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anxiety Xmas;63;桂
練習に行く前に職員室に寄った。
環は眼鏡をかけて、デスクに向かっている。
「たま…」
「関野」
後ろからぐいっと引っ張られた。竹井だ…
「なんだよ」
「今日はそっとしといてやって」
「なんで?」
「なんかあったらしい」
「すごい漠然とした理由だな…」
「でもあんな夏目初めて見たんだよ…心配になる」
「竹井もそんな優しい心があるんだー!目覚めたの?優しさに」
「俺は元から優しさの塊でしょうが」
「カタマリ…?」
「カタコトで言うなよ」
竹井は笑いながら背中をバシバシ叩いてくる。
「とりあえずさあ、仕事上がったら軽く飲み行く?って聞いたらうんっつってたし、何があったか探り入れてくるわ」
ここにきて竹井の優しさがネックになるとは思わなかった…
「桂」
「おー、お疲れ」
環がこっちに来た。眼鏡で若干分かりにくいけど、目元が腫れぼったく見える。
「今から行くの?」
「うん。コート行ってくる」
「一緒に行っていい?」
「いいよ。行こっか」
「行ってらっしゃい」
竹井に見送られて、部室に向かう。
「今日は竹井と飲みに行くんだって?」
「うん。なんか誘われたから、ちょっとだけ行こうかなと思って。なにげに初めてかも、2人で飲みに行くの」
「そっか」
「あー……ソノちゃんからなんか、聞いたりした?」
「うん、聞いたよ」
「そうだよね、」
部室に入った。
学生たちのごちゃごちゃしたロッカーの前を通って、自分用のロッカーの前に行った。
環はベンチに座った。
「着替えても平気?」
「うん、平気」
カーテンを閉めた。
「桂は、恋愛がうまくいかなかったことある?」
「あるよ。他に好きな人ができたって振られたこともあるし、執着されすぎてうまくいかなくなって振ったこともある。色々だよ」
「桂でも、そんなことになるんだ」
「なるよー!そのさんとは穏やかにずっと一緒にいられたらいいけど」
「ソノちゃんと桂は、絶対大丈夫だよ」
「だといいな。環は?」
「わたしは、…いつか、王子様が颯爽と現れたらいいなー!絶対ないけど」
着替えを終えてカーテンを開けた。
環は眼鏡を外していた。やっぱり、なんとなく目元が腫れぼったく見える。
「都じゃだめなの?」
「……先生と生徒だし。すごい歳離れてるし」
「何歳差だっけ?」
「8歳」
「…今からする話、そのさんには絶対言わないでほしいんだけど、約束できる?」
環はこちらを見て、小さく頷いた。
大学の1年の頃に、カフェでバイトをしていて、そこの社員だった女性を好きになった。
いくら好意を伝えても初めは笑ってあしらわれていた。「何言ってんの関野君!」って肩を叩いてくる彼女を、今もなんとなく思い出すことができる。
かなり強引に、押しに押して連絡先を交換して、デートに誘って、何回も何回も告白するうちに彼女は折れた。
いいよ、付き合おうか。そう言ってキスをした。
「その彼女、9歳上だったよ」
「え!え、」
「俺が19で、彼女は28だった」
「すごい…!」
「残念ながら最後は振られて終わったけどね」
「どうして?」
「結婚願望のある人だったから、付き合ってるうちに俺が社会人になるまで待てないなって思ったんじゃないかな。卒業した時には、彼女は30超えるでしょ?待つほどの価値が俺にはなかったんだと思う」
「……その人、惜しいことしたね」
「そう?なんか嬉しいねそう言われると」
「今の桂見たら、きっとむちゃくちゃ悔しがるよ」
「そうかなあ?当時は勢い余ってプロポーズしてたけどね」
「えーーー!!」
「絶対そのさんには言わないでね。なんかほら、そのさんの怒ってる姿好きなんだけど、取り返しつかない怒り方されたら怖いから」
「分かった。絶対内緒」
「よろしく。まあなんだ、だから、好きって気持ちに年齢はあんまり関係ない気がする。その彼女みたいに気にすることはいくらでもできるけど、少なくとも俺は気にならなかったな」
環の隣に座った。
「都に聞いた?彼女できたの?その指輪はなに?って」
「ううん、聞いてない…そもそもね、ふたりで会ったりとかは全くしてないよ。文化祭の日以降」
「え、なんで?」
「だって、先生と生徒だよ?だめだもん。卒業まではちゃんとその関係を保ってたいから」
真面目。
環は本当に真面目!都もそう。
「じゃあ聞かないまま諦めるってこと?」
「そうだね…先生と生徒、年齢差、わたしの見た目、色々…聞くまでもなく、そもそもが無理だったんだって、自分なりに…諦める理由はたくさんだから」
「それでいいの?」
環は顔を上げた。
「うん。いいや!もう、なんか昨日今日と考えてるうちに、よくなっちゃった!桂に聞いてもらったら、更にすっきりしてきたよ!」
……めちゃくちゃまずい。
「竹井もいいタイミングで誘ってくれたなー。なんか楽しみになってきた!先々に楽しみがあると、考えなくって済むからいいね」
竹井の優しさが本当に仇になってる!!
どうしようほんと…
「ごめんね、色々話してたらこんな時間!」
「待って!……あー…あれだ、ちょっとコート行ってさ、もうワンセット基礎練してって言ってきて」
「わたしが!?」
「顧問でしょ?俺もうちょいしてから行くから」
ちょっと怪訝そうな顔で眼鏡を掛け直した環は、部室を出て行った。
そして即座に電話する。
「そのさん!!」
『おー、どうだった?』
「だめだ、環はもう気持ち切り替えようと必死みたい。しかも今日この後竹井と飲みに行くらしいから、保健室寄らないと思う」
『そっか…』
「都から動いた方が早い、」
『もう行っちゃったんだ、コートに』
「え、そうなの?」
『我慢できないって。もうあとは知らない!』
「そうだね、お節介終わり!」
また仕事終わりに、と言って、電話を切った。
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