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第29話 動揺

「涼介、こっち。」 そう言って俺を手招きするのは蓮だ。あの海の告白以来、ひと月経つが特に俺たちの関係に変化はなかった。というか、蓮が俺のタイミングを辛抱強く待っているのかもしれない。 俺は、元々蓮のことが嫌いじゃない。多分好きだ。昔、こいつがどう男を抱くのかと興味を覚えた事もあるくらいだ。正直その点は今でも興味はあった。 でも葵に散々な振られ方をした後だったおかげで、俺は親友である蓮とちゃんとした関係を築く事に二の足を踏んでたんだ。もし蓮との関係が葵と同じように崩壊したら、同時に俺は親友も失ってしまう。 今の俺にはそんなリスクを取るほど、タフな精神状態ではなかったんだ。だから蓮には悪いと思いながら俺はハッキリとした返事をしていなかった。 一方蓮は辛抱強く待っているとはいえ、以前よりは明らかに俺に対しての感情を隠すことがなくなった気がする。それが俺にはくすぐったく感じるし、だんだん絡めとられて行くのがちょっとゾクゾクして俺の性癖を刺激するんだ。 俺は一昨日来たばかりの、蓮のマンション駐輪場にバイクから降りた。半年前から一人暮らしを始めた蓮は、俺をちょくちょく部屋に誘った。 葵と別れる前から、俺はすっかり自分の家の様に蓮のマンションに入り浸っていた。二人きりの時もあったし、壱太や篤哉が一緒の時もあった。 だから告られた後に行かないという選択肢は無かったんだ。でも、そう言えば葵と別れてからあいつらが一緒にここに来てない事に、今気づいてしまった。 俺はテレビの前のソファに座って、蓮から微炭酸を受け取りながら蓮の顔をじっと見つめた。蓮は俺の視線を片眉を上げて受け止めるとニヤッと笑った。 「…何か聞きたいことがあるみたいだな、涼介。」 俺は一瞬ためらったけれど、こんな事ははっきり聞いた方が良いと思って尋ねた。 「あのさ、葵と別れてから、あいつら一緒にここに来ないのって…。」 蓮は肩をすくめて言った。 「俺は別に、涼介と二人にしろって言ったわけじゃないぞ。あいつらが勝手に気を利かせてるみたいだな。…涼介が先輩と付き合った時に、俺が涼介を好きだって事があいつらにバレたんだ。 …篤哉は薄々気づいてたみたいだけど、壱太はひどく驚いてた。まぁ、俺も必死でかくしてたからな…。」 そう言って額を掻く蓮の腕を、俺は思わず引っ張り込んだ。

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