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幸多き年でありますように…

「今年は色々とありがとうございました...って、もう年が明けちゃうよ」 大晦日にバスルームやベッドで盛り上がり、ハッと気がついた時はもうあと少しで年が明ける時間になり慌てた。 結局その後、急いでキッチンに入り蕎麦をゆでたり、つまみを作ったりし、リビングに到着した今、テレビの中では除夜の鐘をついている映像が流れている。 キッチンでは十和田も手伝ってくれたが、隙があればちょっかいを出してくるので 中々進まなかったのは事実だ。 でも、まぁそれはそれで楽しかった。 「はい、お蕎麦食べましょう。来年もよろしくお願いしますね、大誠さん」 「今年も愛してたけど、来年も愛してるよ。千輝」 キッチンにいる時から日本酒を飲んでいた十和田から愛の言葉をもらう。もう既にほろ酔いだと思う。 ほら、食べて食べてと十和田を急かす。お蕎麦と一緒に日本酒が飲めて幸せそうであるが、このままだと飲み過ぎて早々に寝てしまいそうだ。日本酒の後はアイスワインがあるのに。 「あっ、ほら、年が明けた」 食べてる途中に年が明けたのがわかった。テレビからは「あけましておめでとうございます!」と元気な声が聞こえている。 千輝!と大きな声で呼びながら抱え上げられ、ソファにボスッと横にされた。 「今年もよろしく…」 「ふふふ。今年もよろしくお願いします」 キスをすると甘い日本酒の味がした。 年明けも慌ただしく楽しい。 ◇ ◇ 「あっ、新年だぞ!年が明けた」 「おい、暁斗。ちょっと集中しろよ…今、大事なとこなんだから」 ゲームをしている最中に年が明けたようだ。相変わらずバックハグをしながらゲームを一緒にしている。 本当はもう既に暁斗はゲームが上手くなっている。ひとりでしても、そこそこ出来るようにはなっているはずだ。 でも、そこはあえてお互い何も言わず、まだ二人でくっつきながらしている。 「よし、これくらいにしといてやるか!」 「なんだよ、その態度。負けたくせに」 クククと簾が笑いながら暁斗の横顔に話しかけた。 「年が明けたから、アレ飲むか?」 簾の前に座っていた暁斗がヒョイと立ち上がり、キッチンからアイスワインを持ってきて、簾の前にまたスッと座り直した。 家の中では自然なこの行動は、二人の新しい関係が更新されている感じだ。 「これは、お前の分な」 暁斗はそう言いながら、二人分のグラスにワインを注いでいる。 暁斗からアイスワインを飲もうと言われるは珍しい。十和田の言葉を思い出し、嬉しくて、後ろから抱きしめている手に力が入る。そのまま簾は暁斗を振り向かせキスをしてしまった。 「…あっぶないだろ!やめろよ。ワインが溢れるって…もう、まだ飲んでないだろ」 ワインを飲む前なのにキスをしてしまう。 アイスワインのせいでもなく、酔っているからでもなかった。 素面でキスをしてしまい、まずいと思ったが、暁斗はサラッと受け流してくれている。わかっているが、知らん顔してくれている。顔は赤くなっていてかわいい。 「…アイスワインだなって思ったら…してた。ごめん…」 キスしたことを謝っているのか、もう一度やり直しさせて欲しいから謝っているのか、簾は自分でもわからない。 「あははは。ほら、いいから飲めよ。はい、今年もよろしくお願いします」 「…今年もよろしくお願いします」 二人で乾杯してコクリとワインを飲む。それは蜜のような甘さのワインだった。 グラスをテーブルに置き、暁斗を対面に座らせ、今度はゆっくり暁斗にキスをした。まだ飲み始めたばっかりだが、暁斗もキスに応えている。 飲んだらデレデレに可愛がれと、十和田に言われた通りに実行したい。 暁斗の手も、簾の首に回される。 アイスワインを飲み、キスをするのを交互に繰り返す。 特別言葉では何も伝えていないけど、キスをしては、顔を見合わせて笑い合えるようになった。 ◇ ◇ 「おい、鈴。寝てんのか?寝るんならベッド行けよ?」 工藤が鈴之典に話しかけた。大晦日の夜から頑張って起きているようだが、本人は、うつらうつらして眠そうである。 「いや、俺は起きている。大馳こそ寝ていただろ?」 「お前、何言ってんの?俺はお前を見守ってんだよ。寝るわけないだろ。ほら、いいから寝ろよ。今、完全に寝てたぞ?」 「やだ。カウントダウンしたい。