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side. Subaru
「いらっしゃいませ~。」
嫌でも腹が鳴ると思ったら、昼もだいぶ過ぎていて。
仕方なく、学校近くのコンビニへと立ち寄る。
店員の業務用な挨拶はスルーして。弁当コーナーまで一直線に突き進んだ。
ちらりと店内を見渡せば、雑誌を読み耽っていたサラリーマンなんかがチラホラいたが…。俺と目が合うなり、慌てて本を棚へと戻すと、店から逃げるように出て行く。
見た目は至って普通のヤンキー。
髪は全体的に黒いけど、前髪には少しだけ赤くメッシュを入れてたし。耳には晃亮と同じ、二連のピアスをはめていた。
目つきも悪いし元々表情が薄い所為で。いつも不機嫌そうだと、晃亮にすら言われてたぐらいだったから。
他人からの第一印象は、間違いなく最悪なんだろう。
何より一番恐れられる理由、それはこの学ランが要因。
晃亮と同じそれは、県内屈指の不良校の証。
最初はヤンチャ者の集まり程度だったこの学校も。
ずば抜けた晃亮ひとりの名の下に、悪名が広く知れ渡り…今や裏世界では″最恐″と唱われるようになった。
その鈴鹿 高校のもの…だ。
この学ランを着てるだけで、人の群れは滝のように俺達から遠ざかって行く。
例え未成年だと解っていても、酒だろうが煙草だろうが、無言で売ってくれる位だ。
今や店内はもぬけの殻。
さっきのダルそうなチャラい店員も、慌てて奥に非難したみたいだし。
別に俺は晃亮みたく、手当たり次第に人を傷つけたりはしないのに。
昔はこういったあからさまな嫌悪に、うんざりする時もあったけど…。既に在り来たりと化したこの光景を、気にするような事はもう無くなっていた。
別に、どうでもいい。
「ねぇ、キミ。」
弁当を選ぶ訳でも無く。
ボーッと陳列棚を眺めていると、すぐ真横で声を掛けられて。思わず振り向けば。
そこには────…
「鈴高の子でしょ~?ダメだよ~堂々と学校サボっちゃ!」
ニコニコと、けれど決して媚びてるとかじゃなくて。
例えば、近所の悪戯っ子を優しく窘めるみたいな…ごく自然な振る舞いのソレ。
話し掛けてきた人物は、至って普通のアルバイト店員で。どうみても不良な俺とは、まず関わろうとしないような…本当に何処にでもいそうな、ちょっと垂れ眼で愛嬌のある青年だった。
そんな奴が天下の鈴高生徒を相手に、説教を噛ますだけでも驚くべき事態だが──…
「ん?どしたの?オレの顔、なんか付いてたかな…?」
立ち尽くす俺に、首を傾げて顔に手をやるこの人を。
俺は、知っていた──…
「あ、んた…」
「はいな?」
ずっと探してた。
たった一度、ほんの一瞬の出来事だったけど。
「あんた、あの時の…」
俺の中で、″あの日″は。
特別になったんだ…
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