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ぽかんとしたまま見送っていると創介さんが笑いを堪えていることに気づいてそっちを向く。
「心配だったんじゃない?祠堂さんと咲くんは有名なゲイカップルだからな」
「え?」
「宮くんが回って下げてきたらもうあがったら?」
腰を叩かれて戸惑っていると、キッチンの中に居る店長と目が合った。
「……戸川、佐倉のアホ呼び戻して来い」
その眼光が鋭くて思わず竦み上がる。
「はーい」
面倒臭そうに創介さんがフロアに出て行くと、俺はとりあえずカウンター周りを片付けた。
「村瀬」
「はひっ!」
店長の声があまりにも低くて思わず声も裏返る。
「本当にもう宮部とあがっていいぞ。お疲れ」
店長は特に表情も変えないまま言うと、キッチンの奥に歩いて行った。
「雅美さーんっ!浮気してないって!」
すぐに小走りで戻ってきた佐倉さんがキッチンの中に入って行く。
「村瀬くん」
呼ばれて振り返ると、宮部はそのままキッチンを覗き込んだ。
「お先に失礼します!……行くよ」
腕を引かれて戸惑いつつ俺も挨拶をしてカウンターから出る。
「お疲れー!しっかりな!」
宮部から預かったらしいトレーを持って笑っている創介さんの言葉もよく理解できない。
「なぁ……宮……」
スタッフルームに入った瞬間、壁に押さえつけられて戸惑う。
「え……?」
細められた目。
怒っているんだろうけど、その姿にドキッとしてしまった。
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