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side.Madoka
メニュー表に水の入ったグラスは…何故か1人分だけ。
多少は気になりつつも、昴クンの執事みたいな振る舞いにうっとり魅とれていたら…
漸く復活した加藤が半ベソでやって来ては、
オレをジト目で睨んでいた。
ほんとゴメン…。
加藤も昴クンをすっかり警戒してしまい、
さり気なく他の店員さんに注文をお願いしちゃうし…
やっぱり馬が合わないのかな~?
程なくして、美味しそうなランチが運ばれてきて。
加藤が食べながら、延々と喋ってくる。
それを適当な相槌で返しながら。
バイトに励む昴クンの方を、チラチラと観察してた。
ふぇ~…やっぱりカッコイイ…
なんか無駄にオーダーで呼ばれて、
その都度テーブルについてるけど…
あれは明らかに昴クン目当てだな…
みーんなして、下心が駄々漏れだもんね。
そんな光景を目の当たりにすると、
モヤモヤして嫌だったけどさ…。
ここはグッと我慢の時だ。
昴クンは頑張ってバイトしてるんだから。
オレが変なヤキモキ妬いて、ウザがられたりしたらヤだし…
敢えて見ないでおこうと加藤の相手でもして、
やり過ごそうと思ったんだけど─────
「おおっ!スッゲェ美人!!」
加藤の場違いなテンションに弾かれて、
なんとなくその視線の先を見やる、と…。
そこには加藤好みな大人っぽくて、モデル顔負けな女の人がいて。
昴クンと仲睦まじく、談笑していた。
(ッ……!!)
多分…お店の人、だと思う。
昴クンが恭しく頭下げてるし。
女の人はニコニコしながら何か話していて。
自然な流れで昴クンの手を取り、はしゃいでいた。
うぅ…これはさすがに、痛い…。
「なぁ、円の知り合いのコってさ~。あの女の人と並ぶとチョー絵にならねぇ?まさに美男美女!」
「え…?」
しかも致命的に空気読めない加藤が、
オレを追い詰めるような事を口走るから…
言われて撃沈。
加藤の言うとおり、艶やかな黒髪を揺らし微笑む女の人はどう見ても昴クンとぴったりお似合い、
まるでパズルのピースみたいに…完璧なバランスで。
へなちょこなオレが入る隙なんて無いくらい、
相乗して華やかなオーラを醸し出していたから…。
「…………」
「アレ、円?どした~便所か~?」
一向に会話が途切れないないふたりに、耐えかねて。
オレは勢い良く席を立つ。
「もう帰るっ…」
「へっ?けどまだ食後のデザートが───…」
加藤の制止も聞かず、
オレは伝票を手に昴クンのもとへ向かう。
はっきり言って、今ふたりの間に入ってくのは気が引けたけど…流石に黙って帰るのは、ダメな気がして。
ツキツキと痛む胸を押さえつつ、
オレは震える声で昴クンへと声を掛けるのだった。
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