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anxiety Xmas;64;環

テニスコートに行く前に、一旦眼鏡を外して目元を押さえた。 すっきりしたなんて嘘だ。 全然引きずってる。 もやもやした気持ちは悲しみとか怒りとか無力さとか、そういうのにぐにゃぐにゃかたちを変えながらわたしの体の中に留まり続けている。 息を大きくひとつ吐き出して、眼鏡を掛け直した。それから前を向いて、胸を張って風を切って歩く。もう暗いけれど、テニスコートの照明は真っ白で眩しい。部員の子たちが動くのに合わせて、影がたくさん動いている。 「お疲れ様ー!」 わたしに気がついた部員たちは、こちらにやってくる。 「関野先生、もう少ししたら来るんだけど、もうワンセット基礎練して下さいとのことです」 「えーーー」 「何事も基礎が大切でしょ?できるできる!がんばれーっ!」 おー!って気合いを入れて、またコートに広がっていく。 なんか、わたしも一緒にやりたい気分だな。 今日はあれだけど、明日はソノちゃんたちとジムに行こうかな。土曜だし。 コートの端のベンチに座った。 桂が来るまで待ってよう。それから少し仕事進めて、竹井と一緒に上がろう。 今夜も1人になりたくない。 竹井と別れたら、ソノちゃんちに行きたい。 だけど今日は桂と過ごすかもしれないな。だとしたらどうしよう?一旦着替えて、また外に出てうろうろするか… 「夏目先生」 背中側には背の高いフェンスがある。 「……渡辺君」 振り返った。 フェンスに手を掛けて、渡辺君は立っていた。 ひとつ隔たりがあるだけで、なんとなく向き合っても大丈夫なような気分になる。 「先生、あの、」 「僕は先生で、渡辺君は生徒だよね」 終わらせなきゃいけないと思った。 「文化祭のとき色々、話したけどでも、なかったことに、しよう」 「……なかったこと」 「うん。ごめんね、僕が悪い」 「キャンセルは受け付けないって言いました、俺、あの時」 「…ごめん」 「待っててって話です。先生と生徒ってあと3ヶ月だしそれに、」 「ごめんなさい」 もうこれ以上は話せないと思った。 目も合わせられない。姿も見られない。 話せば話すほど、泣きそうだし、未練がましくなりそうだった。それに、指輪つけてただろとか、他に相手いるんじゃんかとか、ネチネチしたようなことを言ってしまいそう、とも思った。それだけは避けたかった。 「また、授業で」 もう行ってくれ〜!!って、心の中でぐしょぐしょに泣いてるわたしが叫んでる。 好きだったよ、 夢見てたよ恋人になれることを、 顔を上げて、フェンス越しに渡辺君を見た。 ものすごい好きだと思った。 だからもう、これ以上渡辺君のことを知りたくないと思った。 「分かりました、さよなら」 渡辺君のきれいな手がフェンスから離れたときに、指輪をつけていないことに気がついた。 聞けばよかったのかもしれない。 けど、もう今更だ。 彼は行ってしまった。

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