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第69話 その扉を閉めて 【完】
引っ越し業者のトラックがエンジン音を響かせて立ち去るのを聴きながら、俺は蓮と二人暮らしをした初めての場所を眺めた。ガランとしたその場所は、何だか悲しげで、俺たちの過去を何処かに流してしまったかのようだった。
俺がぼうっとして見つめていると、蓮が玄関から顔を出して呼びかけた。
「涼介、もう忘れ物はないだろ?さっき俺も確認したけど。…なに?なんかあった?」
俺はハッとして、少し口を歪めて首を振った。
「ちょっとだけメランコリーになってただけだ。人生ってのは確実に進んでいくんだなって。」
蓮は俺を後ろから抱き寄せると、耳元で優しく囁いた。
「…あの人は、きっと今の涼介を嬉しく思っているに違いないさ。涼介が幸せでいる事が、あの人にとっても幸せなんだ。」
俺は自分を包んでいる蓮の逞しい腕を掴んで、息を吐き出した。
「…そうだな。誰に頼まれなくても俺は幸せになるつもりだし、誰かさんが多分幸せにしてくれるんじゃないかな。」
耳元でクスッと笑う蓮の吐息に、俺は顔を向けてその続きを強請った。柔らかく啄む蓮の唇は、直ぐに俺好みの奪うような口づけに変わった。しばらく甘い吐息と、水音しか聞こえなかった。
俺たちは額を合わせてどちらともなく笑い始めた。
「ふ、本当キリがなくて困る。涼介がこんなに色っぽいと俺も馬鹿みたいに貪って。」
俺は蓮から離れると、手の中の部屋の鍵を鳴らして言った。
「ま、それは新居でいくらでも続きが出来るだろ?そろそろ行かないとな。あ、誰か待機してくれてるんだったか?」
蓮は俺の腰に手を添えて部屋から連れ出すと、これからのスケジュールを話しながら俺から鍵を受け取ると鍵を閉めた。その時の聴き慣れたガチャリという音が、俺の耳にいつまでも残った。
俺の人生はまだほんの二十年ちょっとだけど、その割に色々あった。そう思うのは俺だけじゃないかもしれないが、その濃縮されたエピソードのあれこれは俺を少しだけ強くしたかもしれない。
そして俺の側に蓮が居てくれること、それがきっと大きな幸運だったのだろう。小さな頃から俺の良い所も、悪い所も、あまつさえ性癖までも受け止めてくれた蓮は、きっと海の砂浜に埋もれてしまったら二度と見つからない一粒のダイヤモンドだろう。
でも俺がもし砂浜でそれを落としてしまったのなら、俺はそれを見つかるまで探し求めるだろうけど。まずは落とさないようにしなくちゃ。絶対に。
俺は隣を歩く蓮に微笑みかけて言った。
「お前も俺が落としたら、自分で発光して俺に居場所を教えてくれよ?」
蓮のキョトンとした顔を見ながら、俺は蓮の手を掴むと先に立って歩き出したんだ。
~後書き~
三好家シリーズ 『三好家の次男はいつも苦労性』はいかがだったでしょうか?読んでいただき本当にありがとうございます♡
アルファポリスで完結済みの三好家シリーズ一作目『三好家の末っ子は今日もご機嫌』の主人公である、ショタ寄りの末っ子の理玖のお世話係のポジションである次男の涼介は、冷めたところのある性癖が何故かエロいキャラクターでしたが、かなり深掘り出来て楽しく書けました。
皆様も楽しんで頂けたなら幸いです♡
長男の彗はあまり情報も少なくて、シリーズの最後としてはかなり自由度が高いかなと思っています。が、いつ着手できるか…。忘れた頃に書き始めるかも?アルファ、アルファした感じで書くのも楽しそうかも!
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