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第一章 もう僕に、結婚をしろと?

 小春日和の温かな、秋の日。  冬のタペストリーを、屋敷の使用人と共に選んでいた早乙女 麻衣(さおとめ まい)の元へ、父がやって来た。 「麻衣、支度をするんだ。ほら、先だって仕立て上がった、あのスーツ。あれを着なさい」 「お出かけですか、お父様」 「いいから。急ぐんだぞ」  麻衣は、行き先を告げない父を不思議に思ったが、すぐに笑顔になった。 「お父様、今日は何だかご機嫌が良さそう」  昨今の不況で、この早乙女家が窮地に追い込まれつつあることは、まだ18歳の麻衣も感じ取っていた。  そのせいで、険しい表情が増えた父だ。  事業を縮小してみたり、不動産を売却してみたり。  しかし、どれも今一つ効果が薄い。  ただずるずると零落していく、早乙女家。  その当主である麻衣の父は、大きな賭けに出る気持ちで、麻衣に支度をさせた。  早乙女家の末息子である麻衣も、もう成人した。  本日開かれるパーティーに彼を出席させ、資産のある名家の誰かと出会わせる。 「うまくいけば、婚姻関係を結べるかもしれない」  そうなると、今の早乙女家にとって強力なバックアップになる。  そんな下心のある、父だ。  しかし、麻衣を苦労させずに済む、良い所に嫁がせたいという、子を思う気持ちも充分あった。

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