テレビ見たい」 鈴之典の家である東京の高層マンションから、都内の夜景が見える。大晦日の夜なのでいつもより、交通量は少ないみたいだ。 「あっ!ほら、もうすぐ年が明けるぞ。何か飲みたい。大馳、酒飲むか?」 「ダメ。俺は勤務中だぞ。だから飲めない。それに、お前は酒飲めないだろ」 「今日くらい、いいじゃないか。それに、俺は酒くらい飲めるぞ。知らないんだな、大馳は」 鈴之典は酒が飲めるというが、以前少し飲んでは眠くなり、すぴすぴとイビキをかいて寝ているのを工藤は知っている。 酒には弱いようだが、本人は認めたくないらしい。そんな話をしていたら、鈴之典は目が覚めてきたようだった。 工藤はキッチンに行き、熱い紅茶を入れてあげた。それにミルクをドバドバと入れたので少し緩くなる。鈴之典は『大馳の緩い紅茶が好きだ』とよく言っていた。 「なんで急に酒飲むなんて言うんだよ」 紅茶を渡しながら工藤が鈴之典に尋ねる。 「だって、カウントダウンには酒はつきものだろ?恋人同士は二人で見つめあって、飲みながらカウントダウンするんだ」 「お前のそれ…古いんだよ」 鈴之典の小説は読んだことがないが、世間では大人気らしい。それは知っている。だが、本人は恋愛経験がほぼ無いため、口に出して言うことは、ことごとく古い情報ばかりだった。 「古くない!きっとみんなそうしてんだ!大馳は知らないんだよ。あっ、そうだ。千輝に聞いてみようかな。今電話してもいい?」 「いや…やめとけよ、あいつら何やってるかわかんないぞ?」 そんなことを話している間に、テレビの中ではカウントダウンが始まっていた。 「あっ、大馳!もう新年になるぞ」 5、4、3、2… 「わー!大馳!あけましておめでとう」 「…あけましておめでとう。鈴」 言葉遣いと態度にギャップがあるから、鈴之典を見ているといつも笑ってしまう。カウントダウンが出来たといい、はしゃいでいる鈴之典は可愛らしい。 「千輝に電話すると十和田がうるさいからな…よし、じゃあ十和田の方に電話してみよう。で、出なかったらセックス中ってことだから諦める。もし電話に出たら、酒飲んでキスしたか聞いてもいいよな?」 「うわ…あいつ、嫌がりそう…」 工藤がそう言うが鈴之典はお構いなしに電話をかけていた。きっと、十和田は出ないだろうと、紅茶を飲みながら鈴之典を見る。工藤も最近は緩い紅茶が好きになってきている。 「…っ、あっ、十和田?あけましておめでとうございます」 工藤の予想に反して十和田は電話に出ていた。工藤は鈴之典の携帯をスピーカーにし、十和田の声も聞こえるようにしてあげた。 「加賀?何だよ、新年早々に電話なんて…」 「千輝は?いる?」 「は?いるよ隣に。当たり前だろ…なんだよ、用はないだろ?」 「千輝!あけましておめでとうございます」 礼儀正しく鈴之典は挨拶をしていた。 相手もスピーカーにしているのだろう。千輝の笑い声が聞こえてきた。 「鈴さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」と、明るい千輝の声がする。 「なぁ、十和田、カウントダウンってした?新年になる前に、酒飲んで二人でカウントダウンするよな?」 「カウントダウン?しねぇよそんなの。酒は飲んでるけどよ。今日は千輝が日本酒でいいって言ってくれたから…気がついたら新年だったよな?」 最後は、千輝に確認のように十和田は聞いていた。千輝の声が後ろから「そうですね」と言い少し笑っているようだ。 十和田と千輝は、上手くいっている様子が電話越しにでもよくわかる。 「慌ただしくってよ。風呂入って、色々して、また風呂入ってってやってたら、後ちょいで新年になるって、千輝が慌て始めて…それから、蕎麦茹でたりして…」 十和田が大晦日の様子を話し始める。その後ろで千輝が「ちょっと!」と大声を上げていた。 バカップル全開だ…恥ずかしくて聞いていられない。何をやっていたか工藤にはわかってしまったが、鈴之典には伝わらなかったらしい。ふんふんと、相槌を打っている。 鈴之典は明日、千輝の店に遊びに行く約束をし、電話を切った。 「…十和田だからそんなことしないのか。千輝はロマンチックなカウントダウンして欲しかったはずなんだけどな…デリカシーない男だから、見つめあってキスなんてしないか。あいつは」 「似たようなことはやってんだろうけど、鈴が言うような、ロマンチックな感じはそんなに、みんなやらないんじゃないか?」 