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第1話

 遠くに見えるキラキラした明かりと、時折はしゃぎながら通り過ぎていく人の声とを聞きながらぼんやりとしていた。  吐く息が白くなるくらい冷え切った部屋の中だったけれど、それでも外よりマシなんだって気づいたのは窓が開いたからだ。  そこから入ってくるヒヤッとした空気に思わず体をすくめると、「うぇ!?」って変な声がした。  窓から入ってくるその人は、サンタクロースとは程遠い外見だったけれど……  とんとんとんと足早に走り寄り、ベッドにうずくまるようにして眠っている三太に向かってダイブする。 「ふげぇっ」  お腹の下で、丸まった三太が変な声を上げたけどどうせいつものことだ。 「フルっ!ちょ……この体勢も駄目なのかよ……」  くたびれた中年……って言ったら怒られるから、ほどよく油の落ちきってしなびた青年がもそもそと体を起こして欠伸をする。 「いい加減にしろよ、普通に起こせって」  寝癖だらけの頭に、目やにでしょぼしょぼした目に、よだれ跡のついた口元に……  どこからどう見てもやっぱりくたびれた三太は、俺が飛び込んだ時にしたたかに打ったらしい腰を擦りながら伸びをする。  俺がいつもこうやって起こすから、三太は大の字で眠れなくなったらしい。 「でも普通にしたら起きないだろ?」 「うっせぇ」  黙らせるためにむにっと唇を摘まむからか、すっかり俺の唇は摘まみやすいアヒル口になってしまっている。 「今日はぁ、コーヒーとトーストとサラダだよ」  自分では精一杯の笑顔で言ってみるけれど、俺を見下ろす三太の瞳に映る自分は無表情だった。 「あぁ、それで焦げ臭いのか」  うんざりしたように言って瞬きするから、瞳の中の俺も掻き消えてしまった。 「焦げてないよ」  精一杯の虚勢でそう告げる。  三太はちょっと不審そうな目を向けて……食卓を見て肩を落とす。 「焦げを取ったら焦げてないわけじゃないだろ」  そう言って新しい食パンをトースターに放り込んだ。 「焦げてないし」 「ああそうかよ」 「コーヒーとサラダはうまくいったし」 「…………」  コーヒーはお湯を入れるだけだし、サラダは袋に入っていたのを皿に出しただけだけど…… 「ドレッシング出せ」 「はぁい」  ゴマのドレッシングを取って戻ると、チンと音がして三太がトースターからパンを取り出す所だ。  特にしがみついて見ていたわけでもないのに、三太の焼いたトーストはこんがりと綺麗なきつね色だった。  自分の皿の焦げた部分を削り取ったトーストを見下ろして肩を落とすと、さっと目の前のパンが消えてきつね色があらわれる。

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