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第28話 海斗のまなざし

「何かさ、最近あの二人仲良すぎでしょ。」 クラスメイトのそんな声が耳に入ってきて、僕はギクリと身体を強張らせた。何気ない風を装って其方を伺うと、クラスの他の男子生徒と女子生徒が仲良く話しているのを見て噂したみたいだった。 僕はホッとして、肩の力を抜いた。 目の前の海斗は、そんな僕をじっと見つめて言った。 「洸太の心配する様な事にはならないから。…誰もそんな事思いもしないよ。」 そう言うと、購買で買った焼き肉弁当をバクバクと食べ続けた。僕はため息をつくと、やっぱり一緒に買ったカツサンドをモソモソと食べた。 「そうは言ってもさ、海斗は大丈夫でも僕が、その、出ちゃうんじゃないかって思うから。…気持ちが。」 海斗は箸をぴたっと止めると、しばらく僕の方をじっと見ている様だった。僕は自分で言った言葉が恥ずかしくなってしまって、顔を上げて海斗の顔を見られなかったんだ。 するとまた海斗が箸を動かして食べ始めたのが分かった。僕は少しホッとして、チラッと海斗の方を見た。海斗は弁当を馬鹿みたいな勢いで食べ続けながら、僕を睨みつけていた。 「…何?」 僕は海斗の眼差しの強さに動揺して、目を合わせることが出来なかった。僕はそっぽを向いてカツサンドを食べ続けた。もはや味など分からなくなってしまった。好物なのに…。 「洸太、さっさと食べろよ。俺をこんな気持ちにさせといて、このまま授業なんて受けられないから。責任とってもらうから。」 僕は、ドキドキと心臓が速くなるのを感じた。ああ、もう限界! 僕は少し残ったカツサンドを袋に放り込むと、手元の無糖紅茶をゴクゴクと飲んだ。慌てて飲んだせいで、少し咽せてしまった。海斗は僕の肩を叩くと耳元に口を近づけて言った。 「…行こう。」 ゴミを手に立ち上がった海斗は、僕に背中を見せながら教室の出口へと向かった。僕もゴミを手に取ると出口近くのゴミ箱に放って、先を歩く海斗の後を小走りで追いかけた。 僕たちは無言で、海斗に連れられるまま、ひと気のない第二校舎の資料室へと連れて行かれた。ここは選択授業でしか使われないから、お昼のこの時間は人が来ない場所だ。 鍵をポケットから取り出した海斗は、資料室を事もなげにガラリと開けると僕の手を引っ張って連れ込んだ。 「…鍵、どうしたの。」 海斗は僕を抱き寄せると、にっこり笑って甘くささやいた。 「これ?前に先生に地図の片付け頼まれた時に、ちょっと借りたんだ。…スペアキー作った。」 僕が目を見張って海斗を見つめると、海斗は僕を欲望に滲んだ眼差しで見つめて言った。 「二人だけになれる場所探しとくって、言ったろ?」

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