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side.Madoka
「円サン、どうしたんですか?」
目が合いそうになったのを、
思わず逸らすように俯いてしまう。
頭上から聞こえる、心配そうな昴クンの声に。
更に罪悪感が募り…
後ろめたさから顔を上げられずにいると───…
「…もしかして、円ちゃんじゃないの~!」
何故かあの女の人からそう名指しされ、
反射的に顔を上げる。
どうやらこの人が兄ちゃんの言っていた友人さんらしく。学生時代は良く家に遊びにきてて、オレとも面識があったみたいなんだけど…。
まだ小学生とかだったからか。こんな綺麗な人なのに、オレは全く覚えていなかったんだよね…。
兄ちゃんの友達って基本的に、イカツイ不良仲間って感じの人が多かったしなぁ。
そんなわけで、オレが困り果てた顔して黙っていると。
女の人…この店のオーナーさんである忍サンは、
ひとり納得したように頷いて。
何か言いかけたところで、お店の人に呼ばれ。
残念そうに『またね』と手を振りながら、奥へと引っ込んでしまった。
去り際、何気なく昴クンへとウインクを飛ばされて…
忘れかけてたオレの心がまた、
モヤモヤと落ち着かなくなってしまったから。
「…今日はもう、帰るねっ!」
「円サンっ…!」
オレはキミから逃げるようにレジへと向かい、
店を後にした。
「円ぁ~、なんなんだよ急に…」
慌てて加藤が後ろからやって来て、
バンッと背中を叩かれる。
「あ、分かったぞ!さては、あの忍さんて人に…」
惚れたな?…と、自信たっぷりに告げる加藤に。
かける言葉すら浮かばず立ち尽くす。
こんな時に限って加藤は…なんてポンコツなんだろう。
「諦めろ、円。お前にゃハードルが高すぎってもんだぜ~?例えば…あの昴ってのくらいに、顔が良くなくちゃだな~…」
グリグリと傷に塩まで塗りたくる加藤。
何にも知らないからって…こいつは─────
「もう、うるさい!…加藤のハゲ!!」
「あだっ!…な、ハゲって…」
八つ当たりだとは解ってたけど。
流石に苛々が爆発してしまい、
オレは親友を一方的に怒鳴りつけると。
放心状態の加藤を置き去りにし、その場から駆け出す。
結局、図書館にもいかずそのまま帰って来て。
昴クンの匂いがする布団の上で、
更に悶々と時間を費やし…
バイトから戻ってきた昴クンとも、
気まずいまま、ろくな話も出来ず。
同棲から初めて背を向けて…
同じベッドで眠りについてしまった。
そんな中眠れる筈もなく。
長い夜、不安は増すばかり…
オレは自らを追い詰めて、
勝手に押し潰されそうになっていたんだ…
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