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第22話

 扉を開け閉めする音が仕事部屋から僅かに聞こえた。恐らく宮が帰って来たのだろう。ふと外を見ると、すっかり暗くなっていた。  座りっぱなしで作業していた体を伸ばし、夕食の準備に取り掛かる為自室を出る。  あれから数日が経ち、3人で暮らすのも少し慣れてきた。  瞬が一緒に住むのはさすがに過保護だと思ったが、正直助かったのも事実だ。瞬がいれば宮も手出ししてくることはないだろうから。  そんなこんなで3人で暮らすに当たって、いくつかルールを決めた。 ・家事は分担すること。 ・俺の仕事の邪魔はしないこと。 ・勝手に自室である仕事部屋に入らないこと。  ーーそして、俺に手を出さないことは暗黙の了解だ。  静かだった家が少々騒がしくなった気もするが、誰かと泊まったりすることが今までなかったので、この生活が割と楽しかったりもする。未だに少々不安もあるが。  「ねー和夏くん。今日のご飯なにー?」 「ハンバーグ」 「やった。俺ハンバーグ大好き」  火をかけたフライパンにタネを入れたタイミングで背後からぎゅっと抱き着かれ、服に手を入れられる。 「っ、おい、」 「いーじゃん。最近ヤってなくて溜まってるでしょ?俺もさすがに和夏くん不足でさあ」  体をまさぐられ、徐々に上に上がってくる手に突起を軽く擦られると、宮に触れられた体が喜んでしまう。  だがあまりくっつかれると、嫌でも宮との情事を思い出してしまうのだ。 「っも、しゅんが、帰ってくる・・、から・・っ」 「えー、むしろ見せつけてあげようよ?俺達がこうやって仲良くしてるとこ」 「も、駄目・・ッ、だっ・・て、」 立っていられなくなりそのままずるずると座り込むと、腹に手を回され支えられるのだ。 ーーーすると、玄関からガチャガチャと荒く扉を開ける音が聞こえた。 「た、だいま・・っ」 「はー・・、毎度毎度早い帰宅だよねえ。ちゃんと働いてんの?残業して会社に貢献したら?」 「残業にならねーように仕事してんだよ。こんなことにならないようにな」 と、この状況を指差すのだ。良いタイミングで帰ってきてくれたと思う反面、生殺しな俺は毎回大変なのだ。  そして、これがほぼ毎日のことだった。特別珍しいことではない。  宮に注意しても空返事で終わる為あまり意味がない。だから瞬がこうしてなるべく早く帰って来て助けてくれるのがお決まりなのだ。  正方形のテーブルを3人で囲む。宮と瞬が向かい合う様に座っていて、俺は2人の間の位置に座っている。  今はこうした位置で落ち着いているが、初日は大変だった。俺と誰が向かい合うように座るか、それだけでこいつらは2時間も喧嘩した。その為このような配置になったのだ。  相変わらず宮と瞬が言い合いをしている横で、宮に邪魔されたおかげで少し焦げてしまったハンバーグを頬張る。 「おい和夏。付いてる」 と、口の端に付いていたご飯粒を指ですくうと、自分の口に運ぶのだ。 「はー・・、だからキザだって。さっむー」 「あ?僻むなよ」 また始まった・・ が、これも毎度のこと。こいつらは些細なことで喧嘩というか言い合いをするので、最初は止めに入っていた俺ももはや気にもとめなくなっていた。  そんなこんなで食事が終わったら風呂だが、毎日違う順番で入っている。  俺が風呂に入っている間、2人はリビングか部屋にいる。逆に2人が風呂に入っている時はそれぞれ俺に手が出せないように、自室である仕事部屋にいるのは俺が自分の身を守る為にしていることだ。  風呂が終わると俺は自室、宮はクローゼットがある荷物置きになっている部屋、瞬はリビングでそれぞれ朝を迎えるのだ。 ーーその日の深夜、自室にて  なんだか目が覚めてしまった為、飲み物を飲もうと冷蔵庫があるリビングに向かう。  冷蔵庫に入っている缶を適当に開けて飲むと、味に違和感を感じながらも1缶全部飲み干してしまった。  それからなぜか気分が良くなった俺は止まらなくなり、3缶も飲み干してしまったのだ。  すると、体が異様にぽかぽかして眠気が襲ってきた。自室に戻る為、なんとか壁伝いに歩いてふらつく体を支えながら歩く。 ーーすると、壁に付いていた手が滑り、ずるっと膝を付いてしまう。  再び立ち上がろうとすると、真っ暗なリビングの隅に何かあるように見えた。暗闇に慣れてきた目をよく凝らして見ると、布団があるのが分かった。  もう何でもいいから眠りたかった俺は、ふらつきながらもたどり着くと、すぐにその布団に入った。  暖かくてそのまま奥に潜ると、トンッと何かに当たったのだ。それは湯たんぽの様に暖かく、ぎゅうっと抱き着くと、何だか声が聞こえてきた様な気がした。 だがそんなことお構い無しに睡魔が襲ってくると、ぎしっと覆いかぶさってきた何かから声が降ってきたのだ。 「ーーー誘ったのは和夏だからな」 服の上から体を撫でられ、まどろみの中で体の中を流れ落ちていく痺れる様な感覚に、そのまま意識ごと溶けていくようだった。

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