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第6話 治療のお誘い
僕より遅く教室に戻ってきた海斗がいつも通り僕に合図を送ってきたから、海斗は僕の敏感症?を治療しただけだって思ってるんだと分かった。
あれを変な意味で捉えたら、きっとおかしな話になる。僕達の今の関係が壊れてしまう気がして、あまり大事にとらえる事はやめようと思った。
僕のそんな態度のおかげか、いや、二人でそう努力したお陰か、僕と海斗はあまりギクシャクする事はなかった。でもその日の夜は、何となく海斗が僕の胸を吸った時の気持ち良さを思い出してしまって、中々眠れなくなったのは内緒だ。
数日後、いつもの様に第二校舎でお昼ごはんを食べ終わった後、海斗が唐突に僕に聞いてきた。
「…この前の困り事、治ったのか?」
実はあの直後、次の日ぐらいまで、僕は疼き自体を忘れた。効果あったんだ。
「…治ったと言えばそうだし、治ってないっていのも本当かな?」
海斗は訳がわからいという顔で僕を見つめた。うん、そうだよね。僕は少し恥ずかしい気持ちで説明した。
「次の日まで敏感すぎて困る事は無くなったんだ。だから効果あったのかなって。でも、三日目からは時々ウズウズして、困る時があるんだ。…だから治ったけど、治ってないってこと。」
僕は何となく海斗に治ってないって言うのが恥ずかしかった。まるで僕がもっとあの事をして欲しいって、おねだりするみたいに聞こえないかなって心配だったから。
するとしばらく黙りこくっていた海斗が、僕から目を逸らして言った。
「…じゃあ、また痛くしてやろうか?でも学校でするのはダメだ。…今日の放課後、俺の家来るか?困ってるんだろ?」
僕は今、海斗の家に来ている。海斗の家は、僕の家の二つ先の駅近高層マンションだった。僕は何だか妙な緊張感で海斗の後から家に入った。
「お邪魔します。あの、お家の人は?」
海斗は冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出してグラスに注ぎながら、言った。
「あ、うち共働きで、帰るの遅いから大丈夫。」
…何が大丈夫なんだろう。僕はどんどん緊張してきたので、色々考えるのはやめた。海斗は僕にグラスを渡すと自分はひと息に飲み干した。そしてふうっと息を吐くと、こっちだと自分の部屋へ先に歩いて行った。
海斗の部屋は僕の使っているベッドより少し大きめのベッドに、机と壁に掛かったテレビ、出窓の観葉植物と、シンプルながらモノトーンでまとめられた居心の良さげな部屋だった。
僕は思わず親友の秘密を覗いた気分でニコニコして、出窓に飾られているハスキー犬の写真を見つめた。
「それ、クロ。俺が中学生の頃に死んじゃったんだ。それから直ぐに親の転勤でこっちに来たから、もう犬は飼わないかもな。」
僕はペットは金魚くらいしか飼ったことがなかったので、じっと海斗とクロの一緒に写っている写真を見つめた。
「可愛いね。僕は犬飼ったことないけど、時々ハスキーとか大型犬のDotube見たりするんだ。ふふ、海斗も可愛いね。小学生の頃かな?」
そう言ってベッドに座っている海斗に目をやると、そこには僕をじっと見つめる海斗がいた。僕は一気に体温が上がるのを感じた。
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