「ちょっと、和夏くんに何すんの」 「口にしなかっただけありがたいと思えよ」 「・・は？"しなかった"？″できなかった″の間違いでしょ」 　俺の目の前で2人の言い合いが始まった。 そんなことがどうでもよくなるくらい瞬からされたことが衝撃だったのだ。 　いつも優しくて、バーや家で俺の寝取りの話もよく聞いてくれてた。 　好きな人が他の男を抱くという話を、一体どういう気持ちで聞いていたというのだろうか。 「・・・上等だよ」 いきなり俺に向き直った瞬は、近付いて来たと思えば腰に手を回し、くいっと顎を持ち上げてくるのだ。 「っ、瞬、」 「ごめん和夏。ちょっと我慢して」 　正直、瞬のことは嫌いではないが付き合えるかと言われたらよく分からない。 　親友だから、これ以上距離が縮まることはないと思っていたから。 　だからいきなりキスするぞと言われても困るのだ。と言っても、この体勢では拒否できるはずもなかった。 　覚悟を決めて、きゅっと目を瞑る他なかった。 ーーすると ふにっと唇に触れるそれは、明らかに相手の唇ではなかった。ゆっくりと目を開けると、指を当てられていたのが分かった。 「っえ、」 「悪かったな、和夏。急に友達だった奴となんてできないだろ？だから今はこれで我慢するから」 と、唇から離した指をそっと自分の唇に寄せるのだ。 それを見ていた宮は眉をひそめた。 「うっわ、キッザー・・・」 「さすがに無理やりなんてできる訳ないだろ」 「ふーん？ま、俺はこれから毎日できるけどねえ？」 ちらっと俺を横目で見やると、瞬に対して気まずくなり視線を逸らすのだ。 「どういうことだよ」 「あはっ、俺今日からしばらくここに泊まるんだよねえ」 「・・っえ、和夏正気か？何されるか分からないからやめとけって」 「・・・いや、あんな風にお願いされたらーーーあ、」 余計なことを言ってしまったと慌てて口を閉じると、 「何されたんだよ」 手を取られて問い詰められてしまう。 　すると、その時の風呂場での状況を思い出して、顔が一気に熱くなるのだ。 　宮はふふんと言わんばかりの勝ち誇ったような顔をしていた。 そんな俺達の様子を見た瞬は深くため息を吐いた後にぼそっと呟いた。 「ーーー和夏。俺もここに住む」 「「えっ」」 宮と声が重なり、瞬は俺を見やるのだ。 「・・そいつは良くて俺は駄目なのかよ」 口を尖らせ拗ねているように見えたのが、子供の様で少し可愛く見えた。 「いや、そうは言ってないだろ。ただ瞬はここから職場まで遠いだろ？」 「あ、そうなんだ？じゃあやめとけば？俺と和夏くん同棲するんだから邪魔しないでよ」 「・・・お前あんま余計なことを言うな。同棲じゃないし」 はいはーいと返事をした宮を見て、瞬は口を開いた。 「・・職場が遠いのは我慢する。寝る場所はソファとかで良いから」 頼む、と力ない声で言われるとさすがになんだか可哀想に見えてくるのだ。 「・・分かったよ。ただ、無理だと思ったら帰れよ？」 「・・！！ありがとう和夏っ」 余程嬉しかったのか、ぎゅうっと抱き着かれる。 宮はまじか、とぽつりと呟いていた。 こうして、3人の共同生活が始まった。 ーー自分の️貞操が危機に晒されるとは、俺は今はまだ思ってもいなかった。