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第四十六章・5

「……!」  目を見開き、口をぽかんと開けている響也に、哲郎が明るい声を掛けた。 「喜んでいいんだぞ? ここに、陽性反応のデータもある!」  ペーパーをひらひらさせる哲郎だが、響也はそれを確かめる必要はない、と思った。  麻衣が。  麻衣の口から、子どもを授かった、と聞いたのだ。  これ以上の証明は、なかった。 「麻衣。麻衣……、ありがとう。ありがとう、麻衣!」 「響也さん!」  響也は、花束ごと麻衣を抱きしめた。  ああ、そうか。  この、淡いブーケの色は、ベビーブルー。  赤ちゃんを、表していたんだな! 「嬉しい。本当に、嬉しいよ……」  人前で泣くなど、恥だと思っていた響也だったが、今はただ涙が溢れて仕方がない。 「これがゴールじゃないですよ。スタートです、響也さん」 「そうか。そうだな」  以前、響也が麻衣に告げた決意を、今度は麻衣が返してくれる。  それがひどく嬉しい、響也だ。  顔を上げ、麻衣と共に人々の方に向き直った。  温かな、笑顔。  絶え間ない、拍手。 「私は。私たちは、幸せだな。麻衣」 「はい、響也さん。これから、もっと幸せになりましょう」  祝福の中、二人は誓った。  みんなと一緒に、もっともっと幸せになることを、誓い合った。

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