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第2話
「ほら、とっとと食って大学行ってこい」
「あっ、それは俺がたべ 」
「うるせぇ、息子に焦げたもん食わせられるか」
自分の皿に二枚の焦げたパンを乗せて、三太はコーヒーを飲んでぐっと眉間に皺を寄せた。
濃かった か、もしくは薄かった……?
自分のカップにそろそろと口をつけてみるけれど、よくわからない。
俺にしてみたら、別に焦げてようと濃かろうと、口に入るのならそれだけで十分だろうと……思うのだけれど。
男のものにしては小さい靴に足を入れて振り返ると、三太が眠そうに欠伸しながら見下ろしている。
「じゃ、いってきます」
「おう、行ってこい」
いつも通り俺をそうやって送り出した後、簡単な家事をしてから二度寝するのが三太のルーティンだ。
夜の仕事をしてて帰ってくるのが遅いのに、俺に朝ご飯を食べさせて見送るためだけに毎朝起きてくれる。
三太は息子のためだからって言ってくれるけれど、俺は三太の息子なんかじゃない。
俺は、三太に拾われた子供だ。
お母さんだと思う人は、数日前に五個入りのパンの袋を投げつけて出て行ったっきり帰ってこなくて、暖房もない暗い部屋の中でぼんやりと転がっていた。
そんな俺を窓から入ってきた三太が見つけて、それ以来ずっとずっと俺を育ててくれている。
小学校の行事だって、中学の進路相談だって、高校の反抗期だって、三太は真っ直ぐに俺を受け止めてくれて……
マンションの下から見上げると、ベランダで三太が洗濯物を干しているのが見えた。
雨の日はともかく毎日きちんと洗濯してくれるから、俺の着る服はいつもいい匂いだ。
汚れで黒くなって、カピカピしている服なんて三太と暮らし始めてからは着たことがない。
部屋も、片付けは苦手だって言いながら毎日綺麗にしてくれる。
ゴミに埋もれて、足が突っかかって酒瓶や空き缶の上に倒れ込むなんてことはない。
毎日、お腹いっぱいまでご飯を食べさせてくれて、いってらっしゃいって言ってくれる。
「 ────!」
俺が見上げているのがわかったのか、三太が手を振って駅の方を指差す。
遅刻するぞって言いたいんだろうなってわかって、俺は慌ててそっちに向かって走り出した。
◆ ◆ ◆
俺は、昔はチンピラと名乗ることすら恥ずかしくなるような雑魚のハンパ者だった。
たまたま伝手で入った店で、嬢が客と旅行に行くって言っていたのを聞いて魔が差した。
伝手で雇って貰ったからって黒服なんて楽ができるわけでもないし面倒臭いしで、思っていたよりも旨味もないことにうんざりしたところに丁度手持ちの金も尽きてきて……
旅行期間の真ん中なら絶対に家には帰ってこないだろうと、その嬢の部屋に忍び込んだ時にフルを見つけた。
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