ~ん、飲み物おかわり~!」
店内にいる店員に向かって元気よく手を挙げる宮。なんだろう、こいつのこのひょうひょうとした感じが凄く腹立たしい。
「話を聞け、おい」
「おいじゃなくて宮だってば!」
すると、来た店員に注文を頼む。
「はあ、付き合ってられない。俺は帰る」
と立ち上がろうとすると「まあまあ」と友人が俺をなだめてくるのだ。
「おごるしもう少し休んでいきなよ。さっきのストーカーのこともあって疲れただろ?」
「まあ・・・」
気付けばジュースが入っていたグラスも空になっていた。ストーカーのこともあり疲れていた俺は喉が乾いた状態で帰るのももやもやするのでもう少し居座ることにした。
***
「ストーカーのこともあるし、ホテルに出入りするのはやめた方がいいよ?里に刺されるかもしれないし、寝取りは休業けって~い」
「そんなこと言われてもぉっ、俺だって溜まるもんは溜まるんだっれ!」
数時間後、俺は完全に出来上がっていた。ジュースしか飲んでいないはずなのに頭がふわふわするのだ。
「・・・・・なあ、もしかして」
と、友人が宮に耳打ちをすると、
「せいか~い。和夏くんのジュース、お酒とすり替えちゃった。しかもちょっと強いやつ」
酒の入ったグラス片手ににやっと笑う宮。
呆れ返る友人を見ると
「だって俺も和夏くん気に入っちゃったんだもん」と、ふふっと笑うのだ。友人はあーなるほど、と更に呆れた様子だ。
「えー、溜まってるってことは和夏くんこーんなに美人さんなのに恋人いないの?」
「じゃあ俺とシてみる?」
と、ほてった俺の頬を手で優しく撫でるのだ。冷たい手が心地良くてすり、と手に頬を寄せる。
「っ、ねえ、和夏くん。誘ってんの?」
「・・・・・初対面の奴が調子乗ってんじゃねー」
そう言いつつも手の柔らかさが心地よくてすりすり頬を寄せ続ける。
「・・・おい、お二人さん。ここではまじでやめろよ?俺はとりあえず帰るから」
「はいはい、分かってるってえ。和夏くん、大丈夫~?」
俺の向かいに座っていた宮が隣の席に付き、背中を撫でつつ手を握ってくる。
「・・・おい、なに手ぇ握ってんら。俺は安くねーからな」
「へえ・・?なら相当君とスるのは相当気持ちいいんだろうねえ」
にぎにぎと手を揉まれ、つつ、と手首まで撫で上げられる。
「っ、ん」
「・・かわいー声。・・・とりあえず、お店出よっか?」
ーーすると空気を読んだ友人は先に帰り、その後はお察しの通り、いわゆるお持ち帰りをされたのだ。
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