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side.Madoka
『…で、休みにいきなりなんだ?』
電話口の兄ちゃんは、昼前の時間帯にも関わらず。
寝起きもあってか…かなり不機嫌そうだった。
だがしかし今のオレはドツボにハマった迷える仔羊…
そんな兄ちゃんの態度に怯むことなく、一気に捲し立てた。
「だって兄ちゃん以外に相談出来る人がいないんだよ!ねぇねぇ~オレどうしたらいいかなぁ…?てか昴クンは、オレみたいなショっボい男の何処に惚れてくれたんだと思う?中身だってダメダメで、すぐウジウジしちゃうし…このままじゃ、あの人にっ…」
『少し落ち着け、円…。』
ウンザリしたように溜め息を吐く兄ちゃんに、
まだまだ言い足りないオレは、唇を尖らせ不貞腐れる。
『まぁ、言いてぇ事も解るけどな。ようは気持ちの問題だろ?』
「キモチ?」
そう言われてもイマイチピンとこないオレ。
『早い話が努力するって事だ。出来る出来ないじゃなくてな…。』
相手に尽くしたいと想う心を、形にする事…
ようは愛があれば…ってコトなんだろうか?
昴クンへの愛なら、
誰にも負けない自信はあるけどさ…。
気持ちだけではこの破壊的な不器用さは、
どうにもならないような───…
『だからってヘタな真似すんじゃねぇぞ?お前は何にもしない方が、アイツにとって一番なんだからな。』
「え~?それじゃ結局、今と何にも変わんないじゃんか~!」
『いんだって。お前は大人しく身体でも捧げとけ。』
「なっ…!!」
『それで充分─────あっ…コラ晃亮、電話中にくっつくなって…』
オレが何かを告げる前に、
そこでぷつりと一方的に電話は切れてしまい。
「も~…相談になんないじゃんか~…」
(兄ちゃんの友達って言う、あの女の人のコトだって聞きたかったんだけどな…)
オレの事知ってる風だった、
昴クンのバイト先のオーナーさん。
とっても美人で、
モデルさんみたいにスタイルが良くって…
『円の知り合いのコさ~、あの女の人と並ぶと絵にならねぇ?』
加藤が何気なく放った言葉が、グサグサと胸に突き刺さる。
解ってるさ…
オレと昴クンじや月とスッポン。
誰がどう見ても釣り合わないって…。
昴クンは容姿も中身も全部が男前で…綺麗で。
不良なんかしてるけど、本当はとても優しくて、
喧嘩だってスッゴく強い。
…ついでにエッチも…上手だし?
ご飯作ったらメチャクチャ美味しいし。
人生初のバイトも、ソツなくこなして…
女性客が見惚れちゃうぐらい、制服姿が様になってた。
まさに非の打ち所が全くない、
ホントに完璧としか言いようがないくらい。
対してオレは、
なんともちんちくりんな中身と容姿。
加えて究極のぶきっちょ…
どんなバイトしても、必ず失敗ばかりだし…
「うう…なんだか泣きたくなってきたよ…。」
自ら谷底にダイブしてる気分で、
ベッドへと顔を埋める。
こんなんじゃ、そのうち昴クンに愛想尽かされて。
ポイッと捨てられても…
仕方ないよね。
(そんなのヤダ…)
オレばっか尽くして貰うだけじゃなく、
オレだって昴クンの事を喜ばせてみたいだけなのに。
勝手にヘコんで、醜いヤキモチなんか妬いて。
今日だってろくに話もせず、目まで合わせられずに、
昴クンはバイトに出かけてしまったし…。
初めてバイト先に行った日から、
お互い、なんだかんだ予定が合わず…すれ違ってて。
ホントは今日ふたりで休み合わせてさ、
一緒にゆっくりしようねって…
ずっと前から話してたのにな…
なのに昴クン、急にバイト入れちゃうんだもん…
このタイミングでドタキャンとか、
やっぱり避けられてるのかな…とか、
マイナスに考えちゃうから、やだ。
「あ~もうっ!しっかりしろ篠宮 円っ…!!」
頭をガシガシして、頬にバチバチ気合いを注入して。
ウジウジするなんてらしくない。
オレって昔からポジティブの塊だって、みんなに言われてたじゃないか!
「よぉし……決めた!スーパーに行こう!」
拳を握り、モヤつく思考を一蹴してから勢い良く立ち上がると。
カバンから財布と鍵を手に、部屋を飛び出す。
オレもキミに何かしたい。
兄ちゃんだって言ってたし…悩んだってムダムダ。
自分の足で動かなきゃ…
そうしておれは、
大好きな人の事を想いながら。
行動を起こすべく、玄関を開けると…
真夏のアスファルトの上を、颯爽と駆け抜けた。
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