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第26話 怒り
俺は多分胸を焦がす怒りと、張り裂けそうな悲しみで、冷たいオーラを撒き散らしていたみたいだ。通り過ぎる学生達が俺を腫物でも扱うかのように、遠巻きにしていた。
「おい。どうしたって言うんだよ。」
俺の肩を掴んで、篤哉が顔を顰めた。
俺は何も言わずに、篤哉の手を振り払って歩き続けた。後ろの方で壱太も合流したのか、ヒソヒソと何か話している。俺はもう今は誰とも話す気になれなくて、どかりとカフェの奥まった席に座った。
ガラス張りの向こうには広い芝地が広がっていて、そこにいくつか点在しているベンチを目にしたくなくて、俺は外を見るのをやめた。
全く何処を見ても葵との思い出が浮かび上がってくるなんて、俺も随分絆されてたもんだ。俺は舌打ちしたい気分で、頭を抱えた。このひりつくような胸の痛みが早く過ぎ去ってくれるように願いながら、歯を食いしばった。
ガタっと目の前の席に蓮が座ると、俺の前にカフェオレを置いた。こいつは自分で絶対飲まない甘いこれを、俺のために買ってくるんだ。
俺は少し癒されて、カフェオレを手に取るとひと口飲んだ。蓮は俺に何も聞かずに外の景色を眺めていた。甘いものを摂ったおかげか、少し落ち着いた俺は、それでも痛む胸を無意識に手で押さえながらボソリと呟いた。
「…葵が別れようってさ。俺のことが嫌いになったんなら、俺も納得だ。人間が心変わりするのは人類誕生の頃から普遍的なことだろうからな。
でも、葵はΩと番うから別れるって言うんだ。馬鹿にしてるだろ。そのΩが好きってわけじゃないんだぜ。そもそも俺たちが一番最初に付き合いだした理由知ってるか?
親が番同士で、鬱陶しいよなって、それが始まりだったんだ。笑えるだろ。…一か月前に俺のこと愛してるって言ってたその言葉も、随分薄っぺらかったみたいだ。」
しばらく沈黙が続いたけれど、蓮はボソっと呟いた。
「…それで?」
俺は席を立つと、荷物を持ち上げていった。
「別れた。まったく、こんな気持ちにさせられるとは、葵に裏切られた気分だよ。俺も人の子だったみたいだ。アイツが大学でよかった。顔を見なくて済むからな。」
俺は近づいてくる篤哉と壱太をチラッと見ると、蓮にアイツらにも適当に言っといてくれと頼むと芝地出口に向かって歩き出した。
蓮に話したせいか少し気分が浮上した気がして、俺は今日初めて空を見上げたんだ。
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