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side. madoka
「あっ、晃亮クン…」
カウンターでぼんやりしていたら、
最近知り合った鈴高の生徒である、千葉 晃亮クンがいて。
いつもなら必ず昴クンや、賑やかなあのふたりと一緒なのに。今日は珍しく誰も連れていない。
店先での喫煙を注意してからというもの、何だか懐かれちゃったみたいで。
彼と昴クンは幼なじみで、兄弟みたいな間柄だけど。
互いにひとりっ子らしく。
きっとお兄ちゃんみたいに慕ってくれてんのかなぁと…
末っ子なオレとしては、かなり嬉しいことだった。
森脇クンや土屋クンと比べて、
この子達は凄く無口で大人しいのだけど。
そういう不器用そうな所がまた、母性本能みたいなのを擽ってくれちゃって…。
なんだかんだ、自分から進んで彼らを構いにいってたりした。
『不良』というカテゴリーに分けちゃうと。
大抵の人は、決まって拒否反応を起こすけど。
オレの場合、姉ちゃんや兄ちゃんのお陰か…はたまたその友人達による影響か。
オレの中には最初から、
そういう枠組みなんて存在しなかった。
ただ暴れたいだけ…
うちの兄ちゃんは、まさにソレだったけど。
中にはグレるのに、それなりの理由を抱えた人も沢山いたし。オレは優しくして貰ってたから。
一概に“悪”と、決めつけちゃいけないと思うんだ。
現にこの子達も、一応オレの前ではイイコだし…。
きっ、昨日はあんなコト…があったりしたけど、
あれも彼なりの愛情表現だと思えば。
可愛いもんなんじゃ…ないか、なあ?
男同士のスキンシップにしては、
ちょっと刺激的過ぎだったけど…。
きっとまだ、
人との接し方が良く解らない年頃なんだと。
大人な対応ということで、
無理矢理に割り切る事にした。
「まどか…」
相変わらず綺麗な顔と、色香漂う容姿と声質。
オレのが年上なのに。
哀しいかな、背は彼の方がかなり高く大人びていた。
表情は陶器みたいに無機質で。
彫刻みたいに喜怒哀楽もなく、なんだか冷ややかだけれど…。
今日は少し、
いつもと違うような気がした。
「晃亮…クン?」
見上げれば、
彼の纏う雰囲気に禍々しいモノを感じ…。
緊張か恐怖心からなのか、ドクドクと心臓が嫌な脈を放つ。
読み取りにくい表情が、更にそれを増徴させ…。
全身に鳥肌を走らせた。
名を呼んでも、反応はない。
暫く黙ったままにらめっこ。
その最中、
店内奥のスタッフルームから丁度出て来た店長が、ただならぬ空気に気づいて…。
晃亮君の制服を認めれば、途端に硬直して。
動けずに、息を潜める姿が視界に入った。
「まどか、来い。」
「えっ…?」
一瞬、言葉の意味が理解出来なかったものの…
すぐ察して、口を開く。
「ゴメンねっ、まだバイト中────」
「じゃあ、今すぐ辞めろ。」
「…!?」
あまりの無茶振りに、開いた口が塞がらず。
茫然と、晃亮クンを見上げるオレ。
ドクン、ドクン────…
なんだろう、
イヤな予感が、する…
喜怒哀楽全て、
今まで何も湛えていなかった彼の表情に。
オレは今、残酷な独裁者の姿を…
垣間見る。
立ち尽くし、
いつまでも動かないオレに痺れを切らしたのか…
突然、晃亮クンは背後にある棚目掛けて、
拳を振り下ろす。
「なッ…───!?」
店長と2人、とてつもない破壊音に驚愕し肩を竦める。
鉄製の棚は容易く大破し。
陳列していた商品は一瞬にして、その価値を失い…
床へと散乱していった。
「こっ、晃亮く…」
「早くしろ、でないと…」
“店 を潰す─────…”
普通の高校生なら、まず口にしないだろう過激な発言に絶句するも…
視界に入った店長の青ざめた顔と、かち合ってしまい。
オレは…
「…ごめんなさい、店長…オレ辞めます。」
突然声を掛けられ、びくりと怯える店長。
目を泳がせ何か言おうとするものの、晃亮クンに思い切り睨まれ…
今にも泣き出しそうな面持ちで一言、
わかったと…返事をした。
晃亮クンを外に待たせ、
店長に端的な挨拶を交わす。
先程の棚と商品を弁償する旨を伝え、荷物を手早く纏めると…。
急ぎ彼のもとへと走った。
「何処に、行くの…?」
そう問いかけても、やっぱり反応はなく…
オレはざわつく胸を抱えながら。
彼の背を、必死で追い掛けた。
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