35 / 120

swear;35;都

先生の手を握って、引き寄せた。 だってこんな機会絶対もうない。 偶然会って、一緒に雨宿りして、濡れちゃった髪を拭いてもらって、サンドイッチとドーナツを半分こして、手をにぎにぎされて、 好きすぎるーーーー!!!ってなるじゃんこんなの。いろんな理屈をぶっちぎって、好きなもんはすきじゃーーーー!!!って 差し出された手を見た瞬間に先生の顔を見て、中でもその唇が目についた。あ、キスしてみたい。初めてそう思った。 で、引き寄せたはいいものの、そんな勇気はなかった。 中途半端にぬるーっと先生に抱きついた。 ………最悪。ださすぎる。 でも先生はいいにおいがした。甘いにおい。 「あー……渡辺君はハグが好き?」 「え?」 「ほら、前に桂としたって言ってたから」 「あ、あー」 それとこれとは違う。 桂先生はほら、筋肉質だから。自分にないから興味があったってこと!ぎゅーってされてみたいなーって!優しい顔だしね、桂先生。 「渡辺君とこうしてみたいって思ってる女の子、たくさんいるんじゃない?抜けがけしちゃったな」 ぽんぽん、と背中を叩かれた。 体が離れる。 先生のほっぺを手のひらで包んだ。ほっぺっていうか、耳まで?首筋も?それから顔を近づけた。鼻がちょっと触れ合う。ここまでしたんだから行け!って頭の中ではっきり言って、キスをした。気合い入ってたけど、ひよっててすごい緩いキスになった。ゴツンって当たっちゃうよりいいじゃん、初めての割に上手じゃん! ……なんて思ってる反面、なんて気持ちいいんだろう、柔らかいし温かいし、いいにおいするし!少し唇を動かして、下唇を挟むみたいにしたり、ただ押し付けてみたり、すぐには離れられなかった。ちょっとの間そういうことを繰り返して、理性が『いい加減にしろよ!』ってアラートみたいな感じで、だから、そっと離した。でも名残惜しすぎて、ゆっくりゆっくり離した。 はー、ってゆっくり吐き出された先生の息の音とか温もりを感じた。 手のひらを先生の顔から離した。 体勢を戻して、先生の顔を見た。 むちゃくちゃ顔が赤くなって、目がきょろきょろ動いている。 「あ、あ……」 先生はやっと声を出したけど、言葉になってない。 「あの…わ、渡辺君は、こういうこと、よく、するの?」 「いや、初めてしました」 「え!!……わ…ぼ、ぼく、も」 「…え?」 「僕も、初めて」 「え!!!嘘でしょ…」 先生は手のひらで口元を抑えた。顔はずっと真っ赤。本当なのかも、本当に初めてしたキスが、俺と! 「…先生、本当ですか、」 小さくこくこく頷いた。 先生のことをもう一回抱きしめた。 「う、」 「最高じゃん……」 「どうして、渡辺君、」 「好きだからです」 体を離して、先生の顔を真正面から見た。 「初めて好きになった人が夏目先生です。でも、告白するつもりとかなくて」 先生は俺よりも少し背が低い。 だから上目遣いでぱちぱち見られると、ぱちぱちに比例するみたいに心臓がばくばくした。 「だけど今日こうやって会っちゃったら、歯止め、きかなかったです」 ……この後、どう言えばいいか分からなくなった。 「夏目先生」 「は、はい」 「僕は先生が好きです」 大概このまま付き合って下さい、って言うんだと思う。だけど今じゃない。こんなことしといてあれだけど… 「一生、今日のことは忘れません」 「…衝撃的だもんね、」 「先生のこと一生好きだと思う」 「おお…」 「これからもずっと好きです」 「………?」 「以上です」 「!!」 先生はゆるゆる笑い出した。 「なんか、あはは、不思議な気持ちだな」 こんなかわいい笑顔なんだな、と思った。 ここまで笑うことって、授業じゃなかなかない。…なんていうか、思い切りまた抱きしめたくなる。 「こういうときって相手の気持ちを確かめたくなるものなのかなあ、って思ってた」 「そうですね」 「だけど、以上って言われた!はは、おもしろい」 「あ!ふざけてるとかじゃないです。本当にずっと好きです。だけど、先生の気持ちを聞く勇気ないし…とにかく俺は、ずっと先生のことを好きな気持ちに変わりはない、それだけだなって思って」 先生は少し俯いた。 「……なんかすごく不思議」 「怒らないんですか?生徒だし、男だし」 「あー……」 ゆっくり顔を上げて、少し怒ってる風。 「こらっ」 ちょっと分かってなさすぎる。そういうのをあざといって言うんだ! 好きだって言ってる俺の前でこんなことする? かわいすぎるからほんとやめてほしい。 唇突き出てる!!

ともだちにシェアしよう!