「そうか?聞いた相手が間違いなのかもな。それに、十和田が電話に出たってことは、セックス中じゃなかったんだな。これからロマンチックになるんだろうか…あっ、そうだ暁斗にも電話しとこう。あいつは簾とゲームしてるって言ってたから…」 鈴之典は、今まで仲がいい友達は出来なかったようだ。この前、十和田と千輝に会いに行ってから頻繁に連絡を取っている。 千輝や暁斗と話をするのが楽しくてしょうがないみたいだ。初めて出来た友達のようなものだろう。 「暁斗、出ない…」 電話をかけてみるが、暁斗は出なかった。 「若者だから、大晦日にどこかに出かけてるのかもな」 いつもこの時間はゲームしているはずなのにと、つまんなそうに鈴之典は呟いていた。 「ほら、もう寝ろよ。明日千輝ちゃんの所行くんだろ?だからまた聞くこと準備するんだろ?俺も手伝うから」 「うん、ありがとう。大馳、今日はここで寝てもいい?」 最近、鈴之典はベッドルームではなく、リビングに寝ることが多くなった。リビングは、工藤が寝起きしている場所だ。 工藤は24時間、鈴之典を護衛する仕事だからリビングに常駐している。そこにわざわざ鈴之典は布団を敷き寝ている。工藤の隣に布団を敷き寝るのは、修学旅行みたいで本人は楽しいらしい。 「大馳…明日早く起こして…聞くこと考えるから…」 「OK、起きたらやろうな」 布団に入ったらすぐ眠くなったようで、小声でボソボソと話していたが、その後は寝息が聞こえてきた。 工藤はその後、報告書を書きながら寝ている鈴之典を見ていた。 ◇ ◇ 「大誠さん、アイスワイン飲む?」 千輝がアイスワインとグラスを二つ持ってリビングに来た。自ら飲もうと誘ってくれている。その姿がかわいらしいと十和田は目を細めて千輝を見ている。 「鈴さん、明日来るって言ってましたよね…2日の日だから、店頭販売が終わったら、何か作ってみんなでお店で新年会しましょうか」 「めんどくせえな、あいつ。最近やたら電話してくるし。ごめんな千輝。明日、俺が何か作るから、それを新年会に持っていけばいいよ。千輝は仕事で忙しいんだからよ」 アイスワインで乾杯した。甘いワインは苦手だが、千輝が嬉しそうなので付き合っている。 「よいしょ…」 ソファに座っていたら千輝が膝の上に上がってきた。猫のような行動がかわいい。倒れないようにと、咄嗟に千輝の腰を掴んだ。 「あっ!そうだ」 「なに?なんだ?」 いい雰囲気なのに急に千輝は声を上げ、膝の上から降りそうになる。降ろさないようにとガッチリ腰を抑えた。 「暁斗くんと、簾くんにも伝えなきゃ!鈴さんが明日来るから新年会しようって」 そう言い千輝は携帯を手に取ろうとしている。 「いや、今は遅いから起きてから連絡した方がいい。それに加賀から暁斗に連絡はしてるはずだよ」 「ま、そうか。だよね、遅いしね」 アイスワインを買っていた簾を思い出す。 まさか簾の相手が暁斗だとは思わなかった。気がついた時、びっくりして思わず声をかけそうになってしまった。 上手いこと出来ているのだろうか。電話やメッセージで雰囲気が壊れないように、千輝にもやんわりと、あいつらに連絡するのを止めるように伝えた。 ああ見えて簾は不器用だからなと、十和田は考えている。ひとりで突っ走るところもあり、まだ青くさいところもある。 だが、年が離れた弟のようで、何となくいつも気にかけてしまう。新しく始めたいといっている仕事も手助けしたくなる。 あんまり構うと嫌がられると思うので、ほどほどにしているが、簾が十和田に褒められたり、たまに叱られたりしても嬉しそうにしているのはわかっていた。 「こら、大誠さん。何、考えてる?僕のこと見ないとヤキモチ妬くぞ?」 千輝からチュッとキスをされた。 いつもとは立場逆転。十和田の真似をしてそう言う千輝を見て笑った。 もう…と怒る君が好きだよと、口に出しては、まだ伝えていない。 「なぁ、千輝、新年だし?そろそろ今年初めてをしてもいいか?」 「えーっ!そんなこと考えてたの?」 膝に乗っている千輝をそのまま抱き上げて、ベッドルームまで運んで行く。 今年も君をデレデレにするさ。 なんてな。 もしかしたら、俺も君にデレデレにされてるのかもな。 なっ? 俺の好きな人。 end

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