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第28話 混乱

俺は何も言えなかった。蓮の気持ちには全然気づいてなかったからだ。俺の事を好き?それって…。俺は混乱して黙りこくってしまった。 すると蓮は俺の頭をクシャリと撫でて、薄く笑って言った。 「今どうこうして欲しい訳じゃないさ。涼介も今は傷心で、そんな気になれないだろうし。でも考えられる様になったら、俺の事を考えて欲しいんだ。…待ってるから。」 そう言うと、少し恥ずかしそうな顔をして海の方を見つめて呟いた。 「…俺だって、こんな一世一代な告白、マジで心臓ヤバいんだからな。」 弱気な蓮の言葉に、俺は少しクスっと笑って身体を伸ばすと背伸びをして立ち上がった。そして平静を保ちながら、蓮に呼びかけた。 「そろそろ帰ろうぜ。」 蓮が何か言いたげに俺を見上げるから、俺は海を見ながら言った。 「…お前が言ってくれたことは、ちゃんと考えるから。今まで俺、気づかなくて、…なんか悪かったな。」 そう言ってからチラッと蓮を見下ろすと、蓮は苦笑いして立ち上がると俺の手をぎゅっと握って言った。 「俺さ、真剣だから。俺の本命は涼介だし、逃すつもり…ないから。」 俺は今までの蓮と話した「蓮の本命の話」が次々とフラッシュバックして、急に心臓がドキドキしてきた。あんな前から、蓮は俺の事をずっと想ってくれていたんだって。 家まで送ってくれた蓮は、あっさりと爆音を響かせて夜道に消えていった。俺は葵に振られた事、蓮に告られた事、色々あり過ぎて情緒不安定になりそうだった。 俺は普段俺様キャラだけど、本当は心配性で、繊細なんだと思う。そんな俺自身が不甲斐なくって、余計俺様に振る舞ってるんだ。そんな俺を葵も蓮も見透かしてる気がして、俺はため息をつくと玄関の荷物を手に、部屋へと階段を登っていった。 丁度試験勉強で起きていた理玖が、トイレから部屋に戻るところだった。 「凉兄、遅くまで遊んでばっかり。僕もあっくんと夜遊びしたいよ。」 そう言って、口を尖らして俺を睨む理玖に苦笑して、理玖のふわふわの髪をかき混ぜると言った。 「お前が篤哉と夜遊びしたら10か条破る事になるだろ?もうちょっと我慢しろ、な?」 理玖は俺に変顔をぶちかますと、部屋へと戻って行った。俺の恋愛事情については、篤哉に口止めしてるから理玖は知らないはずだ。理玖に知られると、納得するまでしつこく聞いてくるから、面倒なんだ。 俺は葵との別れであんなに痛んでいた胸が、蓮の告白と海へのバイク、理玖の憎まれ口で少し軽くなったのを感じていた。